第2話

男は宙に器用に指を這わせて、コンピューター上に、ある映像を映し出す。


「この国は、もともとは、とある石油国の王族に支配されていました」


ハットランド共和国は、アフリカ大陸の沖にある小さな島国だった。

男の話はこうだ。石油王の領地だったこの島は、ある時をさかいに人口がふくれあがった。領主が島の沖に発見された海底油田の労働力にと、諸外国から移民を呼び寄せたせいだ。島にはもともとの住民などもいて、ハットランド国は、いっきに人種のルツボと化した。すると、どこの国でも起きるのが、宗教による仲たがいや、人種の違いによる争いだった。肌の色や宗教の違いは、帰属する社会を強く意識させるが、それは同時に、排他的な感情も育ててしまうのだろう。


「最初の争いは、小競り合い程度でした。やがて、それでは済まなくなり、血で血を洗う民族間の抗争に発展しました。それらはどんどんエスカレートし、内乱となりました。国は荒れて、国民は武装して、裕福な領主を島から追い出すまでになりました」


なんと、この国にはクーデターが起きたらしい。


「しかし、自治を手に入れて共和国として独立することになった後も、まだ国民は争い続けました。そんな最中、突如として救世主が現れたのです。民族間の問題にかたをつけ、ハットランド国を平和を導いたその方は、このたびの選挙で、国民の大多数の支持を得て大統領となられました」


男はさも誇らしげに言うと、宙に浮かぶ画面を指で拡大する。


「さあ、ご覧ください。こちらがハットランド共和国の新大統領閣下、ゲオ様でございます」


私は面食らってしまい、言葉に詰まった。


「おや? 如何なされましたか?」


私が戸惑う様子を見て、男は不服そうに首をかしげる。


「ミスターカトウは、この国の法律をお忘れですか? この国では、公共の場では誰もが帽子をかぶる規則なのです」


「いや、そうじゃない。帽子云々ではなくて・・・・ なんと言うかその・・・・ あの・・・・ えっと、彼はどうして緑色の肌をしているんだい?」


男が見せた大統領の写真は、グリーンティさながらの深い緑の顔色をしていた。男は私をからかっているのだろうか? それとも、誰かが冗談で大統領の顔をこのように加工したのだろうか? 


「うーむ、これは心外。どうやら諸外国の方々は、我が国の帽子について何もご存知ないらしい」


男は憤まんやるせないと言ったようすで、おおげさに憤ってみせた。

そして次に、何やら思いついたように瞳を輝かせると、自分の腰にぶら下げていた袋の中から、白く発光する丸い輪っかを取り出して、私に見せた。


「ハットランド国の帽子というのは、これです!! この3D人体映像転写リングのことですよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る