嵐寛恕

「私は嵐寛恕あらしかんじょ。この度人間を999人生贄に捧げた肉の塔を建立した。私の願いはただ一つ、我が眷属を増やしたい! 今ならサービスで私の配下が100人まで無料でついちゃうよ! というわけで皆様お気軽にどうぞ!」


何なんだこの和風キチガイ女は…。

俺ことルードヴィッヒ・桜木は呆れてしまってた。

いきなり自分の家に現れたと思ったら訳のわからないことを喚き散らして、しかもそれが願いだとか意味不明なことを言ってきたからだ。

ただその見た目や喋り方などから嘘偽りのない奴だということだけは分かったからとりあえずは話だけ聞いてみる。


「…で、嵐さんでしたっけ?」

「はいっ」

「日曜の朝っぱらからうるせぇ!」

「申し訳ございません」


俺は目の前にいる女性に向かって怒鳴った。


「まあそれは良いんだけど、それで結局アンタは誰なんだよ? そしてここどこだよ? さっきのは何だよ? そもそもお前本当に人なのか? …………という感じのことを説明して欲しいんだけれど」

俺はとりあえず質問攻めをしてみたのだが……

「いやぁ実はですねぇ………… えっとぉー…………なんと言いますか……」


はぐらかすように言い淀む嵐さんだが、少しして決心したのか真剣な表情になった後で口を開いた。


「私ってば実は神様だったりするんですよ」


………… 沈黙が流れる…… いやだってそうだろ普通に考えたらこんなの有り得ないだろ……。

いくらなんでも電波すぎるだろう。

それにしても…なんなんだ、表の禍々しい見た目の塔は? なんか瘴気?みたいなのも放ってるぞ…。それによく見ればこの人の身体には傷だらけの痕とかあるし……多分戦いまくったんであろう傷が色々あった。

ただそれを言うならこっちの人も大概酷い怪我負ってたりするんだがな……っていうかなんでそんなボロボロになるまで…。


「お、私の身体の傷が気になりますか? ホイッ」


パチン。

嵐さんが指を鳴らすと彼女の全身に出来てた傷は一瞬で消え、健康的な肌に変わった。

……マジかよ……魔法みたいじゃないかこれ。

俺の中で彼女に対する警戒心が高まっていく中、また彼女は話し始めた。


「それで私はこの世界の管理神としての仕事があるのですが、先日ちょっと失敗しましてね……」

「え?どういうことですか?」


……失敗した? じゃああの塔って……もしかしてこの人が原因!?

でもそうなると、この人は一体何をするつもりなんだ?

……まさかあの不気味なタワーの中に居る人達を皆殺しに…?


「えーと、とりあえず説明が必要ですね。お茶とかあります?」


何か慇懃無礼なトコあるな…。


俺はペットボトルのお茶を二本冷蔵庫から取り出し、一本を嵐さんに渡した。


「いただきますっ」


嵐さんはペットボトルのお茶を少し飲むと、おずおずと話し始めた。


「私達神々というのは本来人間とは関わることはない存在なのですが……」


へーそうだったんだ……。てっきり俺って神にも会えると思ってワクワクしてたんだが。

……それとも、俺は特別って事なのだろうか。

………… だとしたら、ちょっと嬉しいな。

俺は少し頬を緩ませた後で再び嵐さんの話を聞いた。

……うんやっぱり神なんだね!すげぇよ神様!! 俺は興奮気味に嵐さんの話を聞いていた。

そして話はいよいよ核心へと入っていくのである。


「なるほど……つまりその失敗のせいで貴方はこの世界に干渉出来ない状況になってしまったんですね?」

「はい」


俺は嵐さんから事情を聞いて納得した。

要するにこういうことらしい。

まず、この世界を管理する神の一人がとある人間の願いを聞き入れてしまった。

その結果、その人間は願い通り自分の望み通りの世界を創造してしまったのだ。

当然他の神達はその人間が創り出した異空間に閉じ込められてしまい、出ることも出来ず、連絡を取る事も出来なくなってしまったのだという。そこで困ったことになったのは、その願いというのがとんでもないものだったことだ。

なんとその人間は、自分の願い通りに自分が思い描いた理想の世界を創り出してしまうという能力を持っていたのである。


「そこで肉の塔を神である私が建立し、完成したのですが…そこで問題が」

「問題……というと?」

「はい、実は塔が完成した途端、何故かその願いの主がその力を使って自分の部下を大量に召喚し始めました。どうやら自分以外の者は全て敵とみなしているようで……」


……え?何ソレ?


「いやー、まさか塔が自分の意志を持つなんて思わないじゃないですかーハハハ」


……あ、笑ってごまかしやがった。


「……」


俺は黙って続きを促した。すると嵐さんは観念したのか、ため息を吐いてから再び話し出す。


「まあそういう訳で、現在この世界で起こっていることは全て、あの塔の力によるものなんですよ。」

「……それで、貴方はその問題を何とかするために俺を呼んだと?」

「はい。私の眷属になって頂きたいのです!」

「……理由は?」

「ここが厄介なところでして…神こと私が作りし『肉の塔』は人の子の助力無しに破壊は出来ません」

「……」

「そして、貴方の願いも叶えられると思います」

「……それは本当ですか?」

「はい」

「……分かりました。引き受けましょう」

「ありがとうございますっ」


こうして、俺は嵐さんに協力する事になったのだった。



完。

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