第26話 帰路
アレトとアイは、ラーマ市街の賑やかな通りを歩いていた。空腹を感じながらも、二人は美味しそうな香りを我慢して教会に向かった。
「アイ、本当に教会に戻ってもいいのかな?」アレトは少し気がかりそうに尋ねた。
「はい、アレト様。今は資金を節約することが大切です」アイは冷静に答えた。
アレトは苦笑いを浮かべた。村から持ち出したお金はあったものの、道中で少し落としてしまう失態があった。さらに、教会への滞在費用を払ったこともあり、今は余裕がなかった。
教会に到着すると、豊満な体つきのシスター達が笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさい、アレトさん、アイさん」一人のシスターが優しく声をかけた。
「ただいま戻りました」アレトは丁寧に答えた。
夕食時、アレトとアイは静かに食事をとっていた。食べ終わった後、アイが突然話し始めた。
「アレト様、私たちの身なりが相当傷んでいることに気づきました。新しい衣類を買いに行くべきではないでしょうか?」
アレトは自分の服を見下ろし、確かにボロボロになっていることに気づいた。
「そうだね...でも、お金の余裕が...」
アイは立ち上がった。
「では、私が魔物を狩って換金してきます」
「ちょっと待って!」
アレトは慌ててアイを止めた。アイの姿を改めて見ると、確かに大事なところは隠れているものの、年若い子供がこんな格好で夜遅くに出歩くのは危険だと感じた。
「アイ、君はとても強いけど、一人で行くのは危険だよ。それに、噂になったらこの街にも入れなくなるかもしれない」
アレトは真剣な表情で言った。
アイは少し驚いたような顔をしたが、すぐに理解を示した。
「分かりました、アレト様。ご心配をおかけして申し訳ありません」
窓の外では、夜の街が静かに輝いていた。遠くで聞こえる賑やかな声と、近くで鳴るコオロギのような生物の音が、不思議な調和を生んでいた。
アレトは窓際に立ち、夜空を見上げながら深く考え込んだ。星々が瞬く空は、彼の前世の記憶とは異なる模様を描いていた。
「道具屋の試験か...」
アレトは小さく呟いた。
「これが俺の運命なのかもしれない」
彼の頭の中では、様々な思考が渦を巻いていた。レベルアップのこと、謎のクエストシステム、そして目の前の現実的な問題—お金の不足。
「このままじゃいけない」
アレトは決意を固めた。
「昼は試験の準備と、日中にしかできないクエストをこなす。夜は...」
彼は一瞬躊躇したが、すぐに心を決めた。
「夜はアイに内緒でモンスター退治だ」
アレトは夜のモンスターが昼よりも強く、換金率も高いという噂を思い出した。危険は増すが、それだけ報酬も大きい。
「アイに協力してもらうのが一番効率的だけど...」
アレトは自分の弱さを感じた。
「でも、それじゃあ俺自身が成長できない。男としての威厳も...」
彼は苦笑した。
「威厳か。まだそんなこと言える立場じゃないかもな」
しかし、アレトの心の奥底では、アイに頼りきりになることへの抵抗があった。
「昼間はアイの力を借りよう。でも夜は...俺一人で」
決意を固めたアレトは、アイの方を向いた。
「アイ、これからのことだけど」
アレトは真剣な表情で話し始めた。
「日中は試験の準備をして、夜はちゃんと教会で休もうと思う」
アイは静かに頷いた。
「日中は、アイにモンスター退治をお願いするかもしれない。俺も街でなんとかお金を稼ぐ方法を探すつもりだ」
アレトは少し言葉を選びながら続けた。
「それと...試験が終わるまでは、極力俺の指示に従ってほしい」
アイは真剣な表情で応えた。
「分かりました、アレト様。私はいつでもアレト様を第一に考えております」
アレトは感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
「ありがとう、アイ。本当に助かる」
そして、少し躊躇いながらも、アレトは最初の命令を口にした。
「それと...夜の俺の行動については関与しないでほしい」
アイは少し驚いたような表情を見せたが、すぐに平静を取り戻した。
「承知いたしました、アレト様。ご指示通りに行動いたします」
アレトはアイの反応を見て、少し不安になった。自分の言葉が誤解を招くかもしれないと気づいたのだ。
「ちょっと出かけてくる」
アレトは軽い調子で言った。
アイは少し心配そうな表情を浮かべた。
「いつ頃お戻りになりますか?」
「すぐに戻るよ。長くても数時間くらいかな」アレトは安心させるように答えた。
「分かりました。ですが、危険があったらすぐに呼んでくださいね」アイの声には深い心配が滲んでいた。
「ああ、もちろんだよ。でも大丈夫、慎重に行動するから」
アレトはアイの言葉に、改めて彼女の存在の心強さを感じた。アイとの出会いから今までの出来事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
カボタ村での日々、勇者ロアとの遭遇、命がけの逃走、そしてこの街での様々な出来事。その全てにおいて、アイは常に彼の側にいた。彼女の強さ、知恵、そして何より彼への忠誠心は、アレトにとって掛け替えのない支えとなっていた。
アイの存在は、この異世界での不安と孤独を和らげてくれる唯一の光だった。彼女の優しさと献身的な態度は、時にアレトの心を揺さぶることもあった。しかし同時に、自分がアイに頼りすぎることへの警戒心も感じていた。
(アイは本当に良いやつだ...でも、俺も強くならなきゃ。アイに頼りっきりじゃいけない)
アレトは複雑な思いを胸に秘めながら、アイに微笑みかけた。
「ありがとう、アイ。君がいてくれて本当に心強いよ」
「私こそ、アレト様のお役に立てて光栄です」アイは真摯な表情で答えた。
「じゃあ、行ってくるよ。何かあったら、すぐに戻ってくるから」
「はい、お気をつけて。待っています」
そう言って、アレトは夜の街へと足を踏み出した。街灯の光が照らす石畳の道を歩きながら、彼の心の中では決意と不安が交錯していた。これから始まる夜の冒険が、どんな結果をもたらすのか。アレトは深呼吸をして、自分を奮い立たせた。
生まれ変わったら村のモブキャラでしたが全力で生きていこうと思います やさい @tonkatsu1222
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