第16話 夏休み後の初登校


 結果から述べると、宿題は間に合った。


「まさか本当に終わるとはな」


 学校の自分の机にて、俺はそう一人呟いた。


 あのあと死ぬ気で宿題を解いたのだが、なんか徹夜のテンションでアドレナリンがドバドバ出て勢いのままに宿題を全部解ききったのだ。


 よくできたと我ながらびっくりする。


 しかし、その代償として一睡もしていない。


 体には疲労が溜まりまくり、眠気と疲れで全身が鉛のように重い。

 最後の力を振り絞って学校の教室までたどり着いていた。


「ふわあ……」


 大きなあくびをして、俺は自分の机に突っ伏す。


 ああ。

 そういえば、教室のこの感じは久しぶりだ。


 クラスメイト達であふれ、各々好きなことをしてざわついているこの感じ。


 ここしばらくは見ていなかった光景だ。


 夏休みが終わってからはもちろん。

 夏休み中のループの間にも、夏休みに学校に来ることは少なかった。


 定期的に夏休み中の学校には来ていたから、まったく行っていなかったわけではない。

 だから教室自体に懐かしみは感じることはないが。


 だけど教室にこんなに人が集まっている光景を見るのは久しぶりというのは間違いない。


 体感的には数年ぶりといったところだ。


 夏休み中には絶対に見られなかったこの光景を見て、ループが終わったのだと実感する。


 まあそれでも、今は感慨に耽るよりも眠気が勝ってしまっている。


 あー眠い。

 寝よ。


「よお、佐々木」


 しかし、そんな突っ伏している俺に話しかける声があって眠ることは許されなかった。


「高橋か」


 声をかけてきたのは高橋。


 俺の友人。

 俗にいう悪友で、高校入学以来何度も遊んでいる奴だった。


 実際、夏休み中も何度も一緒に遊びにいっていた。



「お前、昨日一昨日と休んで今も寝てるとか。まーだ夏休みボケ治ってないのか?」


「ああ。そんなとこだよ……」


「んだよ面倒そうに返しやがって。あ、つーか夏休みに何かあったのか? 妙に付き合い悪かったじゃん」


「ん、ああ。それは悪かったな。いろいろ大変だったんだよ……」



 まあ、何度も遊んでいたとは言ってもそれは過去のループ中の、今はもうなかったことになった出来事の話なんだけどな。


 今回のループでは高橋とほとんど遊んでいない。


 夏休みの最初の方にクラスメイトの何人かを含めて遊んだ程度だったと思う。


 女子たちを口説くのに集中していたから、高橋とは遊んでいる暇はなかったんだ。



「大変って。何やってたんだよお前」


「大変は……、まあ色々あったんだよ」


 まさか何をやっていたのか言うわけにもいかない。


 俺ははぐらかすことしかできなかった。


 あと眠すぎて言い訳を思いつくほど頭が回らない。 


「夏休みが終わってからも色々あったんあけどな。だから今は寝させてくれ」


「おいマジで何があったんだよ」


「……」


 しつこく話しかけてくる高橋を無視し、俺は机の上で居眠りをしていると。 



「おはようございます。京介くん」



 寝ている俺の頭の上から声が聞こえてきた。


 昨日も聞いた声。

 昨日というか、今日の深夜に聞いた声だ。 


 あいさつをしてきたのは俺の彼女の一人である、上村さんだった。


「おはよう」


 失礼とは思いながらも、俺は机に突っ伏したまま返事をする。


「あはは。眠そうですね」


 上村さんが小さく笑う。


「高橋君、おはようございます」


「おはよう上村さん」


「京介くんがまだ眠っているようなのですが」


「ああ。なんか佐々木のやつ、まだ夏休みボケしてるらしいんだけど。って、ん? 京介くん?」


 高橋が何かに引っかかったように俺の名を言う。



 ていうか夏休みボケじゃねえよ。


 徹夜のせいだ。

 徹夜で電話と宿題をやっていたせいだ。


 ちなみに徹夜の原因はそこの上村さんにもあるんだぞ?


 俺が宿題やってなかったのも悪かったけどさ。



「あはは。寝ているのなら仕方ないですね。では京介くん。また後で」


 声と共に、去っていく足音が聞こえた。



「なあ佐々木」


「んー」


 上村さんが去った後、まだ突っ伏している俺に高橋が声をかける。


「お前さ、上村さんと仲良かった? なんかお前のこと名前で呼んでたけど」


「え、いや。どうだったかな」


「ていうか上村さんがなんでお前のところに声かけに来るの? 席離れてるよな」


「…………」


 あれ。

 どうしよう。


 上手い言い訳が思いつかない。


 そういや確かに、夏休み前まで俺は上村さんと接点なんてほぼなかった。


 それはいつもつるんでいた高橋もよく知っている。


 それが夏休み明けてすぐにわざわざ話しかけに来るようになったら、不振がられるのも仕方ない。


「お前まさか。俺に黙って上村さんと距離詰めてたのか? 夏休みに一緒に遊んでいたのか? だから付き合い悪かったのかよ」


 どうしよう。

 ほぼ正解引き当てているんだけどこいつ。


「抜け駆けとかみずくせえぞてめえ。女の子と仲良くするんなら俺も」



「ささっちー、おはよー。眠そうだねー」


「佐々木君。おはよう。ホームルーム前から寝るなんて、昨日は夜更かしでもしたのかしら?」


「よお、京介。おはよう。あと今日のこと忘れんじゃねえぞ」


 

 俺は突っ伏しているから、声からの推測だが。


 寝ている俺の元に青山さん、結野さん、加藤さんが来て話しかけに来た。


 そして横にいる男にとって、それは衝撃的な光景だったらしい。


「なあ、佐々木。なあ、お前ちょっと起きろ」


 高橋は震える声で俺を呼ぶ。


「なんだよ俺今日寝てないんだよ。寝させろ」


「いや寝てる場合じゃねえだろおい! 起きろ、そして説明しろ! なんでお前のところにクラスの美少女たちが挨拶に来るんだよおい! お前に何があったんだよ!」


「クラスメイトなんだから挨拶するのは当たり前だろ」


「いやクラスメイトってだけじゃねえだろ。上村さんはお前のこと名前で呼ぶし、青山はあだ名で呼んでるし。つーか結野さんなんて1学期はまともに話してなかったろ。なんで挨拶に来るんだよ。あと加藤とか学校にきてなかったのになんでお前に挨拶してんだよ! そして今日のことってなんだよ! いつ知り合ったてめえ!」


「ぐー、ぐー」


「あからさまな寝息たてんじゃねえよ。寝てないことわかってるからな!」


「ぐー」


「なんだ夏休みか? 夏休みになんかあったんだな! 惚けても無駄だぞこら」


「友よ」


「何だ」


「寝かせてくれ」


「そりゃねえだろおい! 夏休みになにがあったんだ言えよおい!」


 大きな声で騒ぐ高橋。


 悪いが彼を無視することにして、俺は眠りこけることにした。


 寝て起きたらなんか有耶無耶になったりしないかなあ



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高1の夏休みがループするようになった。次の回でどうせ記憶なくなるからと色んな女の子を口説きまくって付き合ったらそこでループが終わって、いま修羅場 沖田アラノリ @okitaranori

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