第3.3話 ゲーム制作同好会設立

 職員室のドアをノックしてから開ける。忙しいかもしれないが、ゲーム制作部のことなら話を聞いてくれるだろう。もちろん忙しいなら待つか出直すが。

「失礼します、岡林先生はいらっしゃいますか?」

 ドアの近くに座っている若い先生が呼びに行ってくれた。職員室での席のシステムはわからないが、定位置なのであれば、苦労しそうな人である。

 しばらくも待たずに岡林先生が来た。感謝の1つでもしたかったのだが、呼びに行ってくれた先生は、こちらを一瞥もせずに席に戻ってしまった。

「お疲れ、すまんなすぐに抜けてしまって」

岡林先生はそう言いながら、俺達に廊下へ出るよう促した。邪魔にならないように、ドアから少し外れた所に陣取る。

「大丈夫ですよ、忙しそうですね」

「ゲーム制作部の廃部が決まったからな、次どこの顧問になるか他の先生と相談してたんだ」

岡林先生は気だるそうに言った。ゲーム制作部の廃部は受け入れたが、他の部活で顧問をするのは面倒くさい、といったところか。

「それなんですけど、もう少しゲームを作りたいと思いまして」

へぇ?と岡林先生が意外そうな表情をした。自分でも意外だと思う。

「一緒に来てるってことは秋晴さんも?」

岡林先生が秋晴さんの方を向いて聞く。

「はい」

秋晴さんは頷きながら答えた。

「やっぱり二人だと厳しいですかね」

廃部理由は確か、部員がいなくなったからである。せめて、廃部の延期だけでもしてくれたらいいのだが。

「そうだな部活は5人いないとダメだ。けど、同好会ならできる。いやぁ助かるなぁ、運動部に入れられそうで参ってたんだよ」

岡林先生の背筋が伸びて、表情も明るくなった。

「同好会っていうのがあるんですか?」

話の流れ的に部活を縮小したものだと思うのだが、部活とどう違うのか聞いておきたい。

「あぁ、人数が足りないとか、顧問が見つからないとか、あと一歩で部活に出来るってところに対しての、救済措置みたいなものだな。もちろん部活動ほどの権限は無いが、個人で活動するよりはマシだ。部費もほんの少しなら貰える」

第二コンピュータ室さえ使えるのなら、部費はいらないだろう。問題はその第二コンピュータ室を安定して使えるのかと、文化祭に出店側として参加できるかである。

「同好会にしたとして、第二コンピュータ室を使い続けられるんですよね?パソコン無い部屋だとゲーム作れないですし」

「他の部活とかちあった場合そちらが優先されるが、基本的には同好会が使う時間として割り当てられる。個人で部屋を借りる時は、その都度職員室に行って申請しないといけないが、それもいらなくなる。もちろん断続した活動が必要だ」

なるほど、個人の活動か学校が認めた活動かの違いか。しかし、俺は何度か鍵を取りに行ったが、何かを申請した覚えはない。

「今まで鍵取りに行ってただけで、申請した覚えないんですけど」

もしかして、鍵を借りただけで申請したことになるのだろうか。それなら個人も同好会もあまり変わらない気がする。

「あぁ、新城君達が鍵取りに来たらゲーム制作のことだって、他の先生にも言っといたんだ」

どうやら、岡林先生は岡林先生で動いていてくれたらしい。

「面倒かけたようですね、ありがとうございます」

軽く頭を下げる。

「それからもう一つ。文化祭ってクラスか部活で出し物するじゃないですか、同好会でも出来ますか?」

「ああ、出来るぞ。確か生徒会から承認をもらわないといけないが、そこまで厳しくなかったはずだ。あまり気にしなくてもいいだろ」

そう言うと岡林先生は、ちょっと待ってろと職員室に入っていった。

 ふむ、これで聞きたいことは聞けた。一安心である。

 職員室から出てきた岡林先生は、申請書とボールペンを持って来た。

「確認するが二人とも同好会設立ってことでいいんだな?」

二人ではいと答える。

 岡林先生は返事を聞くと、申請書を俺に渡してきた。内容は、同好会名、参加者、顧問、活動内容だ。壁を下敷きにしてボールペンを走らせる。秋晴さんの名前だけ本人に書いてもらった。

「じゃあ、よろしくお願いします」

書き終えた申請書を岡林先生に渡して、改めてお願いする。

「おう、とりあえず今日はお疲れ」

岡林先生は、申請書を持ってない方の手をひらひらと振りながら、職員室に戻っていった。ドアの閉じる音がしたのを合図に、俺達も歩き出す。

 まだ時間は夕方よりも少し前で、強い日差しが窓からなだれ込む。気づけば季節も夏に近づいて、文化祭もそんなに遠い日でもないことが分かる。あまりゆっくりはしていられないかもしれない。 

「まぁなんだ」

「うん?」

「これからもよろしく」

自分を鼓舞するために何かしら言おうとしたが、口から出たのは何の変哲もないものだった。

「こちらこそよろしく」

フフと笑いながら秋晴さんが返事してくれた。

 校門を出るころ、学校の周りを走っている生徒達が前を通り過ぎた。ずっと走っているのだろうか、姿勢が崩れている。しかし、顔を下げている者はいない。きっと俺は、あそこまで必死な顔をしながら走ることは出来ないだろう。けど、それでいいのだ。

 ゆっくりはしないが急ぎもしない。多分、それでやっていけるだろう。いや、そういうところにしていけばいい。ゲーム制作同好会を。

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Learn ~入学・ゲーム制作同好会設立編~ ピヨさぶろう @Piyosaburo

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