第3.2話 ゲーム制作同好会設立


 「いいじゃねーか、初めて作ってこれだろ?」

「ありがとうございます」

何度もゲームオーバーとクリアを繰り返した、岡林先生の最初の感想である。特にアドバイスもなければダメ出しもない。元ゲーム制作部の顧問ということで、何かしらの助言はもらえると思ったのだが。

 岡林先生はポケットからUSBメモリを取り出し、ノートパソコンに差し込んだ。

「取ってもいいよな?」

実行ファイルをコピーしながら思い出したように確認をしてきた。いいですよとだけ答える。

 USBメモリを抜き取ると、岡林先生は職員室に戻っていった。

 今日はもうシューティングゲームをプレイすることはないだろうと、ノートパソコンを閉じた。シューティングゲーム制作にはそれなりに時間を要したが、終わってみればあっけないものである。

「お疲れ様」

岡林先生にもテストプレイをしてもらったが、修正が必要なところは見つからず、これで無事シューティングゲームは完成となった。

「ああ、お疲れ」

返事をした自分の声がやけに小さい。

 今回のシューティングゲーム制作は、面白いゲームを作ろうと始めたわけではないので、この結果は納得できるものではある。だが、これで満足できるかと言えばそうではない。少なくとも俺は、もう一回ゲームを作りたいと思っているのだ。

「ちょっと待ってくれ」

お疲れ様と言われると、これで終わってしまったのだと実感してしまう。嫌いな言葉はいくつかあるが、こんなものまで嫌悪するとは、自分はどこまで甲斐性のない人間なのだろうか。まったく嫌になる。

「どうしたの?」

帰りの身支度を始めた秋晴さんが手を止めて俺の方を向いた。慣れたつもりでいた鋭い目が俺の方を向く。何もしていないのに悪いことをしたような気分になるのは、パトカーが横切った時と似ている。もう引き返せない。

「秋晴さんが良ければなんだが、もう少しゲーム作ってみないか。シューティングゲームとは別の物でもいいんだが」

もしかすると、もっと気の利いた言い回しがあったかもしれない。だが、そんなことを考えられるほど器用ではない。

「文化祭」

ん?

「文化祭に出してみたい」

予想していた答えでは無かったが、これはOKということでいいのだろうか。

 文化祭というのは夏休みの後にある、学校の一大行事だ。そこに出すということはつまり、俺はその一大行事の一端をになうということだ。

「いきなりだな」

断られなかった安堵よりも驚きの方が強い。自分が文化祭で何かするなんて考えた事も無かった。

「安藤はダンス部に入部してまだ一か月経ってないんだけど、もう文化祭で踊る準備してるんだって。私そういうのないから」 

秋晴さんが少し笑いながら言った。

「わかった、次は文化祭に出すことを目標にしよう」

自分が文化祭で何かをしているところは、今でも想像できない。だが、やりたくないという気持ちが無いのも事実だ。

「そういえば、ゲーム制作部はどうする?」

ゲーム制作部、秋晴さんに聞かれるまで忘れていた。確か人数が集まらなければ廃部だと聞いたが。

「多分、俺達だけだと足りない。岡林先生に聞いてみるか」

部活じゃないと文化祭に出せないという決まりがあったりするのだろうか。あるとすれば、まぁ諦めるしかない。

 今日はもう使わないだろうと、第二コンピュータ室の鍵を閉めて、職員室に向かった。

 しばらく無言で歩いていたが、気まずいような気もして話題を考える。

「そういえば、ゲームを作りたいと思ったきっかけを聞けてなかったな。結局俺だけ話したような」

「そうだっけ、新城君も忘れたって教えてくれなかったよ」

そうだったか、忘れたな。

「言えないならいいんだが」

「そんなに大した話じゃないと思うよ、それでもいいなら」

そういいながら秋晴さんは教えてくれた。

「よく親に絵本を読んでもらってた。絵ってことはわかってたけど、もしかしたら物語の中に出てくる場所が本当にあるかもって、外に出る時は目を凝らしながら歩いてたな。あ、もちろん小さい頃の話だからね。そこから漫画、アニメ、ゲーム、色んな作品に触れていった。小学校に入ったときくらいかな、人がゲーム作ってるところをテレビで見てすごいショックだったのを覚えてる。わかってたことなんだけど、あぁ、やっぱり作りものなんだなって。多分、そのショックだったのがきっかけだったと思う」

 自分から聞いておいてなんだが、こんなに話してくれるとは思わなかった。今まで何かに打ち込んでる人とは幾度と出会ってきたが、きっかけを話してくれる人はいなかったように思う。いや、自分が聞かなかっただけか。

「いい話だな」

 秋晴さんは大した話じゃないと言ったが、俺にとっては聞いてよかったと思えるものだった。

「もしかしてからかってる?」

そういった秋晴さんの語気は柔らかく、一瞬こっちを向いた目も、少しだけ笑っているように見えた。

「いや、そんなことはない」

それぞれ人には過去があるんだなと。何か言おうとしたときに、職員室の前に着いた。きっかけを聞いたからには、どんなゲームを作りたいかも聞いておきたかったのだが。

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