4章

第15話 「報告会」

 相も変わらず、昼休みの屋上の片隅に、咆助たちは腰を下ろしていた。

 未亜は図書委員の仕事があるために今日はここにいない。鮫島、鯨木、そして咆助は弁当を頬張りながら、お互いに神妙な表情で見合っている。

「では、報告会といこうぜ」

 鮫島が合図すると、鯨木と咆助がゴクリ、と唾を飲み込む。

「まず、俺ダ」

 鯨木はペットボトルを中身が飛び出さんばかりに握り、ゆっくりと二人にそれぞれ視線を送った。

「俺、実は寅田サンと付き合うことになったのダ」

 二人は鯨木を一瞥して、

「知ってた」

 ため息を吐きながら、首を横に振った。

「じゃあ次は俺の報告だぜ」

 今度は鮫島が手を挙げる。

「愛奈タンのオリジナルストーリが見られるDLCがネットで配信決定……」

「はい、終了。次は咆助ダ」

 途中で遮られ、鮫島は空気を読むも不満そうな顔になる。

「ま、まぁお前が一番気になるところだからよぉ」

「そうダ。あの後、宇崎サンと何かあったのダ?」

 鯨木が尋ねると、咆助は物憂げに立ち上がって手すりに手をついた。彼の傍を冷たい風が吹き抜ける。

「俺……」

 アンニュイな雰囲気を醸し出したまま、咆助は空を仰ぐ。

「咆助?」

「俺、未亜に告白しようと思ってるんだ」

 突風が吹き荒れた。

 屋上で弁当を食べていた他の生徒たちは、思わず目を伏せて、「びっくりしたぁ」などと口々に感想を述べている。

 咆助の二の腕に力が入る。多分、彼は本気なのだろう。

「死亡フラグだな」

「骨は拾ってやるダ」

「意味わかんねぇよ」

 鮫島が立ち上がり、咆助の肩をガッチリと掴んだ。

「早まるな、咆助! 今ならまだセーフだ! いいか、お前のやろうとしていることは、愛奈タンの学園祭イベントをすっとばして、彼女の母親の病気を知って彼女を励ますイベントに行くようなものだぞ!」

「ますますわかんねぇよ!」

「つまりダ。選挙で例えるなら立候補して事務所を開いた段階で……」

「るせぇ! 日本語で話せ!」

 ブチ切れかけた咆助が襟を正して再び座り込んだ。

「ま、まぁつまりダ。たった一回きりのデートだけで告白というのも早過ぎないかということダ」

「そういうこと。俺だって愛奈タンとここまでの関係になるのにどれほどのイベントをこなしたことか」

 人形と鮫島が今まで何をしていたのだろうか気になるところではあったが、咆助はとても聞く気にはなれなかった。

 パンを頬張って、咆助は二人を一瞥する。

「早いほうがいい」

「だから……」

「じゃないと、未亜に心配かけちまう」

 突然、咆助の顔が真摯になる。

「心配って……」

「昨日のデートのこと、ダ?」

 咆助はコクリと頷いた。

「アイツ、多分俺に恋をしてほしいって思っているんだよ。珠美ちゃんにフラれたところをアイツにダイレクトに見られたからさ」

 なんとなくそのときの咆助が、二人には想像がついた。

 きっと、世界で一番格好悪かったときの咆助なのだろう。彼自身、それは一番良く分かっているに違いない。

「これ以上アイツを心配させたくないんだよ。もうフラれるのならフラれるで構わない。ただ、アイツに哀しい顔させるなら、今のうちに徹底的に嫌われたいと思って……」

「この大たーわーけーがあああぁぁぁあッ!」

 突然、鮫島の拳がゴンッ、と咆助の頭天に食い込んだ。

「いってええぇぇ!」

「嫌われる覚悟なんてしてんじゃねぇッ! 本当に好きなら、堂々と胸を張っていけ!」

「けど……」

「けどもかどもないダ! 咆助はもっと純粋に人を愛せる男ダ!」

「少なくとも、俺らはお前が好きな女の子を幸せにできる男だって信じているぜ」

 なぜだろうか。ここまで彼らに褒められたことは生まれて初めてのような気がした。

「ああ。そうだな」

 自信に満ちた表情で、咆助は二人にVサインを送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る