第37話 推しの幸せが、腐女子の幸せ

信用しているとは言っても、気になるものは気になる。


次の日、私は居ても立っても居られず、図書館へ向かった。


もし司書様の雰囲気が悲しそうだったら、ヒュー団長を問い詰めなければ。


そんなことを思っていたのだが。




「ヒュー騎士団長は暇なのですか?」


「暇ではありませんよ。こうして司書様の仕事ぶりを見守らなければならないのですから。」


「・・・!そ、それは仕事ではないでしょう。」


「いいえ、立派な仕事ですよ。こんな目をしている司書様に、悪い虫がついたら困りますからね。」




なんだ、あれ。


え?ヒュー団長ってあんなに露骨に態度に出す人だったっけ?


もっと蛇みたいに自分の感情隠す人じゃなかった?




「なんだ、あいつら。」




ヒュー団長の変貌ぶりに戸惑っていると、後ろから声がした。




「デューク団長も図書館とか来るんですね。」


「何でお前は、いつも俺に対してそんなに失礼なんだ?」




失礼も何も、事実じゃないか。


しかし、普段人の変化に全く気付かないような鈍い男でも気づくということは、ヒュー団長の変わりようは相当なものだということだ。




「まさかとは思うが、あいつらにもあの薬盛ったのか。」


「人聞き悪いこと言わないでもらっていいですか?ヒュー団長は、あの聖水の効果を知ってて、自ら服用したんです。」


「知ってて飲んだのかよ・・・。」




ありえないとでも言いたげな顔だが、私は事実しか言ってない。


そして、昨日の今日でこれだ。


昨日、あの二人にいったい何があったのだろうか?




あーーーー!!気になる!!!




すると、デューク団長はそんな私を差し置いて、二人の元へズカズカと歩み寄っていった。




「よ。久しぶりだな、ヴィル司書。」


「・・・何か用ですか、デューク団長殿。」




司書様に話しかけたのに、ヒュー団長が答えてる。


独占欲むき出しだな。


しかし、司書様は何でもないようにデュークに答えた。




「お久しぶりです、デューク騎士団長。あなたが来てくださるなんて、珍しいですね。」


「ちょっと必要な資料を借りにな。」




デュークと司書様が楽しそうに談笑している。


しかし、それが面白くないのか、ヒュー団長はものすごい目でデュークを睨んでいた。


さすがの鈍感男も、そこまで悪意を向けられれば気づかないわけがない。


司書様との会話が終わると、今度はヒュー団長のほうを向いた。


そして、近くにいる司書様にも聞こえないくらいの音量で、こう言った。




「安心しろ、ヴィル司書はお前のことしか見てねぇよ。」




最後、ヒュー団長に何を言っていたのかは私には聞こえなかったが、デュークが立ち去った瞬間、ヒュー団長の瞳が少し変わったことだけはわかった。




「そんなに気になるなら直接聞きに行けばいいじゃねぇか。」




戻ってきたデュークにそう言われた。




「腐女子が、推しCPに対して下手に詮索するわけにはいきませんので。」


「は?」


「それに、見てればわかりますから。」




司書様が、今まで以上に素敵な顔をされてることくらい。




やっぱりマリア様はすごいな。


私はヒュー団長を信用できずにいた。


恐らく、私一人で動いていたら、ヒュー団長に聖水は渡していなかっただろう。


よかった。


マリア様が聖水を渡していなければ、あんなに幸せそうな司書様のお顔を見ることはできなかっただろうから。




「これで、ちょっとは償えたかな。」


「何がだ?」


「何でもないです。」




推しの幸せが、腐女子の幸せだもんね。




私は鼻歌を歌いながら、その場を去った。

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聖女様は、お腐りになられました~聖女が作った聖水には媚薬の効果があったので、試しに推しCPに使わせてみた~ 戯言 @tawagoto_1003

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