第十一話 せんしゃ

 激しい振動で目が覚めた。どうやら眠ってしまっていたみたいだ。僕は横になっていた体を起こして、何も見えない暗闇の中、外で響く音だけを聞いた。


ドパパパパパパパ!


機関銃を連射しているような音。


ダダダダダダダダダ!


血飛沫が勢いよく当たるような音。


それが車体の中に大きく反響している。その日常ではまず聞かないであろう音に僕は両耳を塞いだ。


外の様子はわからないけれど、とにかく怖い。僕はその場でじっと蹲る。早く終わってくれ。


その直後、僕の嗅覚に煙の臭いが届いた。硝煙の匂いだろうか。周りも明るくなってきて、僕は身構える。ここに敵が入ってきたのかもしれない。そしたら子供の僕は捕虜になって、遠くに売り飛ばされるんだ。そんなの嫌だ!


「助けて、お母さんっ!!」


叫ぶと、前方で車を運転していたお母さんが振り返った。口元にはタバコが咥えられている。


「ん、もう洗車終わったよ。うるさかった? ごめんね」

「……え?」


僕は車の窓を覗いてみる。丁度大きなブラシが回転を止め、そこを抜けるところだった。機械洗車での音を聞いて、寝ぼけた僕は戦場にいると思ってしまっていたらしい。


ごめん、違いだったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る