第五話 面接
今日、面接の約束をしていたT君が予定時間より3時間も遅刻をしてウチにやってきた。この時点で俺は不採用にするつもりだったが、T君が「どうしても」と言うから、武士の情けで面接だけやってやることにした。
「本当に、本当にありがとうございます!!」
T君は面接会場に入ると、涙を流しながら俺に頭を下げた。人としては終わっているわけだが、ちゃんと謝ることができるだけ、まだ救いようがある。俺はT君と対面して座ると、顔面をべちゃべちゃに濡らしたT君の肩を叩いた。
「いいか、お前のしたことは最悪だ。社会に出て、時間を守れない奴は早々に首を切られる。今回だけはその姿勢に免じて見なかったことにしてやるが、次はないと思えよ」
「はい……! ありがとうございます!」
「うん。で、履歴書見せてもらってもいい?」
「どうぞ!」
T君から履歴書を受け取ると、俺はサラッとそれに目を通す。その中の現住所の項目に『宇宙』と書いてあった。こいつ、今の謝罪は何だったんだ。舐めてんのか。
「……あのさあ、現住所が宇宙って何? ふざけてるなら帰ってもらってもいいかな」
「いえ、私、宇宙人なんですよ」
おいおい、このかしこまった場でよくそんなことが言えるな。肝だけは据わってるみたいだ。なら、ヤクザの揉め事の仲介人とかやればいいのに。そっちのが余程天職だろ。
「もう勘弁してくれ。俺はそんな宇宙人ごっこに付き合うほど暇じゃないんだ」
「本当なんです。……僕の住む場所は広大な自然が広がっているんです。この街よりも全然文明が追い付いていなくて、大きな森が広がっていました」
「はあ? もういい。面接は終わりだ」
「待ってください!!」
俺が切り上げようとするとT君は勢い良く立ち上がって俺を止める。必死さはよくわかるのに、どうして大事な部分でこんなにダメダメになってしまうんだろう。
「私、遠くから来ているので、絶対に何か残して帰りたいんです!」
「なら、なんで宇宙人なんてしょうもない嘘をつく」
「嘘じゃないです。私は宇宙人ですよ」
「なら……」
俺はT君を一瞥するとひとつ訊いてみた。なんで俺もこんなくだらないことを訊いているのか不思議だったが、興味本位だった。
「お前は何ていう惑星から来たんだよ?」
「……え、何言ってるんすか、地球に決まってるじゃないですか。北海道から上京して来たんですよ」
「は? じゃあ宇宙人ってやっぱり嘘じゃないか」
「宇宙人ですよ。大きな目で見れば私たちは地球に住む宇宙人です。それなら、現住所は『宇宙』って書いた方が楽じゃないですか」
うん、お前不採用。
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