第六話 価値感覚
僕は高校に入学して、そこで知り合った友人の勧めでアニメを見るようになった。元々はそこまで詳しくなかった僕も、徐々に沼にハマり、今では通販サイトでフィギュアやアクリルスタンドやタペストリーを調べてニヤニヤとするほど。サブスクには3つも加入し、ゴリゴリのアニオタになっていた。
そんなある日、僕はその友人と一緒に中古ショップを巡る。
「あー! このフィギュアずっと欲しかったんだよね!」
「中古ショップのフィギュアは危険だぞ。新品で買った方がいい」
「そう?」
「悪いことは言わない、やめとけ」
友人に言われて僕は手に取っていたフィギュアをそっと棚に戻す。そして隣のショーケースに飾られていたアクリルスタンドに目を移す。
「見て。このアクスタ、こんなに大きいのに1800円だって。安くない?」
「まあ、そのサイズなら3000円はするからな。だが、普通の人から見ればこれが1800円でも高く見える。お前も染まってきたな。オタクのグッズに対する感覚はバグりやすい。財布はこまめに見た方がいいぞ」
「わかってるって。じゃあ、今日のところはこのショーケースの3体くらい買っていこうかな」
「……正気か? 5000円も使っていいのかよ? 今期のアニメはお前の好きな作品多いだろ。そのグッズはいいのか?」
友人はそう心配してくれているが、大丈夫だ。バイトを始めればすぐにこのくらいは稼げる。何の躊躇いもなく、僕はこのグッズをレジに通した。
それからも、僕は狂ったようにグッズを買い続けた。時には親からお金をくすねることもあった。それでも中古ショップの商品は安い。今のうちに買わなくては誰かに盗られてしまうかもしれない。僕の彼女は僕が守らないといけないんだ。
だめだ、お金が足りない。それなら僕のゲームを売ろう。僕はフリマアプリに手を出した。僕のゲームは3000円で売れた。
「これだけ? 少ないなぁ。なら次は……」
僕は次から次へと物を売り続けた。友人のアニメグッズ、さらには親の貴重品も盗んでは売ってを繰り返した。いつの間にか僕の貯金は120万円にまで膨れ上がる。僕はその全額で等身大の推しフィギュアを購入した。100万ちょっとで推しに抱きつけるだなんて安すぎるよ。いい買い物をした。
ああ、好きだよ。○○ちゃん、大好きだ。
僕は毎日推しのフィギュアに口づけをするのが習慣になっていた。大好きなんだ。みんなも彼女にキスをするだろう? それと同じだ。
そして僕は高校を卒業する。同時に僕は親から家を追い出された。一人で生きていける貯金はないので、友人を頼ることにしよう。
「誰がお前を助けるかよ」
友人にも見捨てられた。住む家も頼りもない。お金がないと生きていけないと、このとき初めて気づいた。
「お肉ひとパック290円? 高いって……」
僕はついに彼女を売ることにした。仕方ない、生きるためだ。
「中古のフィギュアは危険……こういうことだったんだな」
彼女を手放し得たお金も一瞬で消えた。そして僕は道端で寝るようになる。
こんな僕に価値はあるのか。いや、きっとない。だから死のう。そう思っていた。そんなある日、友人が再び僕の前に現れた。
「俺さ、起業したけど失敗しちまってさ。借金1000万、肩代わりしてくれよ。もちろん、報酬は出す」
「する……! いくらだ!?」
「1000円」
そんなにくれるのか。これはいい話だ。
これで今日は生きていけるぞ。
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