屍人遣いの逡巡
この国はミサイル攻撃で滅ぼされる。
国民はその記憶を共有しているのか、皆が一様に不安そうな顔をしている。
「そんな……」
俺は呆然として呟いた。
あの時、確かに世界を救ったはずなのに――
「お兄ちゃん?」
メイラの声で我に返った。
そうだ、
『…………』
返事はない。俺の呼びかけに応えないって事は、やっぱりこっちに戻って来てないのか? じゃあ何処にいるんだよ一体。まさかまだこの国に居るんじゃないだろうな。
『……』
「くそっ!」
駄目だ。どれだけ念じても応えてくれない。何でだよ畜生!
「お兄ちゃんどうしたの?」
「え、ああいや、何でも無いよ。大丈夫だからねー」
「んふ~♪」
よしよしと頭を撫でると嬉しそうにする。うん可愛い。けど今はそれどころじゃないな。
いやまぁもうちょっとだけ撫でさせて貰おうかな。死臭が漂ってるけど。
だってこれもう殆ど死体だし。
血塗れの死体を愛でるのは趣味が悪い気がするからさ。
でもまぁ仕方ないか。俺のせいなんだし。ごめんなさい。許して下さい。
「……」
メイラに構っている間に、
その表情には困惑の様な物が浮かんでいる様に見える。
「何かあったんですか?」
「……貴方達は本当に人間なのですか?」
「どういう意味でしょうか?」
「先程の力といい、放射線に一切影響されない体といい、私達とは根本が違うように思えてなりません」
あ、そういう事か。彼女は人間の事を詳しく知らないんだ。
そしてそれは彼女の言う通りだろう。
だって俺達が居た国では、人間は普通に暮らせていたはずだ。
俺はメイラを窓から投げ捨てると核融合姫に話し始めた。
メイラはまたその辺の死体から錬成すればいい。
後で謝ろう。
「私達の体は特殊です。それ故に貴女方とは全く違う存在と言えるでしょう。ただ貴女の仰る通り、私はこの国の人間ではありません」
「やはり……では何故ここに?」
「友人に会いに来たのです。そう…
その名を出した瞬間、彼女の目が大きく見開かれた。
そりゃ驚くよね。まさかこんな所に居るなんて思わないもんね。
「彼は無事ですか!?」
「ええ、今は元気にしてますよ。貴女方が彼を封印してくれたおかげですね」
「良かった……いえ、そもそも彼が復活しなければ、あの時私が殺していれば、あんな事にはならなかった筈です」
うわぁ凄く暗い顔だ。これはきっと責任を感じてるんだろうなぁ。
でも実際彼女がやった事は間違っていないと思うんだけどな。
地獄王が封印されてなかったら1秒毎に5億人は殺されてるから。
「そんな事ありませんよ。彼は復活した後も暴れまわっていただけです。それに貴女が止めてくれなければ、もっと多くの人が死んでいました」
「しかし……」
「気にしないでください。あの時貴女が彼を止めてくれたおかげで、
「ありがとうございます。彼に伝えておきましょう」
「ええ、是非お願いします。彼はとても寂しがり屋なので」
まぁ本当は全然寂しくなんか無いんだけどね。
玩具代わりの
「それでしたら伝言を伝えて来ますが、宜しいですか?」
「はい。お任せします」
「分かりました。では失礼致します」
そう言って彼女は頭を下げると部屋を出て行った。その後姿を見ながら少し考える。もしかしたらだけどさ。もしかするともしかするんじゃないかな。俺が彼女に感じている違和感は気のせいでは無い気がするんだよな。
『……』
ああほらやっぱりそうだ。彼女は何か変だ。いや彼女達かな? 多分あれだな、呪いだな。恐らくだけど呪いで縛られて動けなくなっている気がする。それも大分強力な奴をなぁ。
だから会話が上手く行かないんだ。俺の力ならそれを解く事が出来るかも知れないけど……ん~どうしようかな? いや待てよ、そもそもこの人達は何でここに閉じ込められてんだろうな? まさか拷問器具で責められ過ぎて狂っちゃった訳じゃあるまいし。
こういう時はメイラを錬成するに限る。
俺一人で考えてもらちが明かない。
「メイラ、悪いけど一緒に付いて来て貰えるかな」
『んふ~♪ はい♪』
俺がその辺の死体に術をかけ、声をかけると彼女は直ぐに立ち上がりついて来た。
よし、これで大丈夫。何が有っても安全。
俺は彼女の手を握りながら錬金術を発動させる。そして死体を
「さぁ行こうかメイラ」
『んふ♪ はい!』
俺はメイラの顔面を一発殴ると、外の空気を吸いに出た。外に出るなりメイラが俺に抱き着いて来る。うん可愛い。
けど今はそれどころじゃないな。
さっきの彼女の様子からして、俺の予想が当っていれば、彼女はまだ呪われている。それを解かなくちゃいけない。
残念ながら俺は探偵じゃない。場当たり的に調査するのみだ。まずはこの城について調べよう。それから次に何をすべきかを判断すれば良い。
さぁ行くぞ!
「あ、ちょっと待って下さい」
意気揚々と歩き出そうとした俺に、背後から
「なんでしょう?」
「僭越ながら、この城は迂闊に歩き回ると最悪死にます」
「はい」
「ですから案内を付けさせて頂きたいのですが」
「構いませんよ」
「ありがとうございます。ではこちらへ」
そう言うと
暫く歩くと広い場所に出て、そこには沢山の兵士が集まっていた。
兵士達は明らかに普通の兵士とは違う鎧を着ており、その手には槍を持っている。
「貴方達!」
彼女がそう叫ぶと、杖を兵士達に向けこう言った。
「我らの屋根となれ!」
すると兵士達は一斉に地面に伏せ始めた。まるで軍隊蟻みたいだ。
「あの……これは一体」
「私の能力です。この者達は私に従うように出来ています」
うわぁ凄い便利そうな力だな。
これがあれば楽勝じゃん。
すると…恐らく塀の外から声が聞こえてきた。
「ハッハー! 核融合姫よ。いい加減我らに従う気はないか?」
「何度も申し上げている通り、私は貴女方に従いたくありません」
「ならば仕方ないな。貴様の仲間の命を貰おう。大人しく出て来れば命だけは助けてやる」
どうやら敵が来たらしい。しかし随分偉そうだね。
「奴らは
「成程、分かりました」
「ええ、ご武運をお祈りしています」
「はい」
俺はそれだけ答えると、メイラを連れて外に出る。
「おい、お前達。そいつらを殺せ」
「はっ」
俺はメイラを機関砲形態に変形させ、賊を迎え撃った。
おわり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます