ねこだぬきのキャンプファイヤー
青波星来
第1話
ぽんぽこニャー ぽんぽこニャー
はやくメシ出せ ぽんぽこニャー
森のたぬきたちは夜になると、さいきんずっと、こんな歌を歌っています。
この森には三年まえにキャンプ場ができてから、キャンプをする人たちがたくさんやってくるようになりました。
キャンプ場ができたばかりのころは、たぬきたちはそんな歌は歌っていませんでしたが、いまではまいばん、歌いつづけています。
いつのまにか、この森にキャンプをしにきた人たちからうわさが広まり、おかしな歌がきこえると、わだいになっていました。
「夜になると、へんな歌がきこえてくるんだって。」
「すいじ場にねこだぬきがやってきて、歌っているらしいよ。」
「ねこだぬきって、なに? ようかい?」
「こわいよー!」
みんな口ぐちに、いろんなうわさを いいあいました。
そんなわけで、いつごろからか、このキャンプ場は『ねこだぬきのキャンプ場』と、よばれるようになりました。
ぽんぽこニャー ぽんぽこニャー
きょうも げんきに ぽんぽこニャー
ある日の夕ぐれ、子だぬきのポンポンタが歌い出しました。小さなきりかぶの上にのって、足ぶみをしながら、まるいおなかをポンポコたたいて、とてもちょうしが よさそうです。
「おいおい、なんだい、そのおかしな歌は。」
なかまのたぬきたちは、きりかぶにのった子だぬきのポンポンタの歌をきいて、わらいました。
「えへへ。」
と、わらいながらポンポンタはいいました。
「きょうの夜も、キャンプ場の見まわりに行くんでしょ?」
森にキャンプ場ができてから、ポンポンタやほかのたぬきたちは、すいじ場のゴミがちゃんとかたづけられているか、まいばん、見まわりに行くようになりました。
キャンプ場にきた人たちがゴミをたくさんちらかすので、たぬきたちは こまっていたからです。ゴミがのこっていると森のしぜんをはかいしてしまい、ポンポンタたちが森にすめなくなってしまうからです。
にんげんが食べのこした ごはんのにおいにつられて、山からおりてきたクマが森であばれるのにも、こまっていました。
体の大きなクマは、
「この森には、にんげんがのこした うまそうなメシがあるな。これからここは、おれさまのなわばりにする。この森のたべものはぜんぶ、おれさまのものだ。」
といって、ポンポンタたちが森の木のみをたべるのも、ゆるしませんでした。
こまったたぬきたちは、ちえをしぼり、にんげんがゴミや食べものをちらかしていたら、クマが見つけるまえに かたづけてしまおうと、見まわりをすることにしたのでした。
ポンポンタはおなかをポンとたたいて、
「げんきじゃないと、見まわりもできないからね。」
といって、ぴょんときりかぶから とびおりました。
「そうだな。なかまのタヌタローがクマにやられたときは、きずがなおるまで、ずいぶん じかんがかかったからな。」
タヌタローはおなかをすかせたあまり、まわりをようじんするのをわすれてしまい、つい木のみを食べてしまったことがありました。それを、うんわるくクマに見られてしまい、クマにぶっとばされてしまったたぬきです。そのときに大きなけがをして、ながいあいだ、ねこんでいました。
「さぁ、こんやもキャンプ場の見まわりに行くとするか。」
と、一ぴきのたぬきがいうと、なかまのたぬきたちは、その場でぴょんととんで、気あいを入れました。
この森には おいしい食べものがないとわかれば、クマが山からおりてこなくなります。クマがポンポンタたちの森にやってきて、あばれなくなるように、みんなで力をあわせて ひとしごとです。
さぁ、みんなで見まわりに出かけます。
ぽんぽこニャー ぽんぽこニャー
うまいものなど ないからニャー
ポンポンタの歌にあわせて、ほかのたぬきたちも歌い出しました。みんなで森の中を こうしんです。
日がくれて、すっかりあたりは くらくなりました。キャンプ場で、ごはんやキャンプファイヤーをたのしんだにんげんたちは、そろそろ、ねしずまりかえったころです。
「きょうは、食べのこしが、ずいぶんあるなぁ。こまったものだ。クマが見つけるまえに、かたづけなくては。」
たぬきたちは みんなで手わけして、のこったごはんを あつめました。
いつもよりもたくさん ごはんがあつまったので、たぬきのリーダーのチョウロウがいいました。
「さぁ、クマが見つけるまえに、みんなで食べてしまおう。おもうぞんぶん、すきなだけ、食べるがよい。」
「わーい。きょうは、いっぱい食べられるぞ!」
たぬきたちはキャンプファイヤーをかこんで、大よろこびで 食べはじめました。
そのうちに、だれかが歌い出しました。
ぽんぽこニャー ぽんぽこニャー
クマのメシなど ないからニャー
それにあわせて、みんなもいっしょに わになって、おどりはじめました。まるいおなかをポンポコたたいています。とてもたのしそうです。まるで、たぬきたちのキャンプファイヤーです。
すると、そこへクマがやってきました。
「いったい、なにをさわいでいるんだ!」
ポンポンタたちは、いっせいに、クマをふりかえりました。
クマはポンポンタたちに、いいました。
「ここは、おれさまのなわばりだ! まさか、にんげんの食べのこしを、よこどりしているわけじゃないだろうな。」
大きなクマは、小さなたぬきたちをにらみつけました。いまにも おそいかかりそうな いきおいです。ポンポンタたちは、おそろしくてブルブルふるえながら、体をよせあいました。
そこで、チョウロウがゆっくりとクマのまえに出ていき、こういいました。
「ここに、食べのこしなどない。きれいに かたづけてあった。だから、わしらはおまえのために、にんげんがこわがってメシをおいて行くように、おどかしていたのだ。」
「にんげんを、おどかす?」
クマは目をまんまるくして、いいました。
「おまえたちみたいな小さなやつらを、にんげんがこわがるわけがない!」
クマは大きなこえでチョウロウに、つめよりました。
ポンポンタたちはみんな、いきをのみました。タヌタローのようにチョウロウがけがをさせられては、たいへんです。
でも、チョウロウは一歩もさがらず、つづけました。
「では、どうやっておどかすか、おまえに見せてやろう。
みんな、つづきをやるぞ。ポンポンタ、あの歌を。」
ポンポンタはきゅうにいわれて、こわくて体がこわばってしまいました。でも、ゆうきを出して、歌い出しました。
ぽんぽこニャー ぽんぽこニャー
はやくメシ出せ ぽんぽこニャー
ポンポンタはこえも体も、ふるえてしまいました。でも、ほかのみんなも、ゆうきを出していっしょに歌い、おどりはじめました。
すると、クマは、
「なんだ、そのおかしな歌は。そんな歌で、にんげんをおどかせるわけがない!」
と、さけんで、大きな手をふりかざしました。
たいへん! チョウロウがクマにおそわれそうです!
そのときです。きゃあー! という、さけびごえが上がりました。
「ばけねこが、キャンプファイヤーをしている!」
火をかこんでおどっていた、たくさんのたぬきたちと、大きく手をふりかざしたクマのかげが、やみよに大きくうかび上がり、にんげんたちが、ばけねことかんちがいして おどろいたのです。
「さぁ、クマ。これで、わかっただろう! にんげんたちを、もっとおどかすぞ。おまえもいっしょに、おどるのだ!」
チョウロウは大きなこえでそういって、クマをうながしました。
クマはしんじられない気もちでしたが、どうどうとしたチョウロウのはくりょくにおされて、いっしょにおどることにしました。
そして、大きなこえで、いっしょに歌いました。
ぽんぽこニャー ぽんぽこニャー
はやく くわせろ ぽんぽこニャー
ポンポンタたちが、おなかをポンポコたたくと、クマはそれにあわせて、大きな手を力いっぱい、ふりまわしました。
こうして、このキャンプ場のすいじ場をかたづけずにいると、「ねこ」と「たぬき」がいっしょになった、ようかいの「ねこだぬき」があらわれて、ざんぱんゴミをえさにキャンプファイヤーをはじめる、といううわさが、ながれるようになりました。
そして、キャンプ場にくる人は、「ねこだぬき」があらわれないように、キャンプ場をつかったあとは、きれいにかたづけて、ゴミをもちかえるようになりました。
ぽんぽこニャー ぽんぽこニャー
こんやも森の中から、歌がきこえてきます。ポンポンタたちの、見まわりのじかんです。
ねこだぬきのキャンプファイヤー 青波星来 @seira_aonami_
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