青春に天使は必要か?

水無月 陽

第1話 日常との決別

眼下に広がる濁った川とコンクリートの箱達、この世界にはフィクションは存在しないのか、

 水月みつき七色なしきは窓から教室に差し込む灰色の日光を浴びながら、授業を完全に無視していた。

「おい、水月!これの答えは?」

 いきなり名指しされて不覚にもビクッとしてしまった。

 もし、水月がクラスでムードメーカーやクラスのリーダー的な存在なら他の生徒達がクスッと笑ったり、友達が囃し立てたりしただろう、

 しかし水月はそのどちらでもなかった、特定の友達はつくらず、基本自分から誰かに喋りかけると言うことも無かった。 

だから、いつも通り気まずい雰囲気が流れてしまう

 水月は問題を見て、数秒考えた。

「、、、わかりません」

 水月ははっきりと言った、経験上ボソボソと言うよりはっきり言う方が自分の事を情け無く思わないですむからだ。

 先生は白チョークで問題にヒントを加えた。

「、、、じゃあ、丁田この答えわかるか?」

 僕は自分から解答権がクラスメイトの女子に移り、内心ホッとした。


 次に当たる可能性があるから残っている問題を解かなくちゃな


自分の席の右後ろの丁田は真剣な声でこう言った。

「えーっと、Xに先生を代入して答えはハゲですか?y=5X3乗+4X2乗+4Xに0を代入してもyは0ですもんね」

 クラスの生徒達は大爆笑し、気まずい雰囲気が吹っ飛んだ。


 女子にしては丁田は珍しい事にムードメーカーだ、あの子がいると教室の雰囲気が良くなって僕は大いに助かっている。

「はーいはいはい!、与式はy=5X三乗+4X2乗+4X+100が式なんで丁田さんの式と俺の与式で消去法をすると、あっれぇーおっかしいですねー、0=100何てある訳ないですねぇー、もしかして先生増毛しましたぁー?」

 丁田に悪ノリしてきた男子_三浦_は手を挙げて、先生の許可を取る前に勢いのまま言い切った。

 教室はまたもや大爆笑に包まれた。

「、、、おい。丁田、三浦、ちゃんと見とけよ、」

 そう、先生は言って白チョークを置くと真四角の真面目くんメガネをクイッとすると勢いよく90度お辞儀をした。 


 まさかの先生本当にカツラなのか!?

 

 先生は期待を裏切って、カツラがハラリと地面に落ちて悲しみの頭皮は見えることはなかった。

「最近、カツラも進化していてな、ほらこの通り増毛なんてしなくてッておい!!」

 先程の三浦(最前列の席にいる)が先生の自称カツラを引っ張った。

 結局、先生は生徒の期待通り悲しみの頭皮を生徒の前に曝け出すこととなった。

 その時、終礼の鐘が鳴った。

「えーっっと、キリッつ」

 てんやわんやの授業で心が少し軽くなっていた僕は少しショックを受けた。

 まるで、さっきのことが何も無かったかのように先生はカツラを直し、生徒達はビシッときよつけをしている。そして、自分もそのビシッとした生徒たちに溶け込んでしまっている、、


 ふと、窓の外をチラッと見るとやっぱり空はまだ曇っていた。

_______________________________________________

「フィクションのカケラ、、、」

 水月はガラケーを持って、学校の屋上に来ていた。

 僕はいつからフィクションのカケラを探していらのだろうな、そんな事を思いながらガラケーで屋上からの灰色の街並みを撮った。

「やっぱり、ガラケーは画質が悪いかな」

 まぁ、そこがいいんだけどね

 水月は屋上のフェンスにもたれかかると、ガラケーの十字キーでピクチャーを選び、丸い決定ボタンを押した。

 中に入っている写真は、電車内から見た朝日、道端のタンポポ、真夜中の自宅、12時00分を指した腕時計、、緑の紅葉、靴箱、柴犬、図書館の本、寂れた真夜中の公園、アキアカネ、氷水を入れた透明のグラス、誰もいない教室、工事現場、あとは、、、空、青い空、曇り空、入道雲がある空、秋の空、冬の空、真夜中の空、星が全く見えない真っ暗な空、ぶらっぶれの月と夜空、



 

 水月にとっての、空想に通ずる夢の結晶、幼い子供が綺麗な石をコレクションをする様に水月はよくアニメーションやライトノベルで使われる景色をガラケーに収めていた


「、、、この世に0%はない、、、筈なんだ、だから僕が一秒後に異世界へ転生しても何もおかしくない筈なんだ、、、」

 水月は知らぬ内にそう呟いていた。

水月がガラケーの左上に表示される時計を見ると6:37を表示していた。

「そろそろ、塾に行かなくちゃ、」

 そう、呟くと屋上の隅に置いていたバッグを背中に背負うとしてガラケーから目を離したお陰である事に気づいた。

「虹」

 いつのまにか曇り空は消えていた、その代わり信じられないほど綺麗な虹がかかっている。

 水月はガラケーで虹を撮ろうとしてやめた、そして屋上からガラケーを投げ捨てた。

 はるか下でガラケーの壊れる音が聞こえた。

 自分の後ろには橙色の大きな夕陽が照っていて、屋上には自分以外誰もいなくて、前方には大きな虹が出ている。

 まるでアニメのワンシーンだ、綺麗すぎて現実味がない、其れは、まるで、現実とフィクションの狭間、、、この空間で一番フィクションに不釣り合いなのは、、、僕だ、

 その考えに水月は至っていしまった。 

 さえない平凡な男子高校生、、、フィクションと釣り合うためには、、、

 水月はバッグをもう一度屋上の隅に置くと、躊躇なく屋上のフェンスを乗り越えて空中に躍り出た。

 

 その行動によって水月はさえない平凡な男子高校生ではなくなった。

 水月の目にその大きな虹は目に焼きついた。

そして、鮮やかなが脳に焼き付いた。

 

 水月は目を閉じ、耳のそばを通り過ぎる風切り音に耳を澄ませた。

 不思議なことに水月が落下していることに気づく生徒や先生はいなかった。


 水月が地面まで後2メートルとなったところで水月なら肩甲骨あたりが急速に変化し始めた。

 水無月の肉と制服を突き破って骨が出てきた。

その骨は次々と枝分かれし、まるで鳥の様な骨格が出来上がった。

 そして、水月に背中に謎の白い光を迸り始めた、それは次第に羽の様な形になっていき、、、水月はまるでパラシュートでも開いたかの様に失速した。


 そして、背中に純白の翼を付けた水月が本来なら水月の死体が転がった筈の場所でしっかりと二本の足を踏み締めて立っていた。

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