最終話 それぞれの道へ

 あれから俺達はフェイの別荘に戻ると、全員泥のようにベッドで寝ていた。俺とフェイはビルデよりも復活が遅く、現在は完全にビルデにお世話をされていた。


 「マグリスさん、私に魂を渡して本当にいいんですか?」


 ビルデは俺に食べ物を食べさせながらそう尋ねてきた。彼女からすればメリットしかないのに聞いてくれる辺り、本当に優しいんだなと思う。


 「いいよ。お前なら俺の魂を預けても悪いようにはしないだろうし」


 「ありがとうございます! でも私はマグリスさんの魂を使いませんよ。私はマグリスさんが大好きですからね!」


 ビルデは俺にドヤ顔を決め込む。俺はふふっと笑ってビルデの頭を撫でた。


 「あんたは相変わらずね。あんたのマグリスに対する大好きはどういう意味なの?」


 「それはもちろん色々ですよ! 好きの形を一つに絞ること自体がナンセンスです」


 「ぐぅ……正論だから反論できない」


 フェイは悔しそうに唇を噛む。


 「……その話は置いておこう。これからどうする? もうドラゴンに会いにいく理由もないぞ」


 「あー、一つお願いがあるんです。その、誤解を招くと怖いんですが、私は一人旅がしてみたいです」


 ビルデはオドオドしながらそう答える。俺は突然の彼女の告白に戸惑いつつも、ビルデに質問した。


 「なんでだ?」

  

 「今までの旅を通して、思ったんです。一人で頑張ってみたいって。その、お二人とパーティーを解散したいとかって話ではないです」  


 「なるほど。ビルデがしたいなら構わないぜ。期限はどのくらいだ?」

 

 俺は納得して首を縦に振った。彼女の今の実力なら一人旅でも問題ないだろう。


 「一年間がいいです。その後はまたお二方と一緒に旅をさせてほしいのですが、どうでしょうか?」


 ビルデはとても不安そうに俺達を見つめる。

 

 正直、寂しくないと言えば嘘になる。それに戦力的にも彼女の力は欲しい。ただ、それでも――


 「さっきも言ったが俺は構わない。たまに連絡してくれればそれでいい」


 「あたしも別にいいわ。ただ、一週間待って。その間にあなたに色々教えたいことがあるから」


 「分かりました。二人ともありがとうございます!」


 *


 それから一週間。俺とフェイはビルデに色々なことを教えた。魔法関連はフェイで、武術は俺だ。社会関連は二人で教えた。

 

 それと、たくさん遊びもした。海にも行ったし、チェスなんかもやった。チェスはフェイが無双して、俺達はボコボコにされた。


 結局、フェイはアスタルテに留まるらしいので、俺達のパーティーは一時解散になった。俺はビルデとは別のルートで旅に出る予定だったので、フェイとも別れることになったからだ。


 そして今日、俺は朝早く目を覚ました。今日は二人と別れる日だ。落ち着いていられるわけがない。


 とりあえず俺はいつも通り朝食の準備をして、二人が起きるのを待った。いつもより時間の流れが速く、すぐにフェイが起きてきた。


 「おはようマグリス。よく眠れた?」


 「ぶっちゃけ全然寝れてない。ビルデの様子は?」 

 

 「今は着替えてる最中よ。もうすぐ来るわ」


 フェイの宣告通り、次の瞬間ドアからビルデがひょっこりと出てきた。ビルデはスキル「花創作」で作った黒い服を着ていて、肩に大きなバッグをかけていた。


 「二人ともおはようございます」


 「おはよう、ビルデ。さて、皆揃ったことだし朝飯食うぞ」


 俺達は席につくと、他愛のない会話をしながら朝ごはんを食べる。皆、別れの時が近づいていることを意識していた。


 それから俺達はアスタルテの外に出て、しばらくの間歩いた。三人で別れられる場所に行くために。

  

 その場所に着くと、先頭を歩いていたビルデがこちらに振り返ってきた。


 「……別れる前に、これを受け取ってください」


 ビルデはそう言って、小さい水晶玉を二つ俺達に手渡してきた。


 「これは連絡用の水晶玉です。連絡したくなったら、私の顔を思い浮かべながらこれに触れてください」


 「分かった。……一週間に一度くらいは連絡するわ」


 「ビルデの方も辛いことがあったりしたらいつでも連絡してくれ。フェイも俺に何か相談でもあればいつでも聞くから」


 次の瞬間、俺は思わず二人を抱きしめた。二人はそれに釣られて抱きしめかえしてきた。


 「二人とも死んだら承知しないから。絶対に生きて帰ってくるのよ!」


 「はい! フェイさんもお元気で!」

 

 「おう! 土産みやげを沢山持って帰ってきてやるぞ!」


 そうして俺達は腕を離すと、一瞬の間見つめ合った。その瞬間、俺の目から熱いものが溢れ出してきた。


 「ちょっと、永遠の別れでもないんだから――ってあたしまで!」


 俺の涙に呼応して、二人の目からも涙が出てきたので、俺達は互いの涙を拭い合った。


 「はは、泣かないって決めてたのに泣いちゃいました。もー、マグリスさんのせいですからね!」


 「やめろ言い返せないからそれ!」

 

 俺達がそんな会話をしていると、フェイが俺達の手を握ってきた。

 

 「さて、あたしは先に戻るわ。後は若いので楽しみなさい、それじゃまたね!」


 フェイはそう言って物凄い速度で草原を駆け抜けていった。俺達は手を振ってそれを見送ると、お互いの方に向き直った。


 「じゃあなビルデ。頑張れよ」


 「はい! ……マグリスさん、目を閉じてください」


 「ん、分かった」

  

 俺は深く考えず二つ返事で目を閉じる。すると俺の頬にビルデの柔らかい唇の感触が伝わってきた。


 俺は驚いて目を開くと、既にビルデは俺から離れていっていた。


 「さようならマグリスさん! また絶対生きて会いましょうね!」


 ビルデは俺に手を振ると、俺から背を向けて走っていった。


 俺はビルデの背中が視界から消えたことを確認すると、反対方向へと足を運んだ。

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仲間に裏切られた俺、最強ロリ悪魔と契約して新たな旅を始める ドードー @tarizuki

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