嫌いな女

たぴ岡

殺意

 あぁ嫌いだ。本当に嫌い、嫌い嫌い、大嫌い。

 どうしてあたしばっかりこんな目に遭わなくちゃならないの。最悪、もう嫌、意味わかんない。

 中学の頃からあたしのことを勝手にライバル視して、勝手に競って、勝手に負けて。それで勝手に恨んでくるんだから、本当に迷惑。何であの女はこんなにあたしにつっかかってくるんだろう、信じられない。


 四葉ちゃんがいなかったら、あたしは死んでいたと思う。もしくは、あの女を殺していたか。どっちにしても人間としての道をギリギリ踏み外さないで生きていられるのは、四葉ちゃんがずっと変わらずあたしの隣にいてくれるから、だろうな。

 でもそんな優しく包んでくれる最高の親友がすぐそばにいてくれるからこそ、あの女の悪意がもっともっとみにくく映る。汚くて気持ち悪くて、不愉快で邪魔で。まるで害虫。あたしたちの幸せを吸い取ろうとして、あたしたちの世界をかじって壊そうとして。本当に、存在意義は一ミリだってない。

 あの女、どうしてあたしの噂をクラス中に言いふらすの。あんな風に、自分の顔の広さを活用して大きな声でばらまかなくたっていいじゃない。それ以上に腹立たしいのは、噂の内容。あの噂は半分が嘘だけど、もう半分は真実。ゴミを漁ったことはないけど、サッカー部長さんに憧れているのは本当。

 どうしてあの女は、あたしのそんなことまで知っているの――。


「ってか明芽めいが、どこからあんな面白い情報持ってくんの? 最高すぎなんだけど」


 トイレの個室で爪を噛んでいたら、ちょうどよくあの女が入ってきたらしい。しかもタイミング良くあたしの知りたいことについて話している。目の前の扉をキツく睨みつけながら、爪を強く噛みながら、動かず静かに耳を傾ける。


「実はさ、ウチは別になんもしてないんだよね。あいつの噂が自分からウチに飛び込んでくるっ、て感じで?」

「えー、何それ意味わかんなーい」


 言いながらふたりは下品に声をあげて笑う。あたしにとっちゃ面白くもなんともない。ただただ、迷惑でしかない。


「でも、ホントなの。不定期なんだけど、下駄箱に手紙が入ってんの」

「それ怖くね、どういうこと?」

「うーん、あんまわかんない。名前も書いてないし、見たことない字だし、たぶん知らない人からなんだよね」

「ふうん……でも本当のことばっかり書いてあるんでしょ? それってすごくね?」

「あいつを恨んでる人が仕返ししてほしいって、ウチに依頼投げてるみたいなことかもね」


 便利屋じゃーん、と笑いながらトイレから出て行くふたり。

 信じられなかった。あたしは誰かに恨まれるようなことをした覚えはないし、嫌われるような人間でもない。いや、あたしが勝手にそう思っているだけで、周りから見たら嫌な女なのかもしれないけど。

 でも、少なくともあの女からの嫌がらせ――特にあることないこと言いふらすタイプのあれが始まったのは、たぶん高校一年になってあの女と同じクラスになって、孤立しかけて、でも四葉ちゃんと仲良くなって独りじゃなくなって、それから夏休みに入って、何もなく休みは明けて……その後、だった気がする。それまでもつっかかってくることはあっても、あんなネチネチしたやり方ではなかった、と思う。


「……誰だよ」噛んでいた爪をそのまま食いちぎって、呟いた。

「殺してやるよ。あたしらのことを邪魔するブスは全部、殺してやる」

 頭上から降ってきたチャイムの音に隠れて、あたしは殺意をこぼした。

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嫌いな女 たぴ岡 @milk_tea_oka

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