ダークエルフの里。歓迎の祭り、ジュラルタイガー(食用)

 リノンと共に歩き出した僕達は短い草原を抜けて

 1時間も立たずダークエルフの里が見えた。


 こんな近くにlv400の魔物が出れば騒ぎにもなるか。


 するとリノンが話し始めた。


「発見情報を聞いて総員で森の様子を見にきたんですが

 正直、敵を見くびってまして分散して捜索に当たったのが間違いでした」


 なるほど、それで一人だったのか。


「皆には連絡を入れて、無事討伐した事とノエルさんの事を通達しました。

 歓迎してもらえると思いますよ」


 事前に通信で連絡してくれていた様だ。


 村に着くとリノンと同じダークエルフが10人ほど集まり迎えてくれた。

 どうやら討伐に出てた他の人達が一足早く戻ってきていた様だ。


 そしてリーダーと思われる人が話しかけてきた。


「この度はジュラルタイガーの討伐に助力頂き有難うございます。

 私は隊長のライラと申します」


 丁寧に自己紹介を頂いたのでこちら紹介をと思ったんだけど


『セフィ姉さんこのタイミングで顔出しとかないと後で面倒じゃない?』


『そうね。転移を使える事がバレちゃうけど仕方ないわね。

 ダークエルフならおかしな事を言う子もいないでしょう』


「はじめまして、僕はノエルと言います。こちらの竜人族の子がハク。

 それともう一人、別の場所で待機してる人も紹介したいので

 今ここに転移で呼んでもいいですか?」


「転移が使えるのですか!?」


 ライラは予想以上に驚いた反応を見せた。


「今行ける場所は森の中だけなんですけどね」


 僕は正直に答えた。


「そうでしたか。実は村のゲートが機能しなくなってもう200年近いのですが

 ここは孤立した村になっているのでつい期待を・・・」


『ゲートって転移扉のことかな?壊れてるのかぁ。治せるかな?』


『まぁその辺の事は後にしてとりあえず呼んでくれるかしら?』


『ごめんごめん。すぐ呼ぶね』


 僕はゲートを開いてセフィ姉さんを呼び出す。


「はじめまして。エルくんのお姉さんのセフィです♪」


 セフィ姉さんは軽いノリで挨拶した。そんな感じで行くんだ・・・。


「本当に転移が使えるんですね・・・」


 ライラは驚きと期待が混じった様な反応をしていた。そして


「はじめまして。何もない村ですが出来る限り

 おもてなしさせて頂きますのでゆっくりして行ってください」


 僕達を歓迎してくれた。


 村に入った僕達は小さな古屋に案内され、そこを自由に使っていいと言われた。

 村は人口200人ほどで、先程の討伐隊含め戦闘要員が20名

 他にも農業、漁業、生産業に従事する者で構成され

 若く見える者もいるが子供がいなかった。

 そして村人は年配の数人を除き全て女性だった。


「夕食はささやかですが歓迎を込めて振舞わせてください。

 村人も集まっての食事になるかと思います」


 古屋でゆっくりしているとリノンが訪れて伝えてくれた。


「ありがとうございます。楽しみにしています」


 僕はお礼を言い、そしてふと思いついた。


「そうだ。さっき取れたジュラルタイガーの肉って食べれます?」


「とても美味ですよ♪」


 リノンは食べた事がある様で、その味を思い出して笑みを浮かべていた。


「でしたら夕食にみんなで食べませんか?」


 僕は折角なので提案してみた。


「あれはノエルさんが倒した物ですので自由に使って頂いて良いのですよ?」


 気を遣ってくれている様だ。


「では僕がそうしたいので使ってください」


 僕はリノンに微笑みながら返事をした。


 そして、素材庫から解体したジュラルタイガーの肉を渡した。

 結構な量だからみんなで食べても十分だろう。


「夕食が楽しみです♪私も料理を手伝うのでこのまま持って

 行かせてもらいますね。ありがとうございます」


 リノンは大喜びで大きな肉を軽々と持ち上げ厨房へ向かって行った。


「エルくんはお人好しだなぁ」


 セフィ姉さんは呆れながらも少し嬉しそうに言った。


「晩御飯楽しみ♪」


 ハクは昨日の晩御飯でお肉が気に入った様だ。


 ・・・・


 夕食を待つ間、僕達は少し今後の事を話し合った。


「とりあえず無事、村の到着出来てよかったわ」


 まずは、セフィ姉さんが話し始めた。


「そうだね。この後どうしようか?」


 僕はとりあえずセフィ姉さんの意見を聞く。


「んーエルくんはどうしたい?」


 逆に質問が帰ってきた。

 僕は少し考えてこう言った。


「しばらくはこの村で出来る事をして、また旅に出たいかな」


・・・


 そうこうしているうちに夕食の時間になりリノンが呼びに来てくれた。


「夕食の準備が出来ましたので広場へご案内しますね。

 村人全員でのお祭りになりそうで広場でみんなで食事になりそうなのですが

 宜しかったですか?」


 祭りかぁ。楽しそうだな♪


「楽しそうですね。ぜひ参加させてください」


 こうして僕達は祭り会場も広場へ向かった。


 広場に行くと本当に村中の人が集まっていた。

 広場の真ん中には火と鉄板がありバーベキュースタイルになっていた。


 少しすると近くに年配のエルフの男性が現れた。


「私はこの村の村長のウルと申します。

 この度は村を救って頂きありがとうございます」


 どうやら村長だったらしく丁寧に感謝の言葉を受けた。


「ゲートが機能しなくなり村を訪れる人もいなくなり、静かに暮らしていたものですから年に数回の祭りの日でもこれほど盛り上がる事はありませんでした。

 ジュラルタイガーの肉まで提供して頂き本当に感謝しています」


 これほど喜んで貰えるなら提供した甲斐があった。


 村長は続けて話す。


「これより、祭りを開始致します。宜しければノエル様も乾杯の音頭をとっていただけませんか?」


 急に振られて慌てる僕をよそに村人達はこちらに注目している。


 あまり待たせるのも申し訳ないので慌てて挨拶をする。


「この度はこの様な食事にお招き頂き本当にありがとうございます。

 暫くこの村に滞在させていただき何かお役に立てればと思っています。

 食材は僕からまだ提供させて戴きますのでみなさんお腹一杯食べてください」


 村人達から歓声が上がる。


「素晴らしいご挨拶有難うございます。もうすぐ最初の肉が焼けますので

 最初に食べていただけますか?」


 そうして僕の目の前にお肉が運ばれてきた。


 僕はそれを口に入れる。


 一口食べると肉汁が口いっぱいに広がる。

 かかっている甘酸っぱいソースが素晴らしく美味しい!


「美味しい!」


 僕は思わず叫んでいた。


 そして、村人達からまた歓声が上がり次々に肉が運ばれていく。


「本当に美味しいわね!」


 セフィ姉さんは満足そうに肉を食べていた。


「美味しい!おかわり!」


 ハクも大満足の様だ。


 しかしこれは・・・米が欲しい!


「セフィ姉さん。みんなにご飯を出しちゃだめかな?」


 もしかして反対されるかな?と思いながらセフィ姉さんに提案する。すると


「確かにこれには米が必要ね!」


 意外にも乗り気だった。


「米欲しい!」


 ハクも米の魅力をわかっている様だ。


 僕はガーデンの木で作った木製のボールを複製し

 炊き立ての白米を広場の中央の配膳しているテーブルに出しまくった。


「これは何ですか?見たことの無い物ですが食べ物ですよね?」


 丁度配膳から戻って来たリノンが白米に気づいた。


「これは僕の故郷の主食でごはんと言います。

 お肉に良く合うのでみんなに食べて貰いたいのですが良いですか?」


「ありがとうございます!早速私も食べてみてもいいですか?」


 リノンは早速、挑戦しようとしている。


「ぜひお肉と一緒に♪」


 僕は是非と進める。


 そしてみんなが注目する中、リノンがごはんを食べる。


「これは!甘い、けどみずみずしい。

 優しい味だけどお肉と絶妙に合います!こんなの食べたことないです!」


 気に入って貰えて良かった。

 見ていたみんなも続々とごはんを食べてみんな感動していた。

 肉は次々と焼かれているがさすが3mを超える虎だけあって量は十分そうだ。


「肉に加えて不思議なご馳走まで本当にありがとう。

 私も頂いたがあれは素晴らしい!」


 ライラも気に入ってくれた様だ。


「ところでノエル殿はお酒は行ける口ですか?」


 ライラはどうやらお酒を勧めてくれている様だ。 

 僕はセフィ姉さんの方を見る。前世ではお酒は飲んだことがある。

 嫌いではない。むしろ好きだ。しかし今は15歳なわけで・・・


「こっちではお酒に年齢制限はないから飲み過ぎない限り大丈夫よ♪

 一緒に頂きましょう。ハクは流石にだめだけどね」


 セフィ姉さんは楽しそうに言った。


「むーだめなの?」


 ハクはむくれている。可愛いな。


 僕達はお酒を二つとジュースを一つ貰った。同じ果物を材料にしているらしい。

 


「美味しいですね!」


 僕は一口呑んで言った。

 味はワインに近いが甘味があって飲みやすい。


「お口にあって良かった。カプの実を使ったカプ酒と言います。この辺りの森でよく取れる果物で村独自のものなのですが年に数回の祭りの際に振る舞われるのです」


 ライラが説明してくれた。


「僕らもお酒を提供しちゃおうか♪」


 お酒も入り気分が良くなった僕はセフィ姉さんに提案する。


「あれって調味料なんじゃないの?」


「調味料にも使えるけど日本酒だから結構アルコール度数高いお酒だね。」


「飲みたいわね♪」


 反対されるかと思ったけどむしろセフィ姉さんは乗り気だった。


「じゃあ盛大に行っちゃいますか!」


 僕はカプ酒を入れていた樽を複製し、そこになみなみと日本酒を注ぎ込んだ。


「これはお酒ですか?」


 ライラは興味を持った様だ。


「これも僕の故郷のお酒です。さっきのごはんから出来てるんですよ。

 酒精が強いので飲み過ぎに気をつけてくださいね」


 僕は一応、注意喚起をしておく。

 ライラは早速口をつける。


「これは確かに酒精が強いですね。果物とは違った甘味、

 好みはあるかもしれませんが美味しい!私はかなり好みです」


 気に入って貰えてよかった。


「何これ、めっちゃ美味い!もっと早く飲んどけば良かったかしら♪」


 セフィ姉さんも気にいったみたいだ。

 日本酒もみんな口々に試していく。驚いた事にみんな絶賛していた。


 こうしてお酒も入り祭りはどんどん賑やかになっていく。

 何処からか音楽が流れて始めた。民族音楽の様な、それでいて何処か懐かしい音楽がさらに祭りの雰囲気を気持ち良くしてくれる。

 各々に踊ったり喋ったり自由に楽しんでいる。


「とてもいい村ですね」


 目の前に広がる温かい光景を見て僕は思わず口にこぼしていた。


「ありがとう。みなで力を合わせて日々を過ごしている。

 ゲートが機能しなくなり交流が無くなり閉鎖的にはなってしまいましたが

 争いもなく平和に過ごしています」


 ライラは誇らしそうに言う。


「無理に交流を復活させない方がいいのかな?」


 僕は自分がしようとしている事が正しいのか、ふと疑問に思い口にした。


「それはありませんね」

 

 ライラははっきりと言い切った。

 そして続けて説明してくれた。


「この村は子供がいません。そして若い男性もいないのです。このままではいつか村は滅びます。列島沿いに船を出してゲートを復活させる方法を探しに行っている者もいます。ただ何処のゲートも機能停止しているらしく今では当てもない状態です」


 どうやらこの村は危機に瀕している様だ。


「さらにエルフ族全体としても男性が生まれにくく、そして子供が産まれにくくなっています。特にダークエルフの男性はもう200年は産まれていません」


『ゲートって直せないかな?』


 僕は念話を使ってセフィ姉さんに聞いた。


『エルくんなら新しいゲートが作れるけど、行った事がある所じゃないと繋げられないからねぇ・・・』


・・・


 そうか、僕が世界を回ってゲートを繋げば良いのか。


「セフィ姉さん。僕達の今後の旅の目的なんだけど各地のゲートを繋いで周る旅にしちゃダメかな?」


 僕はセフィ姉さんに提案する。


「エルくんがそうしたいならそうしなさい」


 セフィ姉さんは笑ってそう答えてくれた。


「ハクもいいかな?」


 ハクにも聞く。


「ハクはエル兄について行く。どこでもいい」


 僕を信じてついて来てくれる事が素直に嬉しかった。


「じゃあ決まりだね。ついでに各地で出来る事があれば手助けして行こう!」



「ゲートが作れるのですか!?」


 話を横で聞いていたライラが驚いていた。


「時間は掛かるかも知れないけど頑張ってみるよ」


「エルフの少子化についても実は思う所があるんだけどね。

 今は変に期待だけさせても悪いから控えさせてもらうわ。

 ただ希望はあると思って貰って良いわよ」


 セフィ姉さん何か考えがあるみたいだ。本当に謎が多いなぁ。


「年々、村は諦めに似た暗い空気を増していたのです。ノエル殿は我々の希望の光になります!」


 ライラは感激し、少し興奮した様の言った。


「あまり期待され過ぎても困るけどね」


 あまりに熱い期待に少し及び腰になる。


「もちろん無理を言うつもりはありません。今は希望があるそのことが嬉しいのです。本当にありがとうございます。」


 この話はすぐに村中に広がり、僕は後には引けそうにないなと感じた。


 ただ、前向きに頑張ろう。


 僕は、再び祭りの景色を目に焼き付ける。



 この楽しく笑顔の溢れる幻想的な風景がまた見れるなら頑張れると思った。


・・・・・・


 少し間を空けて、ライラが再び話始める。


「10日程前の地震以来、森の魔物が活性化していて皆不安を感じていたのです。

 ジュラルタイガーがあんな所に居たのもその影響だと思います。

 こうして皆で明るく食事を出来るのは本当にノエル殿のおかげですね」


『ん?10日前の地震って・・・』


 僕は嫌な予感がした。


 『神殿の崩壊ね・・・確かに、魔物が活性化する原因には十分だわ』


 僕とセフィ姉さんは顔を見合わせる。

 何というマッチポンプだ。原因を作ったのも僕達だったのか。


 これは何としても対処しなければ・・・。


「今のままだとまたいつ魔物が出てもおかしくない?」


「そうですね。でも我々も全力で対処します!」


 ライラは力強く答えた。


「何かいい方法がないかなぁ。そうだ!城壁を作るとか」


 僕が原因だし何とかしたい。


「村の周りは簡易の壁は作っていますが大規模な物は人手が足りませんね」


「空を飛ぶ魔物はあまり来ない感じです?」


 空を飛ぶ魔物がいるなら城壁では意味がない。


「飛竜は中央の山付近からあまり離れませんのでいませんね」


 それなら効果はありそうだ。


「なら何とかなるかもしれない。でも一から作るとなると色々と技術が必要かぁ。

 何処かに複製元になるものがあればいいんだけど・・・。」


「そう言えば丁度良いものがあるかも!明日、早速行ってみましょう♪」


 セフィ姉さんにまたも何か心当たりがある様だ。


「村の防壁を強化していただけるのならとてもありがたいです。

 無理のない程度で助力頂ければ助かります」


「わかりました。早速明日から考えてみますね」


 明日の方針も決まったし、あとは祭りを楽しもう。

 美味しいお肉とお酒、そして楽しげな雰囲気に呑まれながら・・・


 宴は夜遅くまで続いた。

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