第10話 鬼はおった。
今日一の労働を生き残るための気力は楽しみなんじゃなと
例えば好きな本を発売日に並んで手に入れられたならその日の仕事はあっという間のようで長かったり、でもそれが空腹のときに和洋中のなかからどれを食べたら幸せになれるかを考慮したりする時間だったりする。
子供ならクリスマス前夜のプレゼントだったり宿題が終わったとのご褒美だったり
過程を楽しみゴールでその貯めに貯めた欲を解放する。
人によって千差万別、なんじゃろうけどわしにとっての過程はまあ苦難をのりこえることじゃった。
「ぬぐおおおおおおお」
「はいあと二学年分。 ここ間違えて赤ペンしてるから全部見直しね」
「鬼か自分!?」
「あるときは鬼よ」
「常に鬼じゃあ」
移動教室の離れの離れ、誰も使わん教室を指導名義で開けては呼び出される始末。
教員、
「あんたがいけないのよー電話にも出ないしドタキャンするし書類は全部持って帰るし、おかげで頭痛いわ~」
「そりゃあ自分がヤケ酒しただけじゃろうが」
「妬けにさせたのがあんたなのよ、既読も付けないから不安で不安でおかげで二日酔いだわ。 そこ間違ってるわよ」
「じゃけんて酒に逃げるんは違うじゃろ」
「はい手を進めるぅ。 あんた立場分かってる? 繋がった皮一枚の分際で私から逃げたのが間違いなのよ、これちゃんと丸ペケしなさい」
「三年生の宿題は流石にわからんて」
弱みを握られることの恐ろしさは身に染みてようやく分かると思っとったがそれはまだ罰を受けていない甘い考えじゃった。 結局の所、教師と生徒じゃしそこまで学区外での行動にどうこう口を挟んでくるとは想定せんかった。
「アンタも大人になったら分かるわよー。 猿共の『なんで学校で化粧はーなんでいじめはー』とか、関係ないのよ。 それでもあんたらが泥塗ると食い口がなくなんのよ。 あ、食い口のほうはアンタでも分かるわよね」
「ああそうじゃな」
「『そうですね先生』」
「そうですね!!」
方言にまで文句言うなや、必死に手を動かしても熱せられたように体温を上げる脳は反比例して速度を落としてしまう。 必死に詰まれたプリントに赤ペンで採点をするのは楽だがその後に生産される得点はまるでDNAのように千差万別、底に時間を割かれ間違えまた採点、そして終わったも確認でまた採点をして、なのに満了した紙切れを白瓦は適当に眺めては間違いを見つけそれをわざわざわしにやらせよる。
自分でやった方が早いのにわしにやらせるんは罰として十二分に実力を発揮した。
「あんたやめたんだってねえ、だからいやらしいとこでぱぱっと稼げば良かったのよ、あんたニキビもないし髪は無駄に艶ってんだから」
「~~~っつ、気色悪い!! だれがするかっ」
「あっそ。 じゃあどうすんの、飲食? 女はホールに立たされるわよ~ そんでもって巡回してる教員にみつかってアウト。 まあ学生で飲食以外ならもう夜の仕事か深夜のコンビニでしょうね、それも夜に歩き回ってる奴に脅されそう。 あんたコンビニで働けばあ?」
「じゃけんやめたんがコンビニなんじゃえ」
「なにキレてんのあんた」
「キレとらんわ」
否、キレとる。 正直もう放課後にありつけるご飯で頭がいっぱいじゃった。 さっきから時間の確認のために電源を付けるスマホの待ち受けには唯一この学校でラインを交換した生徒である天空からあおりのメールばかり流れてくる。 それでもイラッとさせる文言ばかり送ってくるのは確実に
「あんた友達できたの、長かったわねえ」
「いやおるし、はじめからごっつおったし!」
「ライン私しかいなかったじゃない、何、カラオケでもいくの。 女は好きよねー歌わなくてもカラオケでだべって」
「そんなんじゃないわ」
「じゃあなによ、天空て同じ学年でしょ」
「勝手にみんなや」
「口悪っ」
「標準じゃ」
わしにとってはこれが標準じゃけんなにを言われようと直すつもりはない。 もちろん社会では通用せんのは理解しとる。 それでも学生のうちは色々と見えないものに守られて抵抗してしまう時期なんよ。 近づくだけで鼻が首より先に稼働してしまいそうな香水の匂いにやられ目も背ける。 これを白瓦は「幼い」と言ったが事実、未成年。 じゃけども法律は子供よりわがままでわしらに大人へ成ることを要求する。
学生のうちに酒飲める年齢になるとかおかしいじゃろ
「まっさか優等生コンビと手を組むとはねえ、勉強会でも開くつもり」
「はっ、こいつらが優等生とか冗談じゃろ。 ずっと阿呆なことばあしよるぞ」
この今までの会話に丸の話題は上がっていない、それでも白瓦が天空と聞いてコンビというのなら職員室とかでもこの二人はセットで扱われとるんじゃろうか、もしそうならどれだけ仲良しなんか。 お墨付きと言ったところか。
「あんたよりコイツらのほうが成績遙かにいいわよ」
「まじでか」
中学と違いこの高校では廊下にでかでかと順位を貼らん、それでも5教科70点以下なんぞあっても三回、80点以下は恥レベルで点数維持はしとるつもりじゃが。
わしをこき使っとる白瓦はできる限り脅しの材料を手に入れるためにわしのことを調べあげるせいで成績は完全に筒抜け。 クソうざい。 それでも好成績者は職員室で話題になるそう──白瓦調べ──じゃから
「天空は毎回3教科は満点取ってるし、連れの子は数学と歴史で百点以下取ったことないわよ」
「嘘じゃろ」
なんでこんな底辺高校通っとんな。 丸とか完全、体育5の他オール1みたいな成績してそうなものを
「今度、みせてあげるわよー?」
「いや、だめじゃろ」
なに平然と個人情報を
それでもあの二人なら聞けば教えてくれそうな、特に丸は自慢してきそう。 絶対あいつはひけらかすタイプじゃな。
紙束の約9割が終わる。 指がしんどい、バトル漫画の主人公のように動かないはずの体を無理矢理に動かして強大な敵に一矢報いるようにパンパンに膨らんだ筋肉はただひたすらに脳から送られる電気信号を拒否できず稼働し続ける。 普段から大人はこんな膨大な量を消化しているのかと思う反面、もう白瓦が夏休み最終日に宿題を開封パーティーして消化するタイプか、その二択。 後者が教員になれるのかという問題だがそんな無計画ナ人間はできそうにもないなあ、特に白瓦はわしのことを居残りさせるの前提でプリントを手つかずで用意し取るわけじゃし。
「あんたあれでしょ、成績四天王作るきだ。 顔もいいし流行るでしょうねえF4だ」
「古っ、ぎり分かるけど古いわ」
それに三人なら三銃士とかじゃろ
「バカね、四人目のシルバーはすでにやられたわ、魔獣にね」
「なんか増えとらん?」
誰がわかるんそのネタ。
「……よっしゃ終わったー!!」
「釈放ね」
中学生の頃なら立派に孤独を司る王になれるくらいには利き腕が震えとるでほんま……
白瓦は窓開けて煙草を吸い始めた。 お疲れの一服のつもりだろうが本間に疲れとんのはこっち……と言いたいところ実際は全てに目を通してミスの確認をしとるから結構体力を使っているのかもしれん。
「自分、バレてもしらんで」
「大丈夫。 あんたのせいにするから」
「ほんまに鬼やな」
「言っとくけど、私はまだ
「んぐっ」
卑怯な大人や。 ここで大人は卑怯やと言ってしまえば全ての成人に嫌悪を抱き、その大人に自分がなるのだから日本語は難しい。
そんで腹が減った。
「お腹へってんのあんた」
「なんでわかんねん」
「あんた低血糖にヌボーとしてるときあるから」
「いや嘘、絶対に嘘。 なんじゃヌボーて、わけわからんのじゃけど」
「あんたしてるわよ。 やだ、無意識?」
「え、まじなんやめてや」
ヌボーとしとるんかわし、ガチで気をつけんとなんかこう……嫌んなる。
「奢ってあげてもいいわよー」
「裏があるな」
「給料日に倍返し」
「ほんまこすいわ」
さっさと帰ろう。 確か天空と菫はインターホン押す前にラインしてくれーて言っとったけどサプライズかな? て変に期待してみたり、でも山吹ちゃんは一人暮らしじゃけんなんか対策とかしとるかもしれん。
あ、「天空が沢山作るから」て昼に言ってたなあ。 つまり揚げ物? それなら突然、来訪者がきても開けれんなあ。 でも三人おるやん……餃子か? それなら沢山あってみんなで作って手が汚れるし玄関開けるのは少し時間がかかる。 事前にいつ頃に到着するか伝えないといけん。
でもそうなったら遅れてやってくるわしだけなんも手伝ってないし完全なタダ飯やん。
「うわーどないしよう」
お土産とか買うべきか? そもそも前回が突然すぎてえらいびっくりさせとんじゃし菓子折くらいもっていかんといけんがな!
「よっしゃ」
「アンタ怖いわ」
「ふっ、今日はごちそうやねん」
「やだ外食すんのねあんた」
「後輩ちゃんの家で飯、ごちそうになるんよ」
「後輩? 天空と菫じゃなくて後輩? へぇ……あんた後輩いたんだ」
おるやろ。
「あー先生も一年の担任じゃけん山吹言うんじゃけど、知らんの?」
「山吹ってその子、不登校よ」
「ま?」
花丸まあく! 鬼ごろ氏 @OniOniitigO0
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