マナ神殿探索、そして冒頭のシーンへ

 僕とセフィはエディットで作った机と椅子に座り、

同じくエディットで作った紅茶とお菓子を食べながら優雅なひとときを過ごしていた。


 現実逃避である。


「うーん。そろそろ現実に戻りましょうか♪」


 まずはセフィが話し始めた。

 

「そうだね。どうしようかな」


 正気に戻った僕達は今後について考える。


「今行ける所は、この神域、マナ神域、マナ神殿、素材倉庫ね」


 どうやらスタート地点がマナ神域と言うらしい。

 ドアの先がマナ神殿なのだろう。


 セフィは説明を続ける。


「ちなみにマナ神殿から光竜の間に飛べるんだけどそこには光竜と言う神竜がいます」


「神竜かぁ強そうだね」


「現存する生き物の中でも最強、最高lvのLv800で潜在能力値も最高値。

 戦闘スキルもガン積みで最強の戦闘AIを積んでるわ♪」


「最強じゃないですかぁ・・・」


 嫌な予感しかしない。


「そいつを倒さないと外に出れないわ♪」


 やっぱりか・・・。


「絶望的じゃないですかぁ・・・」


 控えめに言っても詰んでいる。


「まぁ、出来る事からやっていきましょう♪まずは素材庫ね」


 前向きに行くとしよう。どっちが前か分かんないけど・・・。


 とりあえずこの神域ホームとマナ神域、素材庫を転移扉(ゲート)で繋いだ。

 素材庫に行くとそこには真っ白の広大な空間が広がっていた。


「広いわねー!96m×96mの広さがあるはずよ♪」


 セフィはバンザイの格好で伸びをしている。


「で、あれ何だろ?」

 

 セフィは空間の真ん中に何かがあるのに気付いた。

 とりあえず僕達は、その何かに向かって歩き出す。

 近づくにつれ、それがすごく見覚えのある物だと分かる。


「僕がトラックに轢かれた時に持ってた物だ!」


 ついさっきまで持っていた物だ。間違えるはずもなかった。


「なるほど、ディーナが気を効かしてくれたのね。ルール上問題は無いし

 有り難く頂いておきましょう♪」


 なぜかセフィはディーナの事を知っているようだ・・・。

 それはさておき、ディーナに感謝しながら僕は持ち物を確認する。


 持ち物は下記の様な内容だった。


*******************

ーお弁当 (唐揚げ弁当)

ー服一式 (スーツ)

ースマホ

ー水筒 (お茶)

ーハサミ

ー財布

ー鍵

ー手帳

ー汗拭きシート

ー歯ブラシ

ー髭剃り

ー消毒アルコール

ー整髪料(ワックス)

******************


「あまり役には立たなさそうだね」


 通勤途中だったし、そんなに都合良く役立つ物がある訳ないか。

 ハサミで竜に勝てる訳無いしなぁ。


「光竜戦には役立たないかも知れないけど、この世界には無いものばかりだし

 きっと何かの役には立つわよ♪」


 相変わらずセフィは呑気な感じで言う。

 とりあえず一通り触れて複製可能にしておいた。


「ここは以上ね。次はマナ神殿にいきましょうか♪」


「あそこには敵とかいないの?」


 最初の時は危険を感じて放置したけど、どうなんだろう?


「あそこには何もいないわね。外の世界には魔物とか盗賊もいるけど」


 外にはいるのかぁ。まぁ出れないんだけどね。

 そして僕達は素材庫を後にし、神殿へと移動した。


 神殿に着くとあの時と同じ光景が広がっていた。


「さぁ!ここで素材を集めて色々な物を複製しましょう。

 お弁当も食べたいし♪」


 呑気だなぁと思ったけど僕もそろそろお腹が空いてきていた。


「HPってどうやって回復するんだろう?」


 複製にはHPを消耗するらしい。上手に使わなくては・・・


「時間経過で回復するわよ。複製Lv30だとかなり消費を抑えられるから期待ね。

 出来ればエルくんの複製もお手軽に出来るといいんだけど♪」


 僕を手軽に複製って字面で想像すると酷いな・・・主に倫理観が。

 

 それはさて置き、僕はセフィに質問する。


「セフィはどこまで複製スキルのことを知ってるの?」


「エルくんの知っている事だけよ。多分だけど今まで複製スキルを

 LV30にした人なんていないんじゃないかな」


 僕はここでふと気になった。


「あれ?そう言えば何で魂の復元のことを知っていたの?」


 何気なく聞いてみただけだったんだけど、セフィは随分と動揺していた。


「えーっと・・・ごめんね。それについては答えられないの」


 セフィは困った顔をして申し訳なさそうに言った。

 何やら聞いてはいけなかった事の様だ。


「こっちこそごめん。困らせるつもりはなかったんだけど・・・」


 この様子だと無理に聞いても困らせるだけなのは分かっていた。

 それでも僕はどうしても聞いておきたい質問があった。


「もう一つ答えられないかも知れないけど、

 セフィはもしかして僕の前世で『頭の中にいた姉さん』なの?」


 ・・・


 少し時間をおき、セフィは少し微笑んで何も答えてはくれなかった。

 

 そして・・・


「エルくんはそうだったら嬉しい?」


 セフィは意地悪に微笑んで聞いてきた。


「嬉しいよ!ずっと感謝してたんだ。

 だから、そうなったらいいなって思ってて・・・

 だから・・・そうだったらいいなって思って・・・」


 僕は前世からの想いを素直に伝えた。


「エルくん・・・」


 セフィはすごく嬉しそうな表情をしていた。


 それはもう、なんだか答えのような気がした。


 そして答えられない事情がある事を察して、

僕はそれ以上、追求しない事にした。


・・・


 少しの沈黙の後、僕は照れ臭くなり慌てて話を戻した。


「そう言えば僕を複製してどうするつもりだったの?」


 そんな事を話していた様な気がする。


「いやー簡単に作れたらゾンビアタックで突破口を開けないかなぁって思って♪」


 セフィは楽しそうに言った。


 すごい嫌だけど正直絶望的な状態だし現実的な方法な気がして来た。


・・・


 マナ神殿を探索して回収できた物は以下の通りだった。


*****************

ー雑草

ー水

ー土

ー遺跡

ー木

ー神竜討伐報酬宝箱

 ー光竜の衣

 ー光竜の剣

 ー光竜の髪飾り

 ー光竜の指輪 (力)

 ー光竜の靴

******************


「光竜の討伐報酬が普通に落ちてたんだけど、どうゆう事?」


「そりゃここが光竜を倒した後来れる場所だからよ」


 セフィ姉さんはあっけらかんと言う。


 薄々勘づいてはいたけどやっぱりそうなのか・・・。

 ラスボスである光竜を倒しマナ神殿を通りマナ神域に辿り着くはずが、

 いきなりラスボス奥の間からスタートした結果が今なんだろう。


「何であんな所からスタートしたんだろう?」


 僕は何気なくセフィ姉さんに聞いてみた。


「多分だけど生命の加護のせいなんじゃないかな。

 生命の加護は通常、マナ神域で神から授かるものなの」


 なんでそんなものを僕は持ってたんだ?


「それでも、チュートリアルがあれば安全な村の近くからスタートするんだけど

 エルくんはそれも無いから・・・辻褄合わせで引っ張られたのかも」


 なるほど、筋は通っている気がする。

 何で加護があったのは謎だけど。

 これに関してはきっと考えても分からなそうなので諦める事にした。


 マナ神殿 (ガーデンと呼ぶ事にした)の収穫物を色々試した結果、

 僕の複製体は遺跡を素材にHP1000で作れる事が判明してしまった。


 遺跡は本来非破壊オブジェクトなのだが複製チートのおかげで取り放題だ。

 ゾンビアタックが現実のものになりそうだなぁ・・・。


 あと、お弁当も雑草や木が素材になりHP10で作れた。

 こっちは素直に嬉しかった。


・・・


「さぁ、準備も整った事だし光竜討伐と行きましょうか!」


 ・・・この人は何を言っているんだろう。


「Lv1でLv800のラスボスに勝てる訳ないと思うんだけど?」


 僕は真っ当な異論を言う。


「でも一度どんな相手か見ておかないと対策も取れないでしょ。

 どんなスキルを使ってくるかも分からない訳だし♪」


 妥当な推論が帰ってきた・・・。


 渋々、僕は複製体を作りリンクして光竜装備一式をつける。


「うわぁ、自分の姿を外から見るのって変な感じ・・・」


 中学時代の僕がそこにはいた。何というモラトリアムか。

 伝説の衣を身に纏い、伝説の剣を持つ自分。

 厨二病も裸足で逃げ出すクオリティだ・・・。

 僕の自分探しの旅はどうやら、ようやくここで完結したらしい。


「凄く格好いいわよ♪本体と区別がつきにくいし髪と目の色でも変えとく?」


 楽しそうだなぁ・・・

 僕は半ば自棄になって自分の髪を金髪にして目をエメラルドグリーンにした。

 グレた訳ではない・・・はず。


・・・


 そしてやっつけ仕事でラスボス戦に突入した結果が冒頭の体たらくである。


 ほんとどうしてこうなったのか・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る