決着?事案発生?

 あれからまた一ヶ月の月日が流れた。


「今日もハクに挑戦して来るね」


「コッコの卵宜しくーあと柱も♪」


 いつもの朝のやり取りを済ませてハクの所へ向かう。

 もはや日常と化していた。

 庭を通りコッコの卵を探す。コッコは4羽に増やした。

 正直区別がつかないので全部コッコと呼んでいる。

 今日は卵を2個見つける事が出来た。


『卵二個あったよー』


 ステータスウィンドウの機能で通話とメールが出来る事が分かり使用している。


・・・


 さぁ、ハクへ挑戦だ!


 ドアからは侵入しない。ハクにバレているので入るとブレスで瞬殺される。

 非破壊オブジェクトの壁を今までの挑戦で沢山作ったのでそこへ転移。


 サーチスキルのせいか侵入するとすぐに場所がばれる。

 最初は大抵ブレスが飛んでくる。

 思考加速のおかげで余裕があるので別の壁へ飛ぶ。

 ハクはそれを予測して別の壁に攻撃準備をする。


 この予測が当たると詰む。今回は上手く外れてくれた。


 すかさずハクの背後に転移し光竜剣で斬りかかる。

 このパターンも既にバレているのでそのまま斬りかかるとカウンターで死ぬ。

 というか何度も死んだのでフェイントにして更に転移。

 今回は右足元に転移し斬りかかる。上手く意表を付けたようだ。

 そしてすぐに壁の死角へ転移!


「よし!成功」


 基本はこの繰り返しなんだけど・・・

 鑑定が無いからどのくらいダメージが通ってるのかは不明だ。

 ハクは割と平気そうなんだよなぁ。


 そう言えば今日は柱の回収も言われていたんだった。

 20本以上あった柱も気付けば半分くらいになっていた。


「収納!」


 その瞬間だった。今まで聞いたことが無い『バキっ』という嫌な音がした。

 慌てて周りを見渡すが異変は無い。思い過ごしか?


 しかし上を見上げると・・・


 天井が歪み轟音を立てて迫ってきていた。

 避けようにも天井は僕の上を中心に連鎖的に崩れていく。

 巨大な無数の石の塊が激しい騒音を立てながら落ちてくる。

 ついには僕の視界は真っ暗になった。


・・・


 次の瞬間、僕はホームにいた。


 ホームにはモニターを見つめたまま口を開けて固まっているセフィがいた。


「何が起こったの?」


 僕は慌ててセフィに確認する。


「神竜の間が崩壊した・・・」


 柱が少なくなって支えきれなくなった天井が崩落。

 そのまま屋根が崩れ落ちて建物ごと崩壊したらしい。


「ハクは!?」


 僕は何故かハクの心配をしていた。


「崩壊に巻き込まれたっぽいわね」

 

 モニターを切り替えてハクの様子が分かる視点にするとそこには

瓦礫に潰されて光の粒子に包まれたハクがいた。


「あれはもう助からないわね。

 神竜なんかの根源値が高い生き物は死んだ時あんな感じでエフェクトが出るのよ」


 セフィ姉さんは淡々と説明する。


「助けてあげられないかな?」


 二ヶ月近く毎日顔を合わせていたせいか他人な気がしなくなっていた。 


「あれは魂の無いシステムみたいなものよ」


 セフィ姉さんは落ち着いた様子で言う。

 僕は・・・こんな形での決着は不本意だった。


「ちょっと僕行ってくる」


 もやもやした気持ちが抑えきれず僕は行かずにはいられなかった。


「転移!」


 ハクの前に立った僕はハクを見つめていた。

 すると光に包まれたハクもこちらを見る。


 目が合った気がした。

 そしてとても小さな声を聞いた気がした。


『もう少し一緒に遊びたかったな・・・』


 自分でも何故そんな事をしたのか分からない。

 僕は思わず唱えていた。


「魂の復元!」



・・・・・・



 僕は今、セフィ姉さんの前で正座をして説教を受けている。


「魂の復元は命を削る行為なの!そもそも本来、人に許された力では無くて

 絶対、簡単に使っては行けないことなんだ!」


 こんなに怒っている姉さんは初めて見た。


「もしかしたらエルくんが死んでいたかもしれないんだからね!」


 泣きそうな顔で叫ぶセフィ姉さんの顔を見て、僕は心から反省していた。


「本当にごめんなさい。反省してます。二度としません」


 僕は素直に謝罪する。


「本当に二度とこんなことはしちゃダメだからね」


 諦めた様に説教を終えたセフィは少し右に視線を移す。

 そこには僕と一緒に正座をする一人の幼女がいた。ハクだ。


「ごめんなさい」


 幼女も何故か謝罪する。


「ハクは謝らなくていいのよ。正座もしなくていいからね」


 微笑みながら穏やかに言う。

 僕も正座を崩し立ち上がろうとすると・・・


「エルくんはまだ正座!」


 僕は渋々、正座を続ける。


・・・・・・


 神竜の間崩壊事件の直後に一度話を戻す。


 魂の復元を唱えた瞬間、ハクを包んでいた光の粒子が集まり輝く。

 そして激しい閃光を放つ。光が収まったそこには・・・

 

 銀髪の西洋人形の様なとてもキレイな顔立ちをした


 裸の幼女がいた。


・・・


「ハク?」


 僕は咄嗟とっさに素っ頓狂な声で呼び掛けた。


「ハク?」


 幼女は首を傾げている。

 そういえば僕達が勝手に名前をつけていたんだった。


「僕とここで戦ってた神竜だよね?」


 確認を取ろうと試みる。


「いつも遊んでくれるお兄ちゃん!楽しかった♪」


 こっちは必死で戦ってたつもりだったのだけど遊ばれていたらしい。

 少しショックだが間違いない様だ。


「えっと、とりあえず僕達と一緒に来てくれないかな?」


 我ながら犯罪臭のするセリフだ。

 裸の幼女を前にこのセリフ・・・有罪ギルティだ。


 そんな僕の心配をよそにハクは頷いた。

 上着をハクに被せ一緒にホームに戻った僕は、

 ハクをセフィに預けハクの服を作りセフィに渡し着替えが終わった後・・・


 正座をしていた。


・・・・・・


「二ヶ月もエルくんが真剣に遊んでたから魂が宿ってしまってたのね」


 遊んでた訳じゃないのに心外だ。


「楽しかった♪」


 かわいいなー。緩みまくった顔でハク眺めているとセフィに睨まれた。


「まぁでも結果的には根源値はむしろ増えた訳だし、

 まさかこんな事になるとは思わなかったわ」


 そう、僕のステータスは大変な事になっていた。


******************

ノエルlv701

マナ182592 魔力-7100 筋力 -7100 精神-7100 防御-7100 知力-7100 器用-7100

HP1825920 MP-71000

根源値(800×1.2×1.2/3=384-149)

-50 エディタールーム(ホーム)

-50 セフィの魂復元、魂の回廊

-49 ハクの魂復元 魂の回廊

マナの加護 マナステータス1.2倍 マナのlv補正値1.5倍

神竜(マナ)の加護 マナステータス1.2倍 マナのlv補正値1.5倍

スキル 複製スキルlv30 sp残1

********************


「お弁当が毎日182592個作れるね・・・」


 LV701と神竜の加護はハクのおかげのようだ。

 マナ値は何かの間違いかと思ったけど

 (800+80×700×1.5(加護)×1.5(加護))×1.2×1.2=182592

 バグでは無さそうだ。


 とはいえシステムのミスじゃないかと思ったけど


「神竜の加護が手に入る事自体が想定外でしょうね。

 しかもLv1で入手なんてありえないわけで・・・

 それにエディットでステータスをマイナスに出来るなんて聞いたこともないし。

 初期マナ値800なんてデタラメな数値のせいでLvUP補正が異常ね。

 不正をしてる訳じゃないからペナルティも無かったみたいでよかったわ」


随分と心配してくれていたようだ。


「マナ以外の数値は絶望的なことになってるね」


 -7100とか・・・大丈夫なんだろうか?


「-100も-7100も変わんないわよ♪」


 セフィ姉さんは笑いながら言った。


 システム上問題ないことも分かり安心したのか、むしろ楽しんでいる様にも思えた。

 確かにスキルはもともと使えないから筋力強化が無くなるくらいか。


「むしろHP180万とかやりたい放題ね。まず死なないわよ♪」


 普通の人がせいぜい数千の所が180万。死ぬ方が難しい。

 さらにハクの恩恵はこれだけでは無かった。


 魂の回廊のおかげでハクのスキルを通して

 言語理解、サーチ、マップ、鑑定を使用出来るようになっていた。


***************

魂の回廊により視覚、聴力の共有が可能。

ハクを通して見聞きする事でスキルと同等の効果を得られるため

システムにアーツと認識された。


アーツ:複数のスキル等を同時発動し起こす事象で条件を満たすと

    システムにより最適化されアーツとして登録される。

*****************


 因みにハクのLvは201になっていた。

 身体の崩壊が途中で止まったため経験値の多くが僕に移り、

 残った経験値がLV201分だったからだろうとのこと。

 それでも初期値の違いか、そのステータスは凄かった。


****************

ハク(神竜の幼体)竜人族lv201

マナ2058 魔力672 筋力798 知力672 精神798 防御882 器用630

HP20580 MP10080

****************


相変わらず戦闘能力皆無の僕達にとっては頼もしい限りだった。

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