第3話
男は自分の頭にその輪を乗せて、小さなスイッチをポチリと押した。すると、男の頭のリングが白く光った。光はあっという間に彼の全身を包み込む。男はまばゆい光を発する人型になった。リングはその後次第に輝きを落とし、何事もなかったように元にもどった。
「どうなっているんだ?」
目の前に立つ男を見て、私は息を呑んだ。
「君は彼なのか? どんなカラクリだ。まったく違う顔だぞ?」
もとの容姿とは似ても似つかぬ姿だった。ここまで別人となってしまっては、ある意味、詐称で咎められるのではないだろうか? と要らぬ心配が心を過った。
「これは帽子が映し出す映像を躰にマッピングさせている状態です。私たちは公共の場では、アバターを立体的に全身に纏わせて暮らすことが義務づけられているのです。あと、別人とおっしゃられますが、このマッピングで重要なのは容姿の一致ではありません。肝心なのは肌の色です」
私は彼の言葉に目を見張った。そういえば、なぜこんな肌色にしたのだろうか。彼の肌は大統領と同じで深い緑色だった。
「なぜ、君も緑色の肌なんだい?」
「これをごらんになればわかります」
男は手のひらを使って空間を払いのけた。彼の手の動きに沿って、空中に浮かんでいたコンピューターの画面が一瞬で消え去った。そして再び、彼が指先で空中を区切ると、新しいコンピューター画面がそこに立ちあがった。
「これは、少し前のニュース映像ですが、新大統領の就任式を映したものです」
私はコンピューター画面を食い入るように見つめた。
立派な建造物の前庭に大勢の群衆が押し寄せている。人々は、新大統領の名を叫んでいた。
ハットランド国の憂鬱 砂花きりん @eden2158
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