第50話 準備完了
チューチューブに自分の作った曲を試行錯誤の末なんとかアップした太路は、グッタリと疲れを感じた。
だが、これだけではガナッシュに届く可能性は限りなくゼロに近い。次は、SNSだ!
気合いを入れ直し、動画のアップ方法を勉強した動画を閉じてSNSの開設方法の動画を探す。
ガナッシュのタグも付けて、なんとか宣伝の場を整えた太路はお昼ごはんも食べずに何時間も没頭していたことに気が付いた。
ピンポーン、とインターホンが鳴り、ガラガラと音がする。
勝手に入っていいよ、と言ってるのに、ニコちゃんは毎度鳴らすな。
セイはドアの音がしたと思ったらリビングに入ってくる勢いだから、同い年の女の子でもこうも違うのかと太路は愉快に思う。
「まだお昼食べてないんですか?」
「うん。でもほら見て、やっとできた! これでガナッシュに僕の曲が届くに違いない!」
フフッと笑って、ニコちゃんが冷蔵庫をのぞく。
「チャーハンでも作りましょうか」
「ありがたい。よく僕の母親も日曜の昼にチャーハンを作ってたよ。健ちゃんも静も好きだから」
「一ノ瀬くんは好きじゃないんですか?」
「大好きだ」
太路がチャーハンをフウフウしながら食べていると、フライパンを洗い終わったニコちゃんがダイニングテーブルの隣に座る。
「おいしいよ、ニコちゃん」
「良かったです」
一心不乱にチャーハンをかき込む太路の横顔をニコちゃんは見つめていた。
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、太路がスマホを手に取る。
「え! ニコちゃん! 静のドラマの相手役、タークミストだって! すごい! 静とタークミストが共演するんだ?!」
「へえ、すごいですね!」
大興奮の太路がニコちゃんを手招きし、ニコちゃんも画面をのぞき込む。
「笑いあり涙ありの青春恋愛ドラマか。楽しみだな」
「セイちゃん、新人女優の役なんですね。きっと演技も上手でしょうね」
「静は嘘つけないから、演技は苦手なんだよ。だからこそ挑戦したいんだって」
「あ、一ノ瀬くん、これ……」
「キスシーン?! 冗談じゃない! 静がキスシーンなんてまだ早い! まだ静は15歳なんだよ!」
「一ノ瀬くんは本当にシスコンですね」
シスコンなんてことはない。妹を守るのは兄の役目。
お兄ちゃんとして、どうにか回避できないか渡辺さんに聞いてみよう!
「私も15歳だから、まだ早いですか?」
「え……」
ニッコリと笑うニコちゃんを思わず凝視してしまう。
本気で電話するつもりでアプリをタップしたが、太路はスマホをテーブルに置いた。
「もちろん、ニコちゃんも早いよ」
「ニコちゃんですか……一ノ瀬くん、オーディションは終わったんですよ。私はもう、エントリーナンバー25番ではありません」
そう言えば、ニコちゃんの名前はニコではなかった。
もうすっかりニコちゃんと呼ぶのに慣れきっていて、太路は他に何と呼べばいいのかまるで思いつかない。
「じゃあ、見和さん、とか?」
「さん付けされると、なんだか距離を感じますね」
「距離はいらない。見和さんはやめておこう。いろはちゃん、とか?」
自分で言っておいて、太路の顔がカーッと熱くなるのを感じた。
「……照れます……」
「そうだね、ごめん! やめておこう」
だが、そうなると、いよいよどう呼べばいいのか……。
へへ、と小学生のような童顔で笑うニコちゃんを見て、やっぱりこれしかないな、と太路は思った。
「やっぱり、ニコちゃんかな。見和いろは、あだ名はニコちゃん」
「あだ名の由来を聞かれたらどうするんですか?」
「うん? 普通に答えるよ。ニコニコ笑うから、ニコちゃんだって」
ニコちゃんの幅の狭い二重の目が丸くなる。
「初めて言われました。表情ないって言われたことしかなかったから」
「逆に僕は表情ないって思ったことはないな。初めてニコちゃんを見た時はすごくオドオドしてたし。最初の配信見て、この子は何かに脅されながら配信してるのかと思ったのを思い出したよ」
「恥ずかしいです。忘れてください!」
「初めて学校でリアルにニコちゃんを見た時もオドオドしてたよね。すごく挙動不審だった」
「あれは、一ノ瀬くんがジロジロ見るからじゃないですか」
「あの時も恥ずかしかったの?」
「恥ずかしいです。今も恥ずかしいです」
真っ赤になるニコちゃんをニコニコ笑いながら見つめる太路は、スマホが灯ってイイヨ! が付きました、と通知されたことに気付かなかった。
DKアイドルプロデュース ミケ ユーリ @mike_yu-ri
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