第八話 振り返ってはいけない道

 私は暗い夜の中、家を目指して一人で歩いていました。道中、謎の看板を見つけたので、目を通してみます。


『この先の道では様々なモノがあなたを誘惑してきますが、決して振り返ってはいけません。振り返ると神隠しにあってしまうのです』


「神隠し……? 怖いわね。わかったわ。前を向き続ければいいのね」


私は意を決して、看板の奥へと足を進めます。


 まず最初に高身長のイケメンが歩いてきました。目を奪われるほどにかっこいい容姿をしていましたが、ここはぐっと我慢。私は振り返らないように前にだけ集中します。


「うう……後ろが気になる」


 次に、後ろの方からこちらへ近づく足音が聞こえてきました。コツンコツンコツン、とヒールの音が段々と大きくなってくるのです。振り返りたい。後ろが気になる。でも、これは私を振り返らせるために鳴っている音。釣られてはいけません。


 その後は、しばらく何もない時間が続きました。これに私は油断してしまったんです。突然後ろから「ワッ!!」と何者かに驚かされました。


「い、いやあああ!!」


と叫び、反射的に後ろを見ようとして止まります。危ない危ない。これは反射的に後ろを振り向かせようとしている罠です。私は改めて頬を強く叩くと、もう振り返らないと強く言い聞かせて進みました。


「……え?」


 そんなときに向こうから歩いてきたのは、去年亡くなったばかりの私のお母さんでした。


「どうしてお母さんが生きているの……?」


私は困惑します。お母さんとすれ違った後も、心を揺さぶられ、とても後ろを見たくなります。でも、私は首を左右に振りました。私は絶対に振り返らない。神隠しにあってたまるものですか!!


そして、さらにしばらく歩いているとまた何もない時間が訪れます。夜の道ということもあって、私は恐怖心に負けそうになります。


「お母さん……!」


亡くなったお母さん。お母さんはとても優しい人でした。いつも私に温かい肉じゃがを作ってくれて、それが私の大好物でした。そんな思い出に浸っていると、怖い道もなんとか歩き続けることができました。


それからも歩みを進めましたが、私が家にたどり着くことはありませんでした。

私が神隠しにあってしまったと気づいたのは、私が歩き疲れてから数時間経った後でした。

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