第235話 文化祭編 活気づく読書同好会

読書同好会部室にてー。

読書同好会は、文化祭に向けた部誌作りもそろそろ終盤に入り、それぞれ部員達はできた作品を持ち寄り活気づいていた。


「氷川さん。新聞部のインタビューで発表されていた詩『小さな芽と八つの嘘』のイメージでイラストを書いてみたのですが、どうですかぁ?」


読者同好会部員、小倉碧に、木の精のような小さな女の子が笑顔を浮かべているイラストを見せられ、目を輝かせる芽衣子。


「わあぁ…!素敵ぃ…✨✨碧先輩ありがとうございます!」


「気に入ってもらえたなら、よかった。部誌に載せる時、隣にレイアウトさせてもらっていいですかぁ?」

「ぜひお願いします!」


芽衣子は、碧に頼み込む。


「あれから、氷川さんの詩に触発されて、私も植物をモチーフにした詩を作ってみたんだよ?ちょっと見てもらますかぁ?」


碧の双子の姉妹、小倉紅からも詩の作品を差し出され、芽衣子は喜んで受け取った。


「はい。ぜひ、紅先輩の作品も見せて下さい!」



「へえ〜。神条さんは、本屋めぐりのレポートにしたんだね。」

「ええ。この辺結構いろんな古本屋さんや書店があって、休日によく回ってるんですよ?」


新入部員の神条桃羽が部誌用に書いた原稿の題名を見て、興味を引かれる京太郎に、嬉しそうに語る桃羽。


既に桃羽の原稿を読み終えた部長の上月彩梅も、満足そうに頷いた。


「神条さんの、レポート面白かったわよ?この中で紹介されていた書店カフェ、お客さんの気分に合わせて本と飲み物を選んでくれるのって、いいわね?この近くにあるお店なの?」


「はい。駅から少し離れた場所にあるんですが、店の造りもとても可愛らしくて…」



(京ちゃん、上月先輩と、神条先輩とのお話、盛り上がってるな…。)


チロリと京太郎を見遣る芽衣子。


読書同好会で集まる時は、大体詩を書く芽衣子、紅糸島、碧と、小説や本に詳しい彩梅、京太郎、桃羽で会話する事が多かった。


(これはこれで、すごく楽しい時間なんだけど、京ちゃんとあんまりお話しできないのは寂しいな…。)


読書同好会に入ったのは芽衣子の方が先立ったが、新入部員の桃羽は以前から、本や書店の知識が豊富で、文化祭当日、展示だけではなく、読み聞かせイベントをやったらどうかと提案するなど、部全体に刺激を与える存在になっていた。


(いやいや、しゅんとしてないで、私も、本の事勉強して、部の皆の役に立って、少しでも京ちゃんに追い付けるようにならなきゃ。)


むんっと芽衣子が拳に気合いを入れたところ…。


「あっ。そうだわ!読書同好会のポスターとビラ、生徒会長に許可をもらいに行かなきいけなかったんだわ。」


「あっ、はい!私行きます!」


ちょうど、いいタイミングで彩梅が思い付いた用事に立候補する芽衣子。


「あら、ありがとう。そしたら、矢口も一緒に行って、許可がとれたら、ポスター貼って来てくれるかしら?」

「…!!♡」

「あ、ああ…。いいけど…。」


「はーい。じゃ、これお願いね?」


彩梅は、急に指名されて、戸惑い気味の京太郎に、展示用のシールと、ポスター、ビラの原稿を渡した。


「ワフン、ワフン♡それじゃ、京ちゃん。行きましょ、行きましょ。」

「め、めーこ、歩きにくいよ。//」

「ああ、ごめん!何故か京ちゃんに向かって不思議な引力が発生してしまって💦」


「イチャイチャしてないで、ちゃんと仕事するのよー?」


芽衣子が寄りながら歩く為、廊下の端っこに押しやられている京太郎を見て、呆れたように声をかける彩梅。


わちゃわちゃしながら京太郎と芽衣子が、生徒会室へ向かった後、彩梅ににっこり微笑む桃羽。


「部長優しいですね?わざと二人になれる用事作ってあげるなんて…。」


「「え!部長、そうだったんですかぁ?」」


桃羽の指摘に驚く紅と碧。


「そ、そんなんじゃないわよ!ただ、氷川さんがしょげると部の空気が暗くなるし、ちょっと息抜きさせた方が、作業効率的にいいと部長として判断したからであって…。」


「「ナイス判断です!ぶちょぉ!!」」


焦ったように言い訳する彩梅に、左右から抱き着く紅と碧。


「わっ。ちょっとあなた達!//」


「流石です!部長!!」


そこへ更に飛び込む桃羽…。


ぽふうう〜〜ん!!ぽにょにょ〜ん!!!


「きゃ〜!!神条さん、すごいもの押し付けないでっ?//」

「「うわあぁん!Gの重力凄すぎます〜!!」」


部室内は、阿鼻叫喚百合絵図が繰り広げられていたとか…。


          *

          *


一方、生徒会室で、ポスターとビラに許可印をもらった京太郎と芽衣子。


「はいっ。これで全部かな?

今年は、読書同好会新しい試みをしているらしいね?期待しているよ?」

「「ありがとうございます!」」


生徒会長の早坂圭三郎に、爽やかに笑いかけられ、二人はペコリと頭を下げる。


そして、生徒会室を出たすぐ前の廊下で、校内を見回っていた風紀委員長、白瀬柑菜と行き合った。


「おや。お揃いで…。矢口少年。今日は犬の散歩かな?」


「ワフン、ワフン♡って、白瀬先輩、私を犬扱いしないで下さいってば!!」

「白瀬先輩…。」


柑菜にいたずらっぽい笑みを向けられ、噛みつく芽衣子と、苦笑いする京太郎。

 

「いや、スマン、芽衣子嬢を見ると、ついメメを思い出してしまって。」


柑菜が頭をさすったところへ、お下げにメガネ姿の女子生徒が、こちらへ向かって息せき切って、走って来た。


「あっ。いたいた!白瀬さ〜ん!」


「「??」」


見知らぬ三年生女子の登場に、目をパチクリさせる京太郎と芽衣子。


「君は…演劇部の元部長の、草陰紅くさかげくれないさんではないか。どうかしたのか?」


「それが…。文化祭の劇に出演予定の一年女子が二人、部活より彼氏と過ごす時間を優先したいとかで、急に辞めてしまって。

王子様ともう一役が足りなくて部長になり立ての後輩が困っているんだよ。

白瀬さん王子役を引き受けてもらえないかな?」

 

「ええっ。」


演劇部部長からの頼みに渋い顔をする柑菜。


「ううん…。大変な事情だとは思うし、力になってあげたいとは思うが、文化祭中は、風紀委員の仕事もあるからなぁ…。」


「時間は、風紀委員の仕事と重ならないようにするし、練習も白瀬さんが時間がとれる限りで構わないよ。

女子に人気の高い白瀬さんに出てもらえると助かるんだ。頼むよ、白瀬さん…!」


「いや〜。参ったなぁ…。」


「(なんだか、演劇部大変そうだね…。)」

「(どこも、人手不足なんだな…。)」


柑菜が頭をさすっている中、こそっと囁き合う京太郎と芽衣子。


「ん…?君達は、校内で有名なカップルの矢口くんと氷川さん?!」


演劇部元部長、草陰は、メガネを直しながら、目を見張る。


「君達もぜひ、演劇部の助っ人になってれない?」


「…!」

「「ええ〜!!」」


自分達にも飛び火して、大声を上げる京太郎と芽衣子。


「そ、そう言われても…。」

「あ、ああ…。読書同好会の部活もあるしな…。」


困った顔を見合わせる二人に、草陰は必死に頼み込む。


「大丈夫。セリフが少ない端役ぐらいだから、練習も、2.3回来てくれればいいから!可愛い衣装や、カッコいい衣装も好きなだけ着させてあげるよ?」


「えっ。✨✨」


その言葉に芽衣子は、京太郎のカッコいい王子様姿(注:芽衣子視点)を思い浮かべてポワンとしてしまう。


「やりますっ!!」

「よっしゃあ!」


「め、めーこっ…。コラコラ、勝手に…!」


思わず草陰に勢いよく返事してしまう芽衣子に、慌てる京太郎。


「君達と共演できるのは、興味深いな…。他の風紀委員と相談して、ちょっと検討してみるよ。」


「白瀬さん本当?ううっ…!ありがとう!皆ありがとう!!」


柑菜も大分乗り気になり、草陰は涙を流して喜んでいた。


(あ〜あ。断れる雰囲気じゃなくなっちゃったな…。何だか、大変な事になりそうだな…。)


苦笑いで、ため息をつく京太郎。


そして、京太郎の予感はあたっていた。


✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


その翌日、演劇部部室にて、劇の練習が始まったのだが…。


「え?衣装間違ってません?きらびやか過ぎますよ?」


演劇部の人に渡された衣装が端役にしてはあまりに豪華だったのに驚いて、返そうとする芽衣子だが、演劇部の人は、首を振った。


「あ、ううん。間違っていないよ?着終わったら、教えてね?」


「??? は、はい…。」


首を傾げながらも、芽衣子はその衣装を着る事にした。


「矢口くんの分は、これね?」

「は、はい…。」 


京太郎も、黒い衣装を手渡される。


そして、衣装を着終わった芽衣子と京太郎は、それぞれどう見てもお姫様、魔法使いの格好になっていた。


「(わ〜京ちゃん、魔法使い姿カッコイイ!けど、これは一体…。)」

「(めーこ可愛い…!お姫様の衣装似合うな!しかし、これは一体…。)」


お互いの格好を見て、テンションが上がりつつも、状況を飲み込めず、芽衣子と京太郎は不安そうに顔を見合わせる。



「わ〜、二人共、似合う!シンデレラ役と魔法使い役、引き受けてくれて、ありがとうね?」


「「え。」」


演劇部の人に嬉しそうに言われ、固まる二人。


「シンデレラと魔法使いって端役だったの…?」


「いや、どう考えても主役と脇役だろ。」


驚いて瞳を瞬かせるめーこに、突っ込む京太郎。


前途多難であった…。


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