或る映画監督の独白

オレは等出奈士ひとでなし

映画監督だ。

具体的には女性や社会的弱者が惨たらしく殺される内容のドキュメンタリーを撮影している。

これまでにもその辺を歩いてた女を拉致して拷問する様子のドキュメンタリーを撮り、海外の映画祭で大賞を取ったこともある。

そして今日もまた、新しい作品の撮影のために街に繰り出していたのだ。


今回は工事現場の重機同士のアツいバトル映画を撮ろうと思う。

重機の操作には慣れてるし、この手の映画ならスタントマンも必要ないからな。


「あー、いいね! 最高だよ!」


撮影現場に着くなり、オレは思わず叫んでいた。

そこには凄まじくリアルな戦いが繰り広げられていたからだ。

巨大な鉄の塊同士がぶつかり合い、互いの装甲が削り取られていく様は圧巻だった。

これぞまさしく男のロマンってヤツだろう。

オレはその光景をカメラに収めながら興奮していた。

だが――


「あのー、どちら様で?」

「……ん?」


どうやら、工事現場の監督に見つかってしまったようだ。

まぁ、そりゃそうか。こんな所で騒いでたら目立ってしまうよな。


「ああ、すいません。邪魔するつもりはなかったんですけど……」

「申し訳ありませんが、関係者以外立ち入り禁止でして…」


俺はにべもなく追い出された。

まあ、仕方無い。今日のところは帰るとするか。


次の日。

ネットで告知されてた『奴隷映画祭どれいえいがさい』に参加する事になった。

『奴隷映画祭』とは、その名の通り奴隷を題材にした映画を出品し総合的な奴隷度で最優秀奴隷映画を決めるコンベンションだ。

前回は確か金田訓亭きんだくんてい監督の『奴隷師どれいし』が大賞を受賞してたはずだ。今回も何か凄そうな予感がするが…… とりあえず行ってみよう。


会場に到着するとそこは異様な熱気に包まれていた。

皆一心不乱にスマホを操作しており、スクリーンでは様々な奴隷作品が流れ続けている。

何ということだ。まさかここまでディープな世界だとは思わなかったぜ……。

さて、オレは何の映画を撮るべきか? まずは奴隷の女の子が登場するものが良いだろう。

となるとやはりAVかな? しかし、ただ単にAVを撮影するだけでは面白くない。

ここは趣向を変えて、よりリアリティのあるものにしたい。


というわけで今回のテーマはズバリ『拷問』だ。


今までは普通に人を殺すシーンしか撮ったことがなかったが、そろそろ本格的な拷問にもチャレンジした方が良い頃合かもしれない。

ということで、かねてよりアイデアを練っていた『拷問奴ごうもんど』をクランクインすることになった。

これは簡単に言えば、悪趣味な変態野郎が自分の性癖を満たすために行うサディズム全開のアート作品なのだが、その演出方法は非常に独特である。


まず主人公は自分の好みの女性を見つけると、いきなり背後から襲い掛かり両手両脚を拘束する。そして彼女の口にギャグボールを噛ませ、手足の自由を奪うのだ。

その後、彼女は全裸のまま部屋の中に閉じ込められてしまうのだが、実はこれには隠された意味がある。

というのもこの女性はこの後、とんでもない目に遭わされる予定になっているからだ。

ただ、このままだと単なるアダルト作品になってしまいつまらない。

そこでオレはこの女性を拷問することで、視聴者に対して彼女が受けるであろう苦痛を表現することにしたのだ。

つまり、オレのやりたいことをそのまま映像化すれば良いだけの話なので非常に楽な作業だった。

こうして完成した作品は、なんとも言えない背徳感を感じさせる素晴らしい出来栄えになったと思う。

直近にパゾリーニの『ソドムの いち』を鑑賞したのでその影響が露骨に現れてしまったが…、どうせバレやしないだろう。


クランクインから撮影編集を経て、いよいよ上映会と受賞式になった。

上映後、会場からは割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。

どうやら満場一致で最優秀奴隷映画に選ばれたらしい。

まあ、当然の結果といえば結果なんだが、これでまたひとつ夢に近づくことが出来たな。


これからも頑張っていこう。



【あとがき】

本作のPVを作成しましたので是非ご覧ください! https://youtu.be/x4whmKgZdbs

※本作はフィクションです。実在の人物・団体等とは無関係です。

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脳死短編集 芥子川(けしかわ) @djsouchou

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