第224話 おまけ話 静くんの決断

放課後、芽衣子の姉(?)弟子、晶の自宅に向かい、そこに滞在中の鷹月師匠に深々と頭を下げる、芽衣子と京太郎。


「師匠。一度お返事しておいて、申し訳ないのですが、そういう訳で留学の件は、考え直させて下さい。

私はやっぱり、日本で京ちゃんの側にいたいです!」

「鷹月さん。めーこに才能があるのは俺も分かっていながら、留学を引き止めてしまい、申し訳ないです。けれど、俺はやっぱりめーこに側にいて欲しいです!」


鷹月師匠は慌てて、二人に呼びかけた。


「いやいや、二人共、頭を上げてくれんか。そう言われるだろう事は最初から分かっていた事じゃ。昨日、晶にも『未練ですよ?師匠!芽衣子に今更、そんな話を持ち掛けちゃダメでしょっ?そのせいで二人の仲に亀裂が入ったらどうするんですか?』って、かなり

怒られてしまってのう…。」


「「あーちゃん(南さん)が…?」」


「ああ。晶に1時間尻の上に乗られるというお仕置きをされたんじゃ…。」


鷹月師匠は、気まずそうに頭を掻いた。


「そそ、そうなんですね…。(それって、師匠へのお仕置きっていうよりも、あーちゃんのご褒美なんじゃ…。)」


以前、長年師匠に想いを寄せ、その尻を絶讃していた晶を思い出して、タラっと汗を流す芽衣子。


「むしろ、ワシのほうが、謝らなければいけない方じゃ。芽衣子ちゃん。京太郎くん本当にすまなかった。

おわびと言ってはなんじゃが、今日はワシに焼き肉でも奢らせてくれんかの?


晶も、もうすぐ仕事終わりじゃし、後で、静くんも、留学の手続きに来てくれるそうじゃから、皆で一緒にどうじゃ?」


「「へ?」」


師匠の発言に目を丸くする芽衣子と京太郎。


「あの、師匠、静くんの留学の手続きって…??」


恐る恐る問う芽衣子に、鷹月師匠はにっこり笑って答えた。


「聞いとるじゃろ?静くん、皆から少し遅れて、来年の4月からキックボクシングの留学プログラムに参加を希望してくれたんじゃ。」


「「え、えーーーっ!!(そんなの聞いてないよーっ!!)(てゆーか、めーこも聞いてないのかよっ?!)」」


驚いて声を上げる芽衣子と、京太郎であった…。

          *

          *


それから、鷹月師匠は、晶のキックボクシングジムを見学しに行き、

程なくして、やって来た静に、芽衣子は詰め寄った。


「静くん、留学ってどういう事なのっ?」


「はあ?昨日説明したろ?」


呆れたように顔を顰め、静は説明し出した。


「芽衣子から留学の話を聞いて、俺も興味があったから、色々考えてよ。

中学卒業してからでも参加できないか、鷹月師匠に聞いてみたら、構わないっていうから、来年の4月から、T国でキックボクシングの修行をする事に決めたんだよ。

芽衣子の留学がなくなったと思ったら、今度は静くんがっ…て、母さんには泣かれたけど、親父が宥めてくれて、許可も取ってる。


芽衣子にも一応言ったけど、矢口さんが帰ってからはずっとポーッとして心ここにあらずな状態だったから、聞いてなかっただけだろ?」


「そそ、そうだったっけ?//ごめん。」

「め、めーこ…。//」


昨日は京太郎とのファーストキスやらハグやらを記憶の中で反芻し、京太郎が帰った後の記憶があまりなかった芽衣子。

京太郎も帰りは同じ状態だったので、お互い顔を赤らめていた。


「け、けど、高校は?美湖ちゃんの事はどうするの?遠距離になっちゃうよ?」


心配そうに色々聞いてくる芽衣子に、ニカッと笑う静。


「学校は向こうの学校へ通うし、鷹月師匠が芽衣子とほぼ同じ条件で生活の面倒も見てくれるっていうから大丈夫。美湖は、もともと親の仕事の都合で来年の4月からT国で暮らす予定だったから、却ってよかったんだよ。」


「そ、そうだったんだぁ…。よかったぁ。遠距離って辛いもんね…。」

「確かに…。」


今まで想い人と離れていた間の事を思い、遠い目をする芽衣子としみじみと頷く京太郎。


「あら、芽衣子に坊や!静くんも!久しぶりね。元気してたぁ?」


「「「あーちゃん!(南さん!)」」」


「おう。静くん来てくれたか、留学の手続きの書類、持って来たぞい?」

「あざっす!」


今日はいつもより早めに一階のジムを閉めて

階上の自宅部分に上がって来た晶と鷹月師匠。


そして、その後ろから、受付のスタッフの女性が恐る恐る顔を出した。


「こ、こんにちはー。あっ。矢口くん、氷川さん、お久しぶり〜。」

「「安岡さん。」」


芽衣子とは何回か、京太郎は夏休み中ずっと

受付の仕事で一緒だった、安岡章子(38)が遠慮がちに手を振って挨拶して来た。


「皆さんすいません。今日は私まで食事会に誘って頂いちゃって。子供いるんで、遅くまでいられないけど、よろしくお願いしまーす。」

「安岡さん、ちょ!手を離して下さい!私、行かないって言ってます!」


安岡はもう一人の受付スタッフらしき女の子の袖を掴み、文句を言われていた。


「あらぁ。ちょっとぐらいいいじゃない。

受付で私だけ行くのも参加し辛いし、ちょっと付き合ってよ?嶋崎さん。」


「「真柚さん(ちゃん)…!」」


もう一人のスタッフ=嶋崎真柚の顔を見て、目を丸くする芽衣子と京太郎。


晶に誘われ、キックボクシングを習う為、受付のバイトを始めた真柚。


晶経由で話には聞いていたが、スタッフとして働いているのを見たのは初めての芽衣子。

面接時と引き継ぎ時に短い時間会った時以来の京太郎。


「矢口さん、芽衣子さん。お、お久しぶりです。」


気まずそうに挨拶する真柚に京太郎は声をかけた。


「久しぶり。真柚ちゃん。元気そう…だね…はうっ♡(コラ、めーこ!)」

「お久しぶりです。真柚さん。」


警戒した芽衣子は、京太郎の腕を取り、胸を押し付け小声で怒られながら、挨拶をする。


「おおっ。(んん?これは…元カノに正妻ムーブを見せつける今カノの図…なのかしら?)」


興味津々でその様子を眺める刺激に飢えた主婦安岡。


「南さんから聞きました。芽衣子さんが矢口さんの幼馴染みという事が分かって、お付き合いされるようになったんですってね。

おめでとうございます。」


「「え。あ、ありがとう(ございます)。」」


殊勝な顔の真柚に祝福され、面食らう芽衣子と京太郎だったが…。


「でも、幼馴染みって負けヒロインって言いますもんね。私が目指してるのは、最後に一緒にいられる女なんで!

隙あらば奪いに行きますので、

覚悟しといて下さいね?矢口さん?芽衣子さん?」


「「?!!」」


小悪魔な笑顔を浮かべて舌を出す真柚に噛み付く芽衣子。


「幼馴染みは負けヒロインなんかじゃありませんっ!!幼い頃から最後まで一緒にいる、運命の二人なんですからっ!!真柚さんのはいる隙などない事を見せつけてあげますっ!」

ふにゅふにゅっ!!

「め、めーこっ!//(今度は両方になってる。)」


更なる危機感に、京太郎の背中に抱き着き双丘を押し付ける芽衣子。


「あらあら!(幼馴染み対略奪系元カノの戦い!目が離せないわ〜。)」


騒がしい三人も、気になりつつ、傍らにいる美形男子=静にも、興味を惹かれる安岡。


「ちなみにそこの男の子は、初めましてかな?“HawksMoon”受付スタッフの安岡です〜。よろしくね?」


「ああ。お恥ずかしながら、そこで怒り狂ってるバカ姉貴の義弟の静です。よろしくっす。」


「氷川さんの、お義弟さんなのね。(美形兄姉!目の保養だわ〜✨✨)ここのジムでは見かけないけど、やっぱりキックボクシングに関わっているのかしら?」


「あ、はい。別のジムに所属していますが、今度鷹月師匠の下でT国に留学する予定で…。」


「へぇ〜っ!ってことは、将来有望なんだぁ!(もしかして、これからキックボクシング界で活躍する子だったりして!私推しちゃおうかなっ〜?)」


目をキラキラさせ始める安岡。


「いや、有望って言っても芽衣子程じゃないですけどね。」

「またまた、そんな謙遜して〜。」

「いや、ホントっす。」

「ふふっ。そうなの?(ホントに控えめね〜。ますます推せるわ〜♡)」


苦笑いして手を振る静に、芽衣子の実力を知らない安岡は好感を持つ。



「矢口さん。芽衣子さんに疲れたら、いつでも私待ってますからね?」

「真柚さんは京ちゃんの半径1m以内に近付かないで下さぁいっ!!」

「め、めーこ、もう(おっぱい)離して。おあずけ!」

「きゃふんっ!!」


「食事会に行く前から、皆すっかり打ち解けておるのぅ。」

「あはは…。(芽衣子達は喧嘩してるだけだと思いますけど…。)師匠は大らかですね?♡」



静くんに興味津々の安岡、ギャーギャー騒いでいる真柚、芽衣子、京太郎を見てにっこり笑顔を浮かべる鷹月師匠。


苦笑いを浮かべながら、師匠に寄り添う晶。


そして、その後の食事会は色々な意味で大盛りあがりだったそうですよ…。




*あとがき*


静くんは、受付スタッフの安岡さんの睨んだ通り、鷹月師匠の下で数年の修行を経て、有名なキックボクシングの選手になります。


芽衣子ちゃんはチートですが、元々の目的は

京太郎くんを守る事で、キックボクシングの選手になりたいワケではありませんでしたし、リング壊しちゃうので、試合向きの強さではないかなと…😅

キックボクサーとしては大成したのは、地道に頑張って長年芽衣子ちゃんの身近で攻撃に耐えきっていた静くんでありました…。


少女少年時代の京太郎くん&芽衣子ちゃんのお話は一旦ここで終わりまして、

次回から4話分エピローグになります。


『名前の思い出せないあの人』も登場するかも?


最後まで見届けて下さると嬉しいです(^^)


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