A pleasure killer's vampire-slaying expedition.

昔々、あるところにどうしょうもない快楽殺人者の権兵衛がおりました。

ある日のことです。権兵衛は、お城の殿様から、お呼びがかかりました。


「お前さんに殺していただきたい者がございます」

「ほう、誰でございますか?」

「それは、このお方です」


と、殿様は一枚の絵をさしだしました。そこには美しい女の姿がありました。


「わたくしのむすめなんですがね、こいつをあんたの手で、ばっさりとやっていただきたいのです」

「ふうん、分かりました。100万ドルをスイス銀行の私の口座に入金して下さい」

「いいでしょう。では、よろしく頼みますよ」


こうして権兵衛は、その絵の女を殺しに行くことになりました。しかし、なんとも困ったことに、その女を殺すのに、どうしてもあと一人が足りないのです。

そこで権兵衛は、隣村の男を呼びました。

その男、田茂蔵は権兵衛の殺人仲間で殺したばかりの死体以外とセックスが出来ない困った性癖の持ち主です。

そんなわけで二人はいつも一緒に仕事をしています。

権兵衛は早速、その女殺しの仕事を田茂蔵に依頼しました。


「よしきた。任せておいてくれ」


と、田茂蔵も引き受けてくれました。

ところが、当日になって、田茂蔵は急用が出来て出かけなければならなくなりました。

そこで、仕方なく権兵衛一人で行くことになったのです。


「あーら、いってらっしゃいませ」


と、玄関先で田茂蔵の妻のお絹が見送りに出ています。お絹の腹は少し膨れておりそれを見た権兵衛は全てを察しました。

(田茂蔵、奥さんと仲良くな…あれ、田茂蔵は殺したばかりの死体以外とセックス出来なかったはず…まあいいか)

こうして、権兵衛は江戸から静岡までの旅に出ました。

途中、権兵衛は浜松宿で一泊することにしました。

そこは鰻料理で有名なところでした。

権兵衛は鰻を食べようと思いました。しかし、鰻屋に入ると何やら店中が騒々しい様子です。

どうやら天然物の鰻か養殖物の鰻かで口論になっている様子。

権兵衛は養殖物の方が美味しいと思っていましたが、ここは鰻の味にうるさい土地柄です。

養殖物が食べられるかどうか不安になりました。

すると店の主人がこう言いました。


「当店で扱っているのは天然ものでございます」

「そうですか。この辺に養殖物の鰻が食べられる店は他にないかい?」

「ございません」

「じゃあ、天然物をお願いします」


こうして権兵衛は鰻を食べることが出来ました。そして翌日、権兵衛は目的地である掛川の町に到着しました。

その町には大きな川がありました。

殿様の話によると、例の女はこの近辺で暮らしているとか。

権兵衛は絵を片手に最寄りの聞き込みをはじめました。

その結果、女が住む家はすぐに見つかりました。女の名前は、お松といい、近くの小学校の教師をしているということです。

さて、権兵衛はその家を訪れました。

権兵衛は家の裏手にある竹藪の中に隠れていました。やがて、一人の若い男が庭に現れました。


「お松、今日こそ金を返してもらうぜ!」


男は刀を鞘から抜き放ちました。しかし、その時です!突然、男の背後の襖が開き、中からもう一人、女が出てきました。


「お松を餌にした甲斐があった…また人間の肉にありつける」


女の口元からは鋭い牙が見えています。こいつは吸血鬼だったのです! 吸血鬼に襲われた男は逃げ出そうとしました。

しかし、時既に遅く首筋に噛みつかれてしまいました。

血を吸われ尽くされた男の死体はそのまま土の中へと消えていきました。


権兵衛は殿様の真意を理解しました。

お松はとんでもない吸血鬼と手を組んで人間の生き血を文字通り啜ってたのですから。

権兵衛は急ぎ足でその場を離れました。

そして夜になるまで待ち、愛用の匕首片手にお松の家を訪れました。

夜襲をかけ一気に仕留める腹づもりです。

権兵衛は家の戸を叩きました。

しばらくして戸が開かれました。そこにはお松が立っています。


「あら、どなたかしら?」

「私は旅の者だ。実は、先ほどお前さんの旦那さんが亡くなったという話を聞いたのだが……」

「まあ…それで何と?」


権兵衛は懐から匕首を取り出し、お松の頸動脈を一気に切り裂いた。

喉からヒューヒュー息を漏らしつつお松は絶命した。


「…殿様からの命令だ。悪く思うな」


こうして権兵衛は見事、女殺しの仕事を果たしました。

その様子を女吸血鬼が見ていましたが、悔しそうな顔でどこかに去っていきました。


権兵衛は江戸に戻ると殿様に報告し、スイス銀行の口座に振り込まれた報酬を使った暗号通貨取引で得た不労所得で晩年まで楽しく過ごしたのでした。



めでたしめでたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る