第236話 文化祭編③ シンデレラは感情を隠せない
演劇部の助っ人として、セリフの少ないちょい役として借り出された筈の京太郎と芽衣子。
しかし、実際に演劇部部室に来てみれば、
芽衣子はシンデレラ役、京太郎は魔法使いの衣装を着させられていた。
遅れて演劇部部室に現れた、元部長の草陰紅は、京太郎、芽衣子に手をすり合わせて頼み込んで来た。
「ううっ…。更にもう二人、部活辞めちゃったんだよ。シクシク…。役者の子は、継母と、王子様のお付きの者役の男の子しかいないんだ…。
氷川さん、矢口くん、シンデレラ役と、魔法使い役引き受けてもらえないかな?」
「「ええ〜…。||||」」
突然大役を任されそうになり、青褪めた顔を見合わせる京太郎と芽衣子。
小柄で気弱そうな現部長の
「矢口くん氷川さん、お願い。
以前お昼の校内放送見たけど、二人共素敵な告白場面を演じていたでしょう?
あなた達なら、シンデレラの劇もきっと素敵に演じられると思うの。
演劇部を助けると思って、お願いします。」
「「「「「お願いします!!」」」」」
他の配役や、裏方の演劇部員達にも頭を下げられ、芽衣子は困り果てる。
「そ、そう言われても…。私も京ちゃんに散々嘘コクはしてきていますが、演技に自信があるわけでは…。(全部マジ告だったし…。)演劇部の主役なんて負担が重すぎます…。」
「芽衣子嬢、思い切ってチャレンジしてみたらいいんじゃないか?君なら素晴らしいシンデレラ役になれると思うよ?」
そこへもう一人の演劇部の助っ人、白瀬柑奈
が凛々しい王子の衣装を来て颯爽と登場し、涼やかな笑顔を見せた。
「そんな簡単に…。白瀬先輩は何でも出来る方だからいいかもしれませんが…。」
成績優秀、スポーツ万能、皆の人望も厚い風紀委員長の柑菜は、既に王子の風格を備えており、劇の王子役も簡単にこなせそうだった。
そんな人に、同じように出来ると言われても…と芽衣子は渋い顔をしたが、柑菜は苦笑いして手をヒラヒラ振って否定した。
「ははっ。私だって、演劇の経験なんてないし、何でもなんて出来ないよ。ただ、芽衣子嬢が出てくれるなら面白い経験が出来そうだと思ってね。
矢口少年だって、芽衣子嬢がシンデレラ役やったら、惚れ直してしまうんじゃないか?」
「「え!///」」
柑菜にいたずらっぽい笑みを芽衣子と京太郎とに向けられ、同時に真っ赤になる二人。
(ったく、白瀬先輩、俺を使ってめーこを焚き付ける気だな?だけど、めーこは、元来人見知りなんだ。嫌なものを無理にさせるなんて可哀想だ。俺だけは反対してやらなければ…!)
そう決意した京太郎は、毅然と柑菜に向き合う。
「そりゃ、もちろんめーこがやるなら、世界一可愛いシンデレラになるに決まってますし、俺だけでなく、観客全員心奪われる事必至ですがっっ…!」
「ぼふんっ!ぷしゅうっ!!(きょきょきょ、京ちゃんっっ!??////)」
その瞬間、芽衣子が真っ赤になり爆発し、頭から湯気が上がっていた。
「彼女が望まないのに、負担のある配役を強要するのは、許せませっ…」
「私、シンデレラ役、やりますっ!やりたいですっ!!✨✨」
「え。」
反論の言葉に被せるように、芽衣子が叫び、目が点になる京太郎。
「「ほ、本当?ありがとう〜!!氷川さん!!」」
「「「「「ありがとう、氷川さん!!」」」」」
涙目になって芽衣子にお礼を言う、演劇部部長&元部長と演劇部の部員達。
「え。いや、なんでそうなった??」
「京ちゃん、私頑張るから見ててね?ワフンワフン!」
目をパチクリさせる京太郎に寄り添う芽衣子。
「ふはははっ。やるな、矢口少年!やっぱり君達は最高に面白いよ。」
柑菜は愉快そうにお腹を抱えて笑っていた。
*
京太郎も、なし崩し的に魔法使いを引き受け、それから二人は毎日のように演劇部の稽古に励む事になった。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「王子様、私はもう行かなければなりません…。」
「君、待ってくれ!」
時計を見ると魔法が解ける0時近くになっている事に気づき、慌ててお城を飛び出すシンデレラ(芽衣子)。
王子様(柑菜)はその後を追いかける。
「あっ…。靴の片方がっ…。」
シンデレラは、急いでお城の階段を降りている途中、ガラスの靴が片方脱げてしまうが、靴を残したままそのまま走り去る。
そしてお城から離れてしばらく行ったところで…。
「ああ…。服が元に戻ってしまった…。」
魔法が解けて元のボロ服になってしまったシンデレラに、魔法使い(京太郎)が再び現れる。
「魔法使いさんっ!!(京ちゃんっっ!!)」
途端にパアァッと、顔を明るくするシンデレラ。
「はいっ!夢のような時間をありがとうございましたっ!魔法使いさん♡私をお家へ連れ帰ってくださいね?」
ムギュッ!!
「シ、シンデレラ?///(めーこ、胸、当たってる!)」
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「いやいや、カットカット!!」
監督をしていた元部長の草陰が劇の進行をとめる。
「氷川さん、ここは、王子様に別れを告げ、夢のような時間が過ぎてしまった事を落胆するシーンなんだから、
そんなに嬉しそうにしてちゃダメだって!
なんなら、ここでハッピーエンド迎えちゃいそうな明るい雰囲気出しちゃってるじゃない!」
「す、すみません!京ちゃんのお顔を見た途端、安心してつい嬉しくなってしまって…。」
「め、めーこ…。///」
草陰のダメ出しに慌てて謝る芽衣子。
京太郎は照れている。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「シンデレラ。舞踏会は楽しめたかい?」
「ま、魔法使いさん…。(このシーンはがっかりな表情…、がっかりな表情…。)」
自分に言い聞かせながら、渋い表情を作るシンデレラ(芽衣子)。
(おっ!芽衣子、今度は大丈夫そうだな…。)
微笑む魔法使い(京太郎)を見て、思わず満面の笑みを浮かべてしまうシンデレラ。
「んふっ♡夢のような時間をありがとうございましたっ!!」
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「カットォ!!氷川さん、途中から、表情緩んじゃったよ?最後まで頑張って?」
「「はぁ…。」」
再びのダメ出しにため息をつく二人。
その後何度もリテイクになり、ついには魔法使い役を他の人に変える事になったが…。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「王子様…。|||| なんて、素敵な方かしら…。↓」
「シ、シンデレラ…?💧」
踊りながら、しょんぼり俯くシンデレラ(芽衣子)と当惑する王子様(柑菜)。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
今度は京太郎と共演できなくて、全体的にしょんぼりした表情になってしまった芽衣子。
「カットォォ!!うーん。困ったなぁ…。どうしたら、いいんだろう…。」
「ご迷惑かけてすみません…。」
「めーこ…。」
頭を抱える草陰に、申し訳なさそうな芽衣子と、それを心配する京太郎。
柑菜は、顎に指をかけて考え込んだ。
「ふ〜む。芽衣子嬢は、感情を隠せないからなぁ…。もう、いっその事、脚本を現代版シンデレラとして書き直して、役者の個性を出せるような内容にしてはどうだろう?」
「ふんふん…。なるほど…。それは面白そうだね…。」
柑菜の提案に大きく頷く草陰。
バタン!
「失礼します!ちょっと、矢口に氷川さんはいますか?」
そこへ、読書同好会部長の上月彩梅が演劇部部室に乱入する。
「あなた達、部活の話し合いほっぽって、何やってるの?!
演劇部の劇の練習は、短時間ですむっていう話だから、許可したのに、最近、演劇部に入り浸りじゃないっ!どういう事っっ!?」
「上月…、いや、その…。」
「上月先輩、じ、実は、その…。」
怒り狂う彩梅にしどろもどろで説明しようとする京太郎と芽衣子を見て、目を見開く草陰。
「…!!💡
君、採用!!ぜひ演劇部の劇に出てくれぃ!!」
「は、はあぁっ!?」
何か閃いた様子の草陰に、突然テンション高く迫られ目を剥く彩梅。
「えっ?上月先輩も、助っ人に…??」
「はは…。また大変な事になりそうだな…。」
京太郎と芽衣子は、どうなることやらと引き攣った笑顔を浮かべて顔を見合わせたのであった…。
*あとがき*
読んで頂きましてありがとうございます✨✨
次回、文化祭当日、演劇部の劇公演のお話になります。
なお、各作品のヒロイン(バレンタインバージョン)のAIイラストを近況ノートに投稿する予定ですので、よろしければご覧下さいね。
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