第一話 餃子

 とある横浜の、とある中華街。腹を鳴らした俺は適当な店に入って注文する。


「餃子定食ひとつ」


言ってすぐにメニューに書いてあった代金が目に入る。明らかにおかしな値段設定。俺はそれを注文をメモに取る店員に尋ねてみた。


「なあ、この店の料理、全品無料ってどういうことだ?」

「はい、この店は最近やり始めたので、上手く料理を出せる自信がないのです。ですので、しばらくの間は無料に」

「ふぅん」


店を出しておいて自信がねぇとは驚きだ。自信のない料理をよく客に出せるな。俺はそこに怒りを覚える。


 少しして、料理が運ばれてきた。見た目は普通の餃子。香ばしい香りが俺の鼻腔をくすぐる。


「いただきます」


餃子を割ってみると、肉汁が溢れ出た。なんだよ、美味そうじゃん。心配して損したな。これが無料で食えるだなんて、最高じゃねぇか。


俺は何回か咀嚼しながら、ふと、とあることに気がついた。餃子って、にらやにんにくなど、臭いの強い食材が多く使われている。それに加えて、醤油、酢、辣油と、主張の強い調味料につけて食べる。それなら、中の食材は皮に包まれてわかりにくいし、ケチってもバレないんじゃないか? 


そう、例えばこんにゃくとか。ほら、こんにゃくをバラ肉で巻いてトンカツにするヘルシー料理とか、最近流行ってるじゃん。その要領でなんかの代用品を使えば、低コストで客の舌を騙すなんてことも……。


「いや、ないか。もしそれがバレたら大問題だ。記者会見で頭が真っ白になりかねない」


俺はそんなどうでもいい妄想に浸り完食すると、店のレジに移動し、念のためにベルを鳴らした。


「本当に代金はいいのか?」

「はい、代金は頂戴致しません」


店員に改めて確認をとった俺は店を出ようと背を向ける。同時に後ろに強烈な痛みを感じた。振り返ると、店員が俺の背に包丁を突き刺しているのが見えた。


「!?」

「この店は最近、人肉を使った料理開発のために殺りはじめたので、食材が足りておりません。ですので、安定して料理を出す自信がないのです。なのでしばらくの間は、お代金の代わりにお客様の人肉を頂戴致します」

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