嘘つきは踊り画策する

 ギルドに入るとガラハがいた。


「どうしたんだ?ぼろぼろじゃないか!

 そんな強い魔物が出たのか!?」


「いや・・・ポイズンラットと兎6匹倒しただけなんだが・・・」


「ブラッディベアに無傷で勝ったお前が何でポイズンラットでぼろぼろになるんだよ」


 ガラハは不思議そうに言う。


「ちょっと手違いでな。あまり詮索しないでやってくれ・・・」


 正直、説明もしたくない。


「相変わらずよくわからないやつだな」


 ガラハは楽しそうに笑っていた。


 俺は受付で兎の肉と皮を換金する。


「お疲れ様です。ボロボロですけど大丈夫ですか?」


 受付のミャレは心配そうに聞いてくれた。


「大丈夫だ。問題ない・・・」


 そう言えばこれは死亡フラグだったな。


「今日は解体済なんですね。魔石は売らないんですか?」


 ミャレはすぐに切り替えて仕事をする。


「ちょっと使い道があってな。そういえば今日もよければ夕飯を一緒にどうだ?

 今日は俺の奢りにしたいんだが」


 俺は出来るだけ、さり気なく食事に誘う。


「それは素敵なお誘いですね♪急いで仕事を終わらせます」


 よかった。問題無かったようだ。


「終わったか?」


 後ろのガラハから声をかけられた。 

 俺はガラハとたわいない話をしながらミャレを待つ。 


・・・


 しばらくするとミャレが酒と食事を運んできた。

 少し間を置いて、俺は少し深刻そうな雰囲気で話し始める。


「突然で申し訳ないが俺は公国の特殊工作員だ。

 王国に潜入し王国側の内通者を通して協力者を見つけてきた」


 さてここからが正念場だ。


「なんだと!?俺はそんな事聞かされていないぞ?」


 やはり公国の重要人物だったか。


「私もその話を聞いていいのかしら?」


 ミャレは少し警戒して聞いてきた。


「友軍だと聞いている」


 こう答えておけば幅広く解釈してくれるだろう。


「友軍ね・・・。上手く表現したものね」


 上手く行ったようだ。


「王国の主戦力だが・・・」


 俺は王国のLV高い奴らの情報を片っ端から書いたメモを取り出して見せた。


「知った名前も多くあるな・・・ここまでの情報は今まで見た事がない」


 昨日徹夜で頑張って作ったリストだ。

 これで少しは信用して貰えればいいが。


「この中でライル家とカルラ家は有事の際はこちらに有利に動いて貰える算段が付いた」


 完全に嘘である。王国との接触が薄そうな奴らを適当に言っておいた。


「本当か!?それが本当なら戦局は動くぞ!」


 嘘なんだがな。喜ばせて申し訳ない。


「さらに、他種族侵攻に対しての神の制約については知っているか?」


「そのせいで私達は、人族の戦争に介入出来ない。

 獣人奴隷の奪還でも人族には危害を加えられずにいる・・・」


 ミャレは悔しそうに言った。


「その制約の抜け道を見つけた。これにより獣人族を戦力に入れる事が出来る」


「本当なの!?そうなれば強力出来る獣人族は多い!」


 凄い喜んでる。嘘なんだけどな・・・ほんとゴメンね。

 しかし俺は続けて話す。


「そして魔人族も王国の奴隷制度について懸念を抱いている。

 これに対して、直接協力を得るのは難しいが話し合いが進んでいる」


「馬鹿な!?俺はそのためにここにいるんだぞ?」


 やはりそうだったか。ここは畳み掛けて誤魔化すしか無いな。


「別ルートから魔人族との通信が可能になった。

 俺がここにきたのは二人にこの事を伝える為でもある。

 最後に妖精族も王国に対して否定的な姿勢を示してくれた」


「それこそあり得ない。妖精族はもう何百年も交流が絶たれている」


 そうなのか、まぁ何とかなるだろう。俺はそのまま進める。


「今からその証拠を見せる。姿を現してくれるか?」


 サポちゃん頼んだぞ。


「はじめまして♪妖精族のサポです」


「まさか・・・本当に妖精族が・・・」


 想像以上の狼狽えっぷりだ。効果は絶大のようだ。


 『適当に盗聴機能について今気付いたフリをしてくれ』


 俺は念話でサポちゃんに伝える。


 『事前に言っといてくれるとありがたいんですけどね!』


 サポちゃんは怒りながらも指示通り続けてくれた。


「ん?おかしな魔法効果の気配がします。

 貴方のネックレス。それに盗聴機能が付与されていますね」


「まさか!?クソ。王国め、そんなものを仕込んでいたのか?」


 ガラハは予想外の事に驚き慌ててネックレスを取る。


「すぐにネックレスを破壊してくれ!」


 俺はガラハをあおる。

 ガラハは急いでネックレスを机に叩きつけ破壊した。


 ・・・


 ふぅ、ひと段落ついたな。

 王国には上手く伝わっただろうか?


「さて、騙して悪かったな。さっきの話はほとんど嘘だ」

 

 俺は一転してあっけらかんと告げた。


「嘘だと?何がなんだかわからんぞ?」


「どうゆう事?」


 二人は混乱しているようだ。それはそうだろうな。


「まず、王国の戦力のメモは本当だ。そして王国はいつ攻めてきても

 おかしくないほどに準備が進んでいる」


「もうそこまで進んでいるのか・・・」


「俺は時間を稼ぐ為、嘘の情報を流そうとガラハの盗聴機能を

 利用させてもらったというわけだ。

 協力者と神の制約、魔人族については嘘だ」


「嘘だったのね・・・」


 ミャレは相当ショックを受けている様だ。なんかゴメンね。


「それについてだが、近々獣人奴隷解放軍の襲撃予定はあるか?」


「私が解放軍の一員だとバレているのね。」


 LVが高い上こんな場所でガラハと親しくしていたからカマをかけた。


「その襲撃にこの鑑定阻害の魔道具を装備し、獣人族に変装した人族を加えて欲しい」


 俺はさっき作った魔道具を渡した。


「そしてそいつに人族を殺さないまでも、神の制約に触れるような行動をさせて欲しい」


「さっきの嘘を本当だと思い込ませるのね」


 ミャレはすぐに立ち直り理解してくれた様だ。


「上手くいけば相手も慎重になって時間が稼げるかも知れない。

 襲撃場所については相談して欲しい。

 俺は王国の戦力を把握しているから危険を減らせると思う」


 これである程度情報も共有出来るだろう。


「お前は一体何者なんだ?」


 転生者の事は他人には言えない様になってるし、どう言ったものか・・・。


「ただの奴隷制度嫌いの新人冒険者だよ。

 あとこの妖精族の主人だな」


「その言い方は気にくわないですね!

 仕方なくお世話してやってるだけです」


 サポちゃんは不服そうに言った。


「あぁ。いつも助かってるよ。

 しかしさっきの芝居はなかなかだったな。妖精族に見えたぞ」


 俺は冗談で笑いながらサポちゃんに言う。


「私は妖精族ですよ!マスターもよくあんなにペラペラと嘘が出てきますねぇ。

 詐欺師の才能がありますよ♪」


 サポちゃんも笑いながら反撃して来た。


「ありがとよ。自分でも向いてるんじゃないかと思いはじめてるよ」


 なんだかんだで、このサポちゃんとのやり取りを俺は気に入っている。


「あっはっは。これは信じる他無さそうだな。

 人族、獣人族にとって妖精族は信仰対象だ。

 その妖精とこうも親しくされては疑うのも恐れ多い」


 ガラハは俺の事を信用してくれた様だ。そして


「人違いじゃないか?」


 すかさず俺はサポちゃんを揶揄からかう。


「どうゆう事ですか!」


 サポちゃんは怒って反応する。


「私も信じるしかなさそうね。

 よかったら冷める前に食事をしながらこれからの事を話さない?」


 ミャレも信用してくれた様だな。


「そうさせてもらおう。二人とも信じてくれてありがとう」


 俺は心から二人に感謝した。


「今日は一緒に食事が出来そうですね♪」


 食いしん坊妖精が何か言っている。


「だから今朝、言っただろうが」


 俺はドヤ顔でサポちゃんを見た。


・・・


 その後、俺たちは食事をしながら今後の事について話し合った。

 お互い通信可能にした俺たちはそれぞれの役割を決めた。


 俺は魔人族と接触を、ガラハは公爵に今日の内容を伝えに行く事。

 ミャレは解放軍と連絡し準備を始める事となった。


「そう言えばネックレスを壊させてしまい悪かったな。

 お詫びに新しい隠蔽の魔道具を用意したからよかったら使ってくれ」


 俺はサポちゃん特製の盗聴機能付き隠蔽魔道具を渡す。


「それは助かる。これには盗聴機能はついていないだろうな?」


 ガラハは笑いながら冗談で言っている。

 ついてるんだけどなぁ。前より高性能な奴が・・・


『息をする様に嘘をつきますねぇ。マスターマジ詐欺師♪』


『うるさいよ』


「ミャレの分も作ったから貰ってくれるか?

 受付にしてはそのステータスは高すぎるだろ?」


「欲しいと思ってたの。たすかるわ♪」


 ミャレは素直に喜んでくれている。


『あまり喜ばれると少し良心が痛むなぁ』


『マスターにそんなのあったんですね♪』


 いちいちやかましい妖精だ。


「あと王国に魔道具を流して罠をはりたいんだが

 王国側と取引をしてる人物に心当たりはないか?」


「ギルドの知り合いが王国と素材の取引をしてるから上手く流せると思うわ」


 ギルドは共有アイテムボックスがあり、すぐに商品を各ギルドでやり取り出来るらしい。


「魔石を出来るだけ沢山仕入れたい。低レベルの魔石で構わない」


「四十個程在庫があるわね。足りるかしら?」


「とりあえず全部買い取らせて欲しい。

 今夜中に魔道具を用意するから明日には王国へ流してくれ」


「そんな短時間に用意できる物なの!?まぁ預けて貰えれば

 明日の朝すぐに手配するわ」


 ミャレは凄く驚いていた。

 サポちゃんマジチートなんだなぁ。

 出来る事はこれくらいか。その後、たわいない雑談で食事をし部屋に戻った。


・・・


 部屋に戻った俺は明日の予定を考えながら遠距離鑑定を始める。


「さて。明日から魔人族との接触を試みるんだが・・・

 魔王のステータス凄まじいな。LV550か」


「異常に高いですね。もうこいつ一人で人族滅ぼせそうです♪」


 魔王だしなぁ。でもこいつは・・・


「多分こいつは転生者だ」


 LVUP時の上昇は初期ステータスの1/10と説明された。

 この説明だと小数点以下は切捨ての可能性がある。

 だから全て10の倍数にした訳だが、この特徴は転生者特有と言えるだろう。

 あと魔力の加護もあるっぽいし。


「転生者なら協力して貰える可能性も出てくる。

 少なくとも話は通じるだろうし敵対する心配も少なそうだ」


「直接、魔王城に向かうんです?」


「国境付近をウロウロしてる魔人族にまずはアプローチする」


「気づいてましたか。LV200超えですけど大丈夫です?敵対しない保証もないですが?」


「俺の予想では大丈夫だ。一人だし恐らく偵察の類だろう」


・・・


「ところでマスター気付きました?」


 サポちゃんが唐突に言う。


「西の方の島のダークエルフエルフも強いよなぁ。LV400前後が20人もいる」


 俺はとぼける。


「気づいてますね♪」


「俺の目がおかしい訳では無いんだな?」


「私も目を疑いますねぇ・・・」


「マナ18万。一応こいつも転生者の可能性有りなんだが・・・バグか?」


「記録を見てもぶっちぎりのNo.1。

 文字通り桁違いの数値ですね♪最高でも1万以下ですから」


「人族なんだよなぁ。一応」


「ステータスは人外ですけどね♪」


 サポちゃんは笑いながら言う。

 笑い事だったらいいんだけどなぁ・・・。


「敵対だけはありえんな。同じ人族だし本気で滅ぼされるぞ」


 勘弁して頂きたい。


「こっちも接触するんです?」


「とりあえず放置する。距離もあるしな。魔王との接触が優先だ」


 後は例のエンチャントの魔道具をつくりそのまま眠りについた。

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