最終話
……部屋の入り口手前に移動した俺達は、タツカを中心に、手前にオサナ、右後ろに俺、左後ろにツキカゲが立ち、三角形に陣取る。
「……あ……ありがとう……みんな……俺……なにも出来なくて……!」
「そんなの良いから、あっちについたら、すぐにサナミを抱きしめてあげなさいよ」
「魔王討伐は、俺達に任せておけよ!」
「ござるで我輩!!」
名残り惜しそうに別れの挨拶を述べる俺達。それが終わると、オサナは転移魔法を使うため、月の杖を自分の顔の前に立たせ、精神統一を始める。
「じゃあ、行くわよ……」
……と、その時だった。
「ちょっ……ちょっと待ってくれ!」
「……な……なに……?」
突如、タツカが大声をだした。気を集中し始めていたオサナは、途中で気を削がれ、少し不機嫌な顔をする。
「一体……どうした……のよ……」
「おい、タツカ。まさかこの期に及んで、会うのが怖くなった……とか言うんじゃないだろうな……」
「い……いや……そうじゃなくてさ……」
「ござるで我輩?」
タツカは右腕を前に出し、申し訳無さそうにこんな事を聞いてきた。
「……み……みんな……なんで、俺ひとりの為に、ここまでしてくれるのかなって……思ってさ……」
「なんだ……そんな事……」
タツカのその質問に、オサナはお腹を右手でそっと抑え……こう答えた。
「これは……魔王を倒すまで黙っておこうと思っていたんだけど……実は……今、私のお腹には新しい生命が宿っているの……」
……ん? ちょっと待て。いきなり、話が変な方向に向かってないか?
「それって……つまり……! そおかあ!」
「そう! だから、あんたにも幸せになってほしかった!! ただ、それだけの事なのよ!!」
そおかあ! じゃねえよ。タツカ。今のこの状況で良く会話できるな。大体、誰のお子様ですか? タツカはサナミ一筋だし、俺は身に覚えが無い。と……すると……
俺は、左隣にいるツキカゲにそっと目を向ける。
ツキカゲは表情にこそ出さないが、頬を、一滴の冷や汗が伝っていくのが見えた。
え……? やっぱり? そう? そうなの?
そんな俺の気持ちを他所に、タツカと、オサナの会話が続く。
「そ、それで? お腹の子は、誰の子なんだ?」
「そんなことは今はどうでもいいじゃない。それよりも、今は少しでも早くトアール街に向かわないと!」
「そ、そうだった!」
オサナは、急かすように話を切り上げると、タツカをトアール街に転移させるため、再度、月の杖を顔の前におく。
精神を集中させるオサナ……その間……部屋の中は静寂に包まれ……
「……見えた!!」
何かを見つけたように言葉を発する。そして次の瞬間、オサナは顔の前においていた月の杖を天井ヘ高々とかかげ、部屋中に赤い光を輝やかせる。
……すると……
「お……おお!?」
タツカの身体が少しずつ薄くなり始める。転移魔法が発動したのだ。
「タツカ、私達が出来るのはここまでよ。あとは、あんたひとりでなんとかしなさいよ」
「あ……ああ!!」
ゆっくりと消えていくタツカに、最後の助言をするオサナ。自分の両手を見ていたタツカは、慌てて返事をする。
「み……みんな、本当にありがとう……っ! 魔王討伐を前にして、パーティーを離脱するのは心苦しいけど……!」
身体が消えゆくなか、思い残す事がないように早口で喋り始めるタツカ。
「このお礼は……いつか……きっと……!」
しかし、その言葉は、転移が完了するとともに、断ち切られた。
「……はぁ……そんなことは、全てがうまくいってから言いなさいっての……」
無事、タツカの転移を終えたオサナは、月の杖を床につくと、それに身体をあずけるように膝から崩れ落ちる。
……その姿を心配したツキカゲが、オサナの目の前にひざまづき、心配そうに声をかける。
「ござるで我輩?」
「大丈夫よ、これくらい……ひとりやふたり、転移させたくらいでどうってことないわ……」
そう言いながらも、オサナはツキカゲの差しだす手を素直に握り、ツキカゲの肩を借りるように、ゆっくりと立ち上がる。
「……タツカ……行っちゃたわね……」
「……ござるで我輩……」
ふたりの世界に浸るように、どこか遠くを見つめるオサナとツキカゲ……
俺は、それをしばしの間、わけも分からず凝視していたが……
止まっていた思考回路を動かすように、ある重大な事を思い出すと、一歩前に踏み出し、ふたりにあのこと聞いてみる。
「あ……あのさ……ふたりとも……」
「なに?」
「ござるで我輩?」
俺は、胃液が出そうな気持ちで言葉を続ける。
「さっき、オサナが言ってた……お腹の子の話しなんだけど……」
ここまで話した時、オサナとツキカゲはお互いがお互いを確認するように見つめあい、とても幸せそうな声で語り始める。
「あー♪ そのことね♪ ごめんね♪ いままで黙ってて♪」
「ござるで我輩♪」
「あの……じゃあ……そのお腹の子は……」
「ツキカゲの子♪」
「で、我輩♪」
やっぱりかあああぁぁぁ!!! いや、別に良いんだけどね! 俺、オサナのこと、特になんとも思ってなかったし!! 強がってないし!! ……誰に言い訳してんだ? 俺……?
「……そ、それで……いつ頃から……?」
「東の王都にいたときかな? あのときに、ツキカゲが『潜伏』のスキルを身につけて、そのころから……ね♪♪」
「ござる我輩♪♪」
ちょっと待て! 東の王都って言ったら、二年も前の話しじゃねえか!! なに? このふたり、その頃からそういう関係だったてこと? いや、でも、そんなそぶり今まで全然見せて……
……ん? 潜伏のスキル……?
潜伏のスキルって……もしかして、第二の四天王を倒すときに大変お世話になった、あのスキルのことか? パーティー全員の姿を隠し、魔物の目をあざむかせることのできるあの……
つまり、なに!? ツキカゲは潜伏のスキルで俺とタツカの目をあざむいて、夜な夜な、オサナとよろしくやってたってことなの!? こっそりと!?
「旅の途中だから、みんなに迷惑がかからないようにしてたんだけどね♪♪」
「ござるで我輩♪♪」
やかましいわ!! うまいこと言ったつもりか!!
オサナはいつの間にか、今まで見せたことのない、とても照れた顔でツキカゲの腕に抱きついているし、ツキカゲはツキカゲで頭に左手をそえながら、頬を赤くしてるし!
とんでもなく幸せそうだな! こんちくしょう!!
「ねえ、イチト……」
「な、なんだよ……」
あまりにも情報量が多すぎ、頭を抱えて困惑しているところに、オサナが話かけてくる。
「これから先、タツカがいなくなって大変になると思うけど、頑張って行きましょう……」
……そ、そうだな。いまさら、オサナとツキカゲがそういう関係だったなんて、どうでもいいじゃないか。むしろ、祝福すべきか。それに今は、魔王討伐に力を
「ね!! ツキカゲ♪♪」
「で、我輩♪♪」
うおおおぉぉぉ!!! やっぱ難しいわあぁ!! もうすでに『幸せ、手に入れました』って雰囲気だしてる中を一緒に歩くのは、勇気いるわあああぁぁぁぁ!!!! せめて、タツカがいてくれればああああぁぁぁぁ!!!!
……ああ……でも、もう遅いよな……タツカは俺達がサナミのとこへいかせちゃったし、きっと、オサナとツキカゲのこの雰囲気は、魔王城につくまで続くんだろうな……
……でも……でも……!!
「ツ・キ・カ・ゲ♪」
「で・わ・が・は・い♪」
俺は気がつくと、ふたりに背を向け、自分の座っていた椅子にめがけて走り出していた。そして、椅子の後ろにあった部屋の窓を思いっきり開け放ち、あらん限りの声でこう叫んでいたのだった。
「タツカああああぁぁぁぁ!!!! 頼むから、今すぐ戻って来てくれええええぇぇぇぇ!!!!」
ーおしまいー
まだ間にあう! 盾使いよ! 俺達パーティーのことなんてどうでも良いから、さっさと抜けて幼馴染みを追いかけろ!! ネオ・ブリザード @Neo-blizzard
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます