第41話 憐れなサイエンティスト
現在、俺達はフェイの尻尾に掴まれて空を飛んでいる。
ダービスが召喚した悪魔、ウォーロックは強力で、デバフのないフェイでも互角だった。
加えてダービス自身も魔法を放ってきたので、慌ててフェイは俺達を掴んで逃げたというわけだ。
「ギャー! 目が回る!」
「文句言わないの! ビルデ、早く鞍を作って!」
「はい!」
ビルデは揺られながらもスキル「花創作」で的確にフェイの上に鞍を作ってくれた。
フェイは尻尾を巧みに使い俺達を鞍に座らせる。
その後ろではウォーロックとダービスが空を飛んで追ってきている。奴らは魔法を何回も撃ってくるが、フェイの厚い鱗とビルデのバリアで軽減されダメージは少なかった。
「ビルデ、あんたは魔法であの悪魔を撃ちなさい! マグリスは隙をみてハンマーをぶちかまして!」
「ひっでえ無茶振りだなぁ!?」
俺は遠距離攻撃を持たないのでこの扱いは妥当とはいえ、空を飛びながら攻撃するのはいくらなんでも厳しい。
「ダークスラッシュ! バーンアウト!シューティングスター!」
ビルデは強力な魔法を連発し、奴らにダメージを与えていく。だが奴らはスピードは落ちるどころかどんどん加速していき、俺達に追いつきそうだった。
んー、なんで奴らは俺達に近づくんだ?
魔法での遠距離攻撃に徹した方が有利に思えるが。後ろにいるならフェイは攻撃しにくいし。
まあいいか。俺は全力で撃墜するだけだ。
俺はビルデの力だけを使ってフェイから降りると、ウォーロックにハンマーを叩き込む。
ウォーロックはハンマーの重圧に耐えきれず降下していったが、地面に激突した様子はなかった。
俺はビルデのスキル「花創作」でフェイのところに引き上げられる。ダービスにも叩きたかったが、深追いは危険だ。
「チッ、小賢しく逃げるな!」
ダービスは苛立って俺達に何かを投げつけてきた。それはネズミのモンスターに
変わると大爆発を起こし、フェイの左の翼が破壊された。
「フェイさん!」
「大丈夫、これぐらいどうってことない。それに今、丁度炎のチャージができたわ!」
フェイの腕から炎がダービス目掛けて放たれる。ダービスはそれを回避しようとしたが、炎は自動追尾をしてダービスに纏わりついた。
「うがぁぁぁ!」
ダービスはたまらず地上へと落ちていく。さすがドラゴンの炎というべきか、火力は圧倒的だ。
「おぉー!」
ビルデが歓声を上げる。だがまたすぐにダービスはウォーロックに連れられて戻ってきた。
「まずいわね。ダービスもウォーロックも耐久がありすぎる。それにウォーロックの次の攻撃、エグいの飛んでくるわよ」
「ならその前に撃ち落とします! サイクロンショット!」
ビルデは強力な風魔法を使い、奴らを吹き飛ばして墜落させる。
だが次の瞬間、ウォーロックが俺達の目の前に突っ込んできたかと思うと、爪を巨大化させて俺達に斬りかかった。
「ぐっ!」
俺達はウォーロックの強力な一撃を食らって墜落していく。フェイはモロに食らったため、うめき声を上げて腹から血を流していた。
俺は地面に落ちる前に何回かスキル「空気叩き」を使用して二人の落下の衝撃を無効化する。
その間にもダービス達は襲いかかってきたが、俺はハンマーを振り回してなんとか攻撃を防いだ。
「さて、最後に言い残すことはあるか?」
ダービス達も地面へと降り立ち、俺達に手をかざしてくる。完全に止めを刺すつもりだ。
「……フェイ。何もメリットないのに俺達と旅してくれてありがとな」
「マグリス……?」
フェイは俺の発言を聞き怪訝そうな顔をする。
安心してくれ。別に降伏するわけじゃない。
「ビルデ、例の契約の更新だ。俺が死んだらお前に魂をくれてやる。よく考えたら地獄に行くよりかは遥かにマシだ」
「な、なんでこのタイミングでそんなことするんですか!? 後悔しても知りませんよ!?」
ビルデは慌てて俺の服の裾を引っ張った。完全に今から俺達が殺されると思っているようだ。
「このタイミングだからだよ。この世界は何かを代償にすることで成り立ってる。それは契約でも変わらないことはもう調べた」
俺はゆっくりとダービス達に近づく。三歩進んだ辺りでダービスがこちらに叫んできた。
「キサマアァー! どこまでも小賢しい真似をしやがって、やれウォーロック!!」
「さ、ビルデ。これならお前も本当の実力を出せるはずだ。今までちゃんと契約してなくてごめんな?」
「……たしかに身体が強化されたのを感じますが! 後でマグリスさんにはお説教です!」
ビルデは頬を膨らます。勝手に契約更新をしたことが気に食わないらしい。
俺はビルデの加護が強化されたのを肌で感じとる。悪魔については図書館で既に予習済みだ。こちらの払う代償が多ければ多いほど、悪魔は強化されていく。
俺は飛びかかってきたウォーロックにハンマーの嵐をお見舞いする。ウォーロックは先程のダメージも蓄積されてか、大きく後退した。
「サモン、デーモンランス!」
ビルデは呪文を唱え、三叉の槍を召喚してウォーロックの胸に突き刺す。
「ウオォォォォ!!」
今まで終始無言だったウォーロックがようやく声を上げて倒れた。すると先程まで威勢のよかったダービスの顔に冷や汗が流れ始めた。
「クソっ、化け物が! キサマなんてあのダンジョンで野垂れ死ねばよかったのに!」
ダービスはそう捨て台詞を吐いて逃亡する。辺りにモンスターをバラ撒き、俺達はモンスターを処理せざるを得なかった。
「待て! てめえは絶対に許さねえ!」
俺は追いかけようとモンスターを蹴散らしていくが、ダービスはどんどんと俺達から離れていく。
「二人ばかりに良いとこ見せられたらドラゴンとしての威厳がないじゃない」
次の瞬間、フェイが空を飛んでダービスを炎で捕らえた。フェイはダービスを俺達のところへと持ってくると、地面へと叩きつけた。
「後は煮るなり焼くなり好きにしな。あたしは興味ないから」
「た、頼む……どうか命だけは助けてくれ!!」
ダービスはすっかり怖気づいてしまっていた。ウォーロックが倒された瞬間こうなったことから、多分ウォーロックと契約して能力を上げていたのだろう。
「どうしたい、ビルデ?」
俺はビルデにこの男の処遇を尋ねる。俺としては殺す一択だ。こいつのしたことは許せる範囲を百歩ぐらい超えている。
「私は……分かりません。私達の安全を考えれば今殺すべきだと思います。でもやっぱり生みの親を殺すのは気が引けます」
「気持ちは分かるよ。もし殺したくないならそれはそれで構わない。決めたくないなら俺が決めるから」
「それなら……私が直々に殺します。それが私にできるこの人への手向けです」
ビルデは覚悟を決めたのか、目を見開いて召喚した槍を手に持った。反対にダービスは狂ったように暴れ、必死に逃げようとする。
「ふざけるな! 私は素晴らしい科学者なんだぞ! やめろ、やめろおぉぉぉ!!」
「さようなら、お父さん。いつかまた会うときがあれば、そのときは仲良くしてください」
ビルデがそう言った瞬間、ビルデの槍がダービスの心臓に突き刺さり、ダービスは息を引き取った。
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