第2話 野球部期待の☆、優男エースを救え。①

スタートガイドに書いてあることを要約するとこんな事が書いてあった。

・一番の目的はyrtn-ウイルスの発生元である人間を突き止め、これ以上のウイルス増殖を防ぐこと。

・また、その過程で出会うyrtn-ウイルスの感染者の発見、処置。

・NTRと戦う為の力、対処法はその時になれば自ずと分かるからよろしく。

そして赤文字でこんな事も書いてあった。


・『感染者も被害者である。』この文の意味は後に分かることとなるだろう。と


ざっとこんな感じだった。知りたい事が載ってるんだか載ってないんだかいまいち分からないが、そんなすぐに感染者に出会う訳は無いので追々知っていけばいいか。

そう思った俺は明日の授業の用意をして寝ることにした。準備が終わり時計を見て見るともう1時を周っていた。

「もうこんな時間なのか…。」

俺はそうつぶやくとベットに入って目をつぶった。今日、というかつい先程色々な事が一気に起こったので寝れるか心配だったがそれは杞憂に終わった。

流れでNTRブレイカーなんて者になってしまったが、明日もこれまでとあまり変わらない日だろう。俺は眠る時そんな甘いことを考えていた。

しかし現実は違った、俺は翌日から自分がNTRブレイカーになったのだと自覚せざるを得なくなっていくのであった。


翌朝、俺は普段通り7時20分に起床し、朝ご飯を食べ身支度をし、普段通りに通学路を歩いた。 駅は人が多いので何かしらの変化があると思い身構えていたが、特に何もなかった。肩透かしを食らった俺は電車に乗ると高校の最寄りの駅に降りた。

我が2-9は朝の会が8時半に開始なので、俺は8時19分には着くように学校に来ている。絶対遅刻はしない。何故なら遅れてクラスに入っていくと陽の者なら笑いが起こるだけで済むが、陰の者が遅れると何故か空気が微妙な感じになってしまうからだ。

俺は1年の頃やらかしてしまい、この上ない屈辱を味合わされたので二度と遅刻はしないと心に誓った。

そんなことはどうでもよくて俺はクラスの扉を開けると、まだ朝の会まで10分程あるからなのだろうか、まばらな人数しかクラスにいなかった。ざっと10人程だろうか、それだけしかクラスにいなかった。


俺はカバンの中身を机の中に入れるとクラスでは数少ない喋れる人間である田辺の元に向かった。

「おはよー。今日もだるいな。」

俺がもはや定型文の様になっている挨拶をすると田辺も挨拶を返してきた。

「おっす。お前いつもだるそうにしてんな。」

「寝不足なんだよ。そういうお前だって今日は疲れた顔してねえか?」

俺がそう聞くと田辺は「そうなんだよ、きいてくれよー。」と言い、話を始めた。

「なんかな? 昨日の8時頃なんだが熱が出ちゃってよ。39度も。」

「39? ならお前病院とか行った方が良いんじゃねえか?」

「俺もそう思ってよ? 朝も熱あったら休もうと思ってたんだが朝測ってみたら熱下がってんだよ…。」

「お前それは…、何なんだろうな?」

「なぁ? なんなんだろうな…。」

バカ二人が謎の病状について討論しようと思っても何も出てこなかった。

その後も俺たちは昨日見たアニメがどうだとか、この漫画が面白いだのあの女優は使える等のくだらない話を朝の会直前まで続け、その後各々の席に着いた。因みに田辺は野球部で坊主で170cmである。そして男だ。


俺は一番後ろの自分の席に着いて朝の会を受けた。因みに一番後ろの席だからといって隣の女子にからかわれたり、なんていうことは無い。

俺は日常生活を送るうえでは問題は無いが、黒板に書かれた小さい字等は

読めない為授業中はメガネを掛けている。そのメガネの淵が何故かピンクになっていたが俺は構わずメガネを掛けた。


朝の会が半分程終了した頃、教室の扉がガラリと音をたてて開いた。開けたのは野球部のエース火野だった。身長は175でそこまで高くは無く、そこそこイケメンという感じだが何事にも前向きなスタイルが響いたらしくまあまあな数のファンが居るらしい。そして付き合って半年の彼女もいるとか。そんな彼なので遅刻してきた彼への皆の対応はあたりまえだが、陽の者に対する反応だった。

教室が明るい空気の中、俺は前回遅刻してきたとき周りの反応が俺寄りだった田辺の方を向いて話しかけた。 因みに田辺の席は俺の列の一つとなりの列の後ろから二番目の席だった。


「同じ野球部なのになんでこんなに…。」

俺は言葉を最後まで紡げなかった。何故なら俺が向いた方向には信じられない光景が広がっていたからであった。





田辺の席と思われる所にヤリチンが座っていたからである。

正確に言うとヤリチンの様な風貌をした男が座っていたからである。身長は180cm程だろうか、肌は黒く焼け、筋肉もかなり付きおまけに金髪。そして何よりなんかムカつく顔をしていた。理由は分からないがとにかくムカつく顔をしていた。そんな同人誌の世界から飛び出してきました、というような存在が田辺の席をジャックしていた。

俺は混乱した。この野郎が居るなら田辺はどこへ?またなんでこんな部外者が居るのに担任は何も言わないのか。パニックになった頭で色々な事が頭を駆け巡っているさなか、田辺の声がした。

「なんで途中で止まったんや?」

それは信じられないことではあるのだがこの目の前にいる金髪野郎の口から発せられている言葉だった。

つまりどういうことだってばよ…。 たった数分であの多少日焼けをしていて筋肉質でなかった田辺がこんなバケモンになってしまったとでもいうのか…。

俺は悩みに悩んだ末、ある一つの仮説にたどり着き、実行に移した。


メガネを外してみた。するとヤリチンが居たところには元通り田辺が怪訝な顔をして座ってた。そしてメガネを再び掛けると田辺の場所にヤリチンが居た。

メガネを通して田辺を見るとヤリチンに見える。これが状況から推察されることだった。


田辺には「何でもないんだ。」と誤魔化して俺は休み時間に個室のトイレで悩みこんでいた。そして一つの答えにたどり着いた。

『俺はメガネを通して人を見るとyrtn-ウイルスに感染してるかどうかわかるようになった。』ということだった。そしてそこから導きだされる事はただ一つ。  

田辺は既にyrtn-ウイルスに感染している。という事であった。


その後俺は授業に全然集中できなかったことは言うまでもないだろう。なんせ視界の端にチラチラとヤリチンが映るのだ。気が散ってしょうがない。

なので途中からもう諦めてヤリチン、もとい田辺の様子を観察することにした。もしかしたらその行動のどこかに奴を治療する手がかりがあるかもしれないからだ。

そして俺は昼休みに手がかりになるかもしれない行為を見つけた。


それは火野の彼女がクラスに彼氏を迎えに来た時の事だった。 これまでの田辺は特に火野の挙動に目を光らせていた訳では無いが彼女が来たその一瞬。

目が光った。 そして俺は確信した。こいつが狙ってるカップルはこの火野カップルであり、俺はこのカップルをこのヤリチーンから守らねばならない定めなのだと。



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