第七話 怪しい時計

 やべ、また赤点とっちまった。職員室に呼び出された俺は先生に頭を下げる。


「いい加減にしろ」

「すんません」


こっぴどく叱られたその帰り道、俺は道端に座る小汚い爺さんを見つけた。その爺さんは俺のことをじっと見つめる。それがなんかすごい気になって、我慢ならなくなった俺は声をかけた。


「なあ、なんでそんなに見てくんだよ」

「君、困ってるでしょ」

「はあ?」


爺さんはそう言って俺に怪しい時計を渡してきた。横にボタンがついていて、カチカチと押すことができる。


「それはタイムスリップすることができる時計だ。ただし、未来には行けない。あくまでも過去に行くための時計だ」

「へえ、そりゃ便利だ。ってことは、いろいろと未来を書き換えて幸せになっていいんだな?」

「ああ。しかし気を付けるんだな。その時計は衝撃に弱い」

「わかった。大切に扱えばいいんだろ!」


俺は早速その時計を使ってみた。手始めに昨日のテストがあった日に行く。どんな問題が出るのか完璧に暗記していたのであっさりと満点をとれた。これで赤点を回避し、そのうえでクラスでも目立つことができた。


「うほ! さいこーじゃん」


ここからは俺の好きなようにした。体育祭前日に運動できる奴に下剤を入れて徒競走で勝ってみたり、不良に絡まれる女の子を助けてみたり。気づけば、俺はモテモテになっていた。


「俺君、だいすき!」

「何よ、俺君は私のものよっ!」


と、まあこんな感じ。学校での俺はまさにハーレム状態。幸せな日々に俺は鼻の下を伸ばし続けた。登校すれば俺の周りに人混みができるし、下校するときは玄関に女子生徒が並んで道を作ってくれる。まるでスーパースターにでもなった気分だ。みんな俺に触れようと集まってきて、押すわ押すわ。もう大変よ。


「俺くぅ~ん。すきですわぁ~!!」


その中で、とても横に大きな子が俺にぶつかってきた。その勢いに耐えられず俺は倒れてしまう。ヤバい! そう思ってももう遅かった。時計にヒビが入る。それを見た俺の顔から血の気が引いていく。


何も触っていないのに、時計は勝手に遡り始める。待て、待て、待て待て待て。

このまま時間を遡り続けたら……!!


俺は中学生になる。

俺は小学生になる。

俺は幼稚園児になる。

3才……2才……1才……0才……。


まだまだ時は遡り続ける。

俺は受精卵になり、卵子と精子に別れ、そして消失した。


世界から俺の存在が消えた。

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