第3.1話 ゲーム制作同好会設立

 4人でのテストプレイを終えたが、バグは見つからなかった。

 バグというのは、エラーが出てゲームそのものが動かなくなったり、HPが0以下になってもゲームオーバーにならなかったり、要はプログラマーのミスでゲームとして成り立たなくなることだ。バグの語源は虫らしいが、今はそんなことどうでもいい。

 バグが見つからないのなら最終調整だ。飛行機や弾の速さ、ボスが出てくるまでの時間など、細かい部分を設定する。この部分に関しては個人の好みになってしまうため、正解と呼べるものはないだろう。とりあえず2人から感想をもらうことにした。

「難しい」

「簡単すぎる」

安藤さんと隆也の感想だ。やはり普段ゲームをやってる者とやっていない者では、意見が割れてしまう。もう少し掘り下げてもらおう。

「あの蛇女?なかなか倒せないし。もう少し優しいボスも欲しい」

「同じような動きしかしないから、攻略のし甲斐がないんだよな。もう少しランダム性が欲しいというか」

 新しいボスを作るには新しい絵とプログラムが必要になるし、ボスにランダム性をつけ足せば難易度が上がってしまう。では間を取ってランダムでメドゥーサの強弱を決めるのはどうだろうか、などと考えてみるが、実際にそうして満足できないのは作った側である。

「あと、単純に敵の種類が少ない。今のままじゃ爆弾の使い道もないし。なんか見栄えだけって感じだな」

隆也からは厳しい意見が寄せられた。

「ありがとう。これくらいで勘弁してくれないか」

別に絶賛されることを期待していたわけじゃないが、さすがにこれはくるものがある。わかりやすいお世辞よりはマシだが。

 結局、すぐに改善できそうなところは見つからず、他にやることもないと隆也は帰り、安藤さんも部活のために部屋を出た。

「さて、岡林先生はどうするか」

疲れたのだろうか、秋晴さんに言ったような独り言のような、そんな声が出た。

「後で行く、って言ってたよ」

鍵を取りに行った時だろうか、後でというのがいつなのかは分からないが、来るのであれば待つ。岡林先生のテストプレイだけなら、俺一人だけでもいいが。

「じゃあ待っとくか。秋晴さんはどうする?」

「待っとくよ、私も感想聞きたいし」

 特にやることもなく、沈黙が続く。いつもなら心地良いと思うのに、なぜかもどかしさを覚えた。

「秋晴さんは何か、ゲームを作りたいと思ったきっかけはあるのか」

ずっとゲームを作りたいと思っていて、秋晴さんがそう言っていたのを思い出す。

「新城君は?何かあるの?」

俺がどれくらい話すかで、俺にどれくらい話すかを決めるのだろう。といっても、俺はそこまで大した話じゃない。果たしてこれで、等価交換になるのか。

「ゲームやってるとさ、たまに思うだろ?ここをこうしたらもっと面白くなるんじゃないかって。中学生の頃はよく考えたよ、理想のゲーム。世界観、キャラクター、ストーリーはもちろん、こういう機能を作ってこんなイベント起こして、それで儲けた金を使って何とコラボしようってところまで」

確かこれは、隆也にも話していなかったことだ。聞かれなかっただけというのもあるが。

「でも、だんだん虚しくなってくるんだなこれが。どれだけ想像を膨らませても、それを実現できる力を俺は持ち合わせていない。絵も描けない、音楽も作れない。プログラミングなんて視野にすら入らなかった」

思い出を引き出すために向けていたパソコンの画面が黒くなる。しばらく操作していなかったから、スリープ状態になったのだろう。

 仕方ないので、秋晴さんの方を向いた。目が合うと、なぜか胸がこそばゆくなってくる。胸を掻くわけにもいかないので、代わりに後頭部を掻いた。

「どんなゲーム考えてたの?」

真剣で、そして優しい表情をして聞いてきた。ここまで話すとは思っていなかったため、急いで頭の中をかき回す。

「ええとそうだな」

俺が考えていたのは、RPGゲームだった。仲間たちと協力してモンスターを倒し、時には他のプレイヤー達と戦争をして。イベントは運営が考えるものとは別に、プレイヤー達の動きによって自動的に作られるものがあればいいとか、ゲームの中でお金の流れを作れば経済の勉強にもなるんじゃないかとか、そういうことも考えていた。今思えば、よくあるゲームである。

 もしも俺がゲームを作っていく力をつけて、一緒に作ってくれる仲間もいたとして、あの時考えていたゲームを作りたいと思うだろうか。プログラミングをする今の自分と、あの時の自分が手を取り合って、一緒にゲームを作る。そんな未来がくるのだろうか。いや、きっとこない。あの時の俺はあの時の俺で、あの時に抱いていた気持ちはあの時抱いていた気持ちでしかないのだ。

 どうまとめたものかと迷いかけたが、すぐに便利な一言を思い出した。

「忘れた、昔のことだ」

秋晴さんは、そっか、とだけ言い、それ以上聞いてくることはなかった。

 言い終わると同時に、ドアが開く音がする。

「来てやったぞ」

聞き覚えのある声だ。顔だけ向けると、岡林先生が見えた。

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