第36話 俺を好きだと言ってくれ

知ってたよ。


お前が、俺の事なんかまるで眼中に無い事くらい。




好きだったんだ、ずっと。


お前が、デューク騎士団長を好きになるずっと前から。


図書館から差し込む光に照らされて、静かに本を読むお前を綺麗だと思った。


だから許せなかったんだ。


お前が他の男に、いいように扱われてるのが。


綺麗なものが、穢されていく気がした。


知らないとでも思ったのかよ。


お前が他の男に抱かれてる時、泣きそうな目をしてることを。




お前、俺の事嫌いだもんな。


だから、見たくなかったんだ。


俺に抱かれてる時、泣きそうな顔をしてるお前なんか。


見たくなかった。




ああ、これじゃあ、お前の顔が見えちまうな。


顔を離したら、きっとそこには絶望に打ちひしがれたお前の顔があるんだろう。


覚悟はしてたけど、いざ現実になると辛い。


お前にだけは、そんな目で見られたくない。




どうやったら俺のものになる?


どうやったらお前は俺だけを見る?


お前が欲しいと思うもの、俺が全部与えてやる。


だから、一生俺だけを見てて欲しい。




まぁ、それも、もう叶わない夢だけど。




俺はヴィルから顔を離し、そっと目を開いた。


憐れんでいるのだろうか。


それとも、怒っているだろうか。


俺みたいなやつに好かれて、気持ち悪いと思っているのだろうか。




「……ヒュー……団長っ……。」




俺の視界に映ったのは、俺のキスで欲情したヴィルの顔だった。




「ヴィル、お前、」


「もっと……してください……もっと……」




俺の首に手を回してくる。


逃がすまいとでも言うように絡みついたその腕は、俺を掴んで離さない。


ヴィルは聖水を飲んでいないはずなのに、その瞳は熱を帯びていた。




「その目が……欲しかった……」


「え……?」


「私に……欲情してる目……私だけしか……映ってない目……」


「……!」




ヴィルの舌が、俺の唇に触れる。




「ヴィル、俺のことを好きだと言え。」


「な……なに……?」


「そうしたら、全部くれてやる。お前が欲しいもの、全部。」


「ぜんぶ……?」




トロンとした目で俺に問いかける。


俺を好きだと言ってくれ。




「お前には、俺が必要だろ?」




その瞬間、ヴィルの瞳にほんの少し光が宿ったように見えた。




「好きです……ヒュー、好き……」




俺は貪るようにキスをした。


足りない。


足りない。


もっと、奥深く。


誰にも見せたことの無いお前を見たい。




その日、ヴィルの瞳はずっと俺を捉えて離さなかった。

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