45
45
いや……まだまだ……っ!
これくらいで諦めるもんか。たとえ身体は動かせなくたって、想いの力は発動させられる。念じ続けてみせる。
命が尽きるその瞬間まで決して諦めちゃいけないんだッ!
『……気は……済んだかい……? もう……いいでしょ? 僕……もう……動けな……いんだ……。見れば……わかるよ……ね……?』
僕はモンスターに優しく問いかける。でもその想いに反し、モンスターの体重が少しずつ僕の身体にのしかかってくる。
あ……ぁ……やっぱり僕はこれで……。
「ゴ……ァ……アアア……」
「え……?」
もうダメだと覚悟を決めた時、なんとモンスターの動きが止まった。そして僕の身体を踏みつけていた足を退かし、静かにこちらを見下ろし続けている。
声も音も何も発しないけど、なんとなく僕に対して謝罪する気持ちを抱きつつ、怪我を心配してくれているように感じる。本来は心の優しいモンスターなのかもしれない。
――いや、モンスターだからといって一括りに『敵だ』とか『悪いヤツだ』とか『凶暴だ』って思い込んでしまうことの方が間違いなんだ、きっと。
そして魔族の中にも僕たち人間と分かり合えるヤツがいる――そんな気がする。
そのことをこのモンスターに気付かせてもらった。感謝しないとな。その代償がこの大怪我だというのは、ちょっと割に合わない気もするけど……。
『いいんだよ、キミ……。そんなに謝らなくても……。僕は……生きてるから……。でももう動けないんだ……。自分の口で声を掛けてあげられなくて……ゴメンね……』
僕はそう念じつつ、モンスターにこれ以上の心配をかけないように、口元だけでもクスッと緩める。もっとも、すでに微かにしか動かせない状態だけど。
あぁ、なんだか体全体が寒いし、目の前が暗くなってきた。呼吸が苦しいけど、大きく息を吸い込む力すらなくて咳払いも出来ない。
――僕が死を意識した直後のことだった。
なんとモンスターは全身を小刻みに震わせ、音波のようなものを発した。
するとそれを受けた僕の体から痛みが徐々に消え始める。温かいエネルギーが流れ込んできて、手足に力が入るようになってくる。
それどころか、昨日からの走り込みで生じた筋肉痛さえもなくなり、まるで生まれ変わったような活力がみなぎってきた。
もしかしたらこれは彼独自の回復魔法のようなものなのかもしれない。
すっかり元気を取り戻した僕はゆっくりと立ち上がり、満面に笑みを浮かべながら彼の手を握る。
「ありがとう!」
僕が御礼を言うと、モンスターは静かにその場から去っていった。
周囲には穏やかで心地の良い空気が漂い、鳥たちの声や木々の囁きが戻る。
「や、やったぁあああああぁーっ!」
僕は嬉しさが堪えきれず、跳び上がって喜んだ。
それは当然だ。だってモンスターに僕の想いが通じたんだから! 絶体絶命の危機をひとりで乗り越えられたのだから!
幼いころにモンスターに対して想いが伝わらなかったのは、僕の力が未熟だったからなのか、あるいは必死さが足りなかったのか……。
いずれにしても、今の僕は必死になって想いを伝えようとすれば、モンスターであっても意思疎通が出来る。それが分かったのは大収穫だ!
僕には剣を振るう力も技もない! 魔法だって使えない! でも僕には僕にしか出来ない戦い方があったんだっ!!
――ついに見えたっ、希望の光!
もしかしたら、ミューリエと旅を続けることもタックさんの試練を乗り越えることも夢物語じゃなくなってきたかもしれない。
僕はいつになく手応えを感じたのだった。
TRUE END 5-1
※こちらが正史ルートです。『第6幕:再挑戦! 勇者の試練!!』は、この続きから始まります。
◆
※アイテム『勇気の欠片・5』『身代わりの護符』を手に入れました。メモをしておくと今後、役に立つかもしれません。
◆
引き続き、第6幕をご覧になる方はこちら(第6幕のパラグラフ『1』へ移動します)。
https://kakuyomu.jp/works/16817139554483667802/episodes/16817139554483776927
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます