第四話 売れないお笑い芸人

 今からとあるネタを見せるで。せやから、これが面白かったかどうか、みんなで評価してやってくれや。


***


「どうもー! 凹凸おうとつフレンズですー、お願いしますぅー」

「はいぃー。……あら、あらあらあら! こんなにたくさんお客さんがいらっしゃるんですねぇ! 今日寒いのにぃー」

「ですねぇ、こんな漫才師のためにねぇ」

「いや、それ言ったらお客さんの期待値下がるやろがいっ! ただでさえ売れてないんやぞ!?」

「お前も期待値下げてるけどな」


まずは出だしに軽いボケを入れつつ、本題に入っていく。


「なぁ、聞いてくれよ。俺な、不満があるねん」

「お、どうした」

「ハラスメントってあるやろ? お酒無理に飲ますアルハラ、嫌がらせをするモラハラ、同期のちょげっちの不倫騒動にハラハラ」

「最後のは違うけどな」

「まあ、俺が不満言いたいのはセクハラやねん」

「セクハラねぇ、俺は田舎育ちだったからあんまり馴染みのない話やけど、都会じゃ痴漢冤罪とかあんねやろ? 男からしちゃあ、たまったもんやないよな」

「せや。そして俺が何でセクハラに不満持ってるかって話なんやけど、実は、可愛いお姉ちゃんジロジロ見るだけでもセクハラになるらしい」

「はぁぁ!? それ、ほんまかいな!?」

「ほんまや。これすなわち、男に人権ないっちゅうことやな」

「まあ、しゃあないわな。一部の痴漢するやつがいるから、電車で男の立場弱なるんや」


***


 お笑い芸人グランプリに出場していた俺は、ネタを終えると一礼した。事務室の中で、淡々と俺のネタを見ていた審査員は拍手をすると、俺のことを不思議そうに見る。


「そのネタはいつ頃作ったものですか?」

「えぇと、最近ですかね」

「そうですか……」


審査員は首を傾げながら、メモに何かを書き記している。俺は不安になりながらも、本戦出場を願うことしかできなかった。


「凹凸フレンズさん、漫才って何か知ってますか?」

「そりゃ、芸人ですからね。二人で滑稽な掛け合いを行う芸のことっすよ」

「……では、凹凸フレンズさんはなぜピン芸人なのに漫才をしているのですか?」


たった一人で漫才をやり切った俺に審査員は納得のいかない顔で訊いた。


「相方が女性でね。ネタの打ち合わせで顔見ながら喋ってたらセクハラ言われてコンビ解消したんすよ」

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