足音

早川

足音

 初夏、木々に葉が茂り日差しは強く蒸し暑い季節が来た。

僕は友人の山田と町はずれにある山中を歩いていた。

「山田〜まだ歩くのか?もういいだろう疲れた、」

「おいおい、これからだぞ!こっからは未開の地だぜ」

僕達は探検に出ていた、それも山田の思いつきである。こんな暑い中行きたくないのだが仕方がない、ちょうど勉強に飽きていたところだった。

「こっから先は危なくないか?引き返さないか?」

「早川、ビビってる?」

「まさか、帰れなくなるのが不安なだけさ」

「それがビビってるんだよ」

「うるせぇよ、」

実際に不安だった、踏み込んだことのないけもの道、じめっとした空気、もの静けさが不安を大きくさせた。



 あれから一時間歩いただろうか、気づけば日が傾いてきた、そりゃそうだ昼過ぎから行動しているのだから、すると山田が急に立ち止まった。

「おい、どうした、何かあったか?」

「い、いやなんでもない、もう遅いから帰ろうか」

やっと帰れる、僕はそう思った。そしてまた歩き始めた。

「帰ったらアイスでも食べようか、シャワーでも浴びてさっ」

「・・・・・」

「山田聞いてる?山田〜おーい」

「あ、ああ聞いてるよ!」

山田の様子がおかしい、具合でも悪いのかいつもの山田ではなかった。

「大丈夫か?具合でも悪いのか」

「・・なぁ、おまえ聞こえるか?」

「ん?何がだよ」

「足音だよ」

「そんなの聞こえない・・・んっ!」

最初は何も気にせず歩いていたが、よく耳を凝らしてみると僕達以外の足音が聞こえるのだ、それも小さい足音だ。

ガサッ、ガサッ、ガサッ

カサッ、カサッ、カサッ

僕達の歩調に合わせて歩いてついてきてる。すぐ後ろにいる。

「山田走ろう」

「わ、わかった、」

そして息を合わせその場から駆け出した

ガサッガサッガサッガサッ!

カサッカサッカサッカサッ!

「早川!来てる来てる!」

「なんだよ!意味わかんねーよ!」

頭の中がパニックになっていた、足音は僕の後ろから離れない、早く林から抜け出したかった。

「もうすぐだ!もうすぐでここから出れるぞ早川」

「はぁはぁ、もう少しだ」

自分にまだ走れると言い聞かせた。

ガサッ

なんとか林から抜け出せた、後ろの足音は聞こえない、なんとか逃げだせた。

「はぁはぁはぁはぁ、やったな早川、」

「あぁ、そうみたい」

「家に帰ろうぜ」

「うん」

その時僕は初めて振り返った、そこには黒い少女の影が林で僕らを見ていた、そして微かに笑い声が聞こえた。山田は見えてもいなく聞こえてもいなかった。



 僕らはその後それぞれの家に帰った、今日起きた出来事は忘れることにした、それでも誰かに話したかった。台所でリズムの良い音が聞こえた。

「ねぇ、母ちゃん」

「なぁに、」

「今日さぁ山田といつもの山に行ったんだけどさぁ」

「また行ったの、やめなさいって言ってるのに」

「ん、」

「それで?」

「それでさぁ、いつもより奥に行ったんだよね、そしたら後ろから足音がさ、」

台所からまな板の音が消えた、そしてこっちに近づく足音が聞こえた、あの時の記憶が蘇る、恐る恐る振り向くと母ちゃんがいた。

「はぁ〜良かったぁ」

「そんなことより、足音がなんだって?」

「いや、その足音がずっとついてきたんだよ、本当に!」

足音のことを話すと母ちゃんの顔がこわばった。そして僕にこんなことを話した。

「あのね、母ちゃんもね子供のころあの山で追いかけられたことあるの、とっても怖かったわ、それ以来あそこの山には行ってないの」

「そうだったんだ・・・あっ、そのとき女の子の声聞こえなかった?」

「女の子の声?聞こえなかったわよ?」

僕は驚いた、母ちゃんも足音に追いかけられていたこと、それだけでなく声を聞いていないこともだ、なんで自分だけ聞こえたのか。

「ねぇ、黒い少女の影見た?」

母ちゃんは首を横に振った。



 夜十時ごろに布団に入った、昼間のことが忘れられない、なんで自分だけ・・・

(もういい、早く寝よ)

・・・

カタッ、カタッ、カタッ

・・・



ねぇ、起きてる?

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足音 早川 @saisarisu4

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