第3話 野球部期待の☆、優男エースを救え。②

ヤリチーン、もとい田辺の行動を観察していたがこの日は特に行動を起こす事は無かった。 部活に行かれたらどうしようかと思っていたが、昨日の体調不良の事を考えて今日は休むらしい。

駅までの道を俺は田辺と歩いた。 メガネを通して見た姿が変化してしまった以外に、なにか変わってしまった事がないかそれとなく調べるためだ。しかし俺は何も分からなかった。 昨日までの田辺と同じに見えたのだ。話方も変わってないしリアクションの仕方も変わらない。見た目以外なにも変わってない様に感じ取れたのだ。


気が付くと俺たちは駅に着いていた。別れを告げると俺たちはそれぞれの家に帰るべく別のホームへと向かった。 その時ふとまだ今日発売の〇o〇o〇〇ダークネスの最新刊を買ってない事を思い出し本屋に向かうことにした。


駅内の本屋に向かうとそこには田辺が居た。お目当ての物を既に籠に入れたのかレジに向かっている途中だった。それなりに距離があったが構わず声をかけようとした瞬間、俺の体は硬直した。蛇に睨まれた蛙、とでも言えばいいのだろうか。とにかく俺の体は俺の意思通りには動かなかった。何故かと思ったが理由はすぐに理解できた。それは奴の籠に鎮座していたものが原因だった。籠には漫画が二冊入っていた。一冊はよく見えなかったが恐らく〇o〇o〇〇ダークネスの最新刊なのだろう。問題はもう一冊の方だった。俺の視力は決して良い方ではなく、寧ろ悪い方なのにその本の題名が分かった。


『〇〇〇ざかり」であった。最近青春漫画にリメイクされたらしいがそれは紛れもなく〇〇〇ざかりであった。 その瞬間俺は再び理解した。あぁ、こいつはやはりyrtn-ウイルスに感染してしまったのだと。 


昨日までの田辺は確かにNTR物を嫌っていた筈だった。別に俺程拒絶していたかというとそうでもないが、好き好んでNTRを見るような奴ではなかった。その証拠に前に幼馴染物のハートフル系同人誌だと思って買ったらNTR物のハード脳破壊系同人誌だった時はちゃんと泡を吹いて倒れていた。


俺は結局田辺に声を掛けずに奴が去った後に本屋に行き目当ての物を購入し、その後帰宅した。そして課題をやり飯を食い歯を磨き、満を持してパソコンの前に座った。あの空間に行ける証拠は何もなかったが、こうすれば行けるという確信だけが胸の中にあった。 

電子の海を漂い始めて30分ほどしただろうか? また画面がグニャリと歪み俺は吸い込まれた。やっぱり神威みたいだなと思った。


気が付くとまたあの空間に俺は立っていた。

「そろそろ来る頃だと思ったよ。」

そんな声が聞こえてきた。俺は声の主の方を向くと挨拶もそこそこに話を始めた。

「なぁ、あいつは助かるのか? ウイルスに感染しちまったら一生そのままなのか?」 俺が尋ねるとおじさんは優しい顔で返してきた。

「対処が遅くなってしまうとそうなってしまう事もあるが、今回は大丈夫さ。心配ない、僕が保証するよ。」

「良かった…。 でも対処が遅れるとダメって一体どれぐらい遅れたらアウトなんですか?」

「大体yrtn-ウイルスに感染してから1年だね。 そうなってしまうと対処出来たように見えてもウイルスが体に残ってしまっていてどんな時も頭の片隅にNTRの事が離れられなくなってしまうんだ。」

改めて俺はこのウイルスの恐ろしさを知った。一日中NTRの事が頭から離れないなんて、そんな生活俺には耐えられない。そして誓った。必ず田辺を救ってやると。


田辺の脳みそがすぐには破壊されないことが分かり安堵した俺だったがもう一つ気になることがあったのでおじさんに改めて聞いた。

「それで対処の方法なんだけど…、もしかして殴ったりする感じ? 俺そしたら勝てないよ?」

「そりゃ肉体的な力が必要になる時もあるかもしれないが今は違う。 それにねアキラ君、奴らyrtn-ウイルス達は中々表層に出てこない。奴らを表に出すには感染者によって違うんだ。だから何が正解で何が不正解かなんて言うのはここでとやかく言えることじゃないんだ。」

成程…、確かにそうだ。治療法が確立されているなら俺なんかに頼らないでその方法を実行すればいいだけだもんな。

「でもその時々でのベストな行動なんて分かるかな…。」

「うーん…、僕がアドバイス出来たら早いんだけどね…。 あ、そうだ!」

おじさんはそう言うと俺の方に歩いてきた。 その体型からかなりキツイ体臭を想像していたが、意外にフレグランスな香りだった。

「フ~…。」

この野郎いきなり耳に息を吹きかけてきやがった。

「アッ…。」

普段ASMRで鍛えられ、耳の感度が至高の領域へと到達しつつある俺は情けない声を上げてしまった。 いったいどういうつもりなのか。場合によっては暴力に訴えなければならない。しかし俺は次のセリフを言う事が出来なかった。

前回同様また気を失ったからだった。


自分の部屋に戻ってきた俺は明日から田辺をどう救うか考えていた。 

3パターン目を考えている時、耳に自分以外の声が響いた。

「あ―テステス、聞こえますかー?」

「うわぁ!!」

急に囁かれたおじさんの声に俺は驚きを隠せなかった。

「良かった、聞こえてるみたいだね。適合者同士だと一度強い衝撃で繋がると、こんなことも出来るんだね。」

このテストが今来て本当に良かった。もし授業中に来てたら俺の高校生活終わってたかもしれない。

「これっていつでもつながりっぱなしなんですか? それはちょっと嫌なんですけど…。」

「いや、これはお互いが同じことを考えていた時だけ出来るみたいだ。現に君がそっちに着いた頃からテストをしていたんだが、聞こえなかっただろ?」

「成程。それなら良かったです。」

その後俺は少しおじさんと雑談をしてからベットに入り明日に備えた。


翌朝俺はまたいつも通り学校に向かった。 

そしてまた田辺と話していた、田辺をあまり一人にしたくなかったからだ。

授業中も視界の端に居座るヤリチーンに耐え、俺は何とかこの日の授業を耐える事が出来た。しかし体育の授業はどうにかなってしまうかと思った。ペアを組んでボールを投げあっていたのだがヤリチーンが真正面に立っている時の精神への負荷が半端でなく、マジでやばかった。


そして放課後になり田辺は部活に向かった。 今日は俺も後をつけて行った。部室棟の辺りまで来ると田辺はどうやら扉に何かしているらしかった。この前部室の扉の建付けが悪い等と言っていたのでそれを直しているのだろうか。地道な所を火野のカノジョに見せ好感度を稼いでいきNTRするつもりなのかもしれない。 NTRは防がなければならないが今田辺がしている事は普通に良い事なので邪魔するのはやめた。

「やっぱり感染したからってなにかひどい事をアイツが他の誰かに出来るわけないよな…。」

俺は田辺が何か違法ギリギリの事をするのでは?と勘ぐってしまっていたので少し反省した。 結構時間がかかるみたいなので俺は少しトゥイッタ―を巡回することにした。するとTLが騒がしかった。見てみるとある作品のアニメ化が決まったらしい。それは俺も田辺も見ている作品だったので田辺にも教えてやることにした。

「おーい、田辺!こっち来てくれ!ビッグニュースだぞ!」

俺の声に気が付くと田辺は困った様な顔をしていた。一応部活中だからなのだろうか、こっちにあまり来たがっていない様子だったが俺があまりにもしつこいので折れて来るようだ。

「なんだよ一体、俺今用事あんだけど…。」

「まぁ落ち着け、なんとな? 〇〇のハーレムがアニメ化するんだってよ!?」

「え、まじで!? あれをアニメ化するのか…。」

俺からのビッグニュースに田辺は最初驚いていたがすぐに元に戻ると、部室まで戻ろうとした。俺がキャストの話をするため引き止めようとした所、部室棟の方からドゴーン!の様な大きな鈍い音がした。

見てみると野球部の部室の扉が外れて倒れた様だ。開けた張本人である火野は思わぬ出来事に驚いていた。そりゃそうだろうまさかこんなことになるなんて20秒前の誰もわかっていなかったんだから。


幸いにも今回の事故でけが人は誰一人いなく、部室の扉は後日業者が来て直すらしい。 この出来事に田辺は顔を曇らせていた。そうなるのも無理はない、何故なら扉が倒れた場所はちょうどさっきまで田辺が居た場所なのだ。俺なら恐怖で少しちびってる。

「良かったな!ちょうど居なくて。感謝しろよ?俺と〇〇のハーレムによ。」

「あ、あぁ。そうだな。感謝するよ畑山…、こんどなんか奢るよ…。」

「良いってそんなんw。」 

平然とした顔で田辺と会話していた俺だったが、今の対応で田辺が何をしたか、そして何をしようとしているかも俺は大体分かってしまった。


田辺と別れ帰路についた俺はグラウンドの前を通り、練習中の田辺の姿を見つけた俺はボソッと独り言を口にした

「パターンBか…。」と。

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