第223話 おまけ話 風紀委員長白瀬柑菜は忙しい

204話で、芽衣子への対応の不手際に怒りのあまり京太郎を殴ってしまった柑菜。


柑菜との激しいやり取りの末、発破をかけられた京太郎は、今度こそ気持ちを伝える為、芽衣子のもとへ向かったのであるが…。


「ふぅっ…。全く芽衣子嬢も、矢口少年も面倒くさい子達だな…。だからこそ興味深いのだが…。」


京太郎が去った後、柑菜はそう言い、ほうっと大きく息をつくと、読書同好会メンバーの上月、紅、碧の方を向いてペコリと頭を下げた。


「読書同好会の皆さん、柳沢さん。邪魔してすまなかった。」


「は、はあ…。」

「「い、いえ…。」」

「と、とんでもない…。」


何と言っていいか分からず、目を白黒させるばかりの一同。


「では、いたいけな男子生徒に暴力を振るってしまった私は、今から金七先生のところへ出頭するとしよう。雅、潮、証言してくれるか?」


「「「「?!!」」」」


「えええ!嘘でしょ、柑菜さん!!||||」

「あ、あわわ…!どうしよう…!?」


同じく、その場にいて、呆然としていた風紀委員メンバーの大山雅と小谷潮は、颯爽と歩く柑菜の後を慌てふためきながらついて行った。


「うん?白瀬、もう一回言ってもらえるか?」


職員室にて、生徒指導教諭の金七剛士は、小さい目を最大限に見開き、柑菜の発言を聞き返した。


「ですから!私は風紀委員長の身でありながら、後輩の男子に暴力を奮ってしまいました。相応の処罰をお願いします。」


金七に向かい合い、真剣な目で自分の罪を告白する柑菜。


「いや、ええ?おいおい、白瀬、冗談キツいな…。なぁ、大山、小谷。」


「「いや、あの、あわわわわ…! ||||||||」」


救いを求めるように、柑菜の傍らにいる、潮と雅を見たが、蒼白な顔で何も言えない二人の様子に、自身も青褪める金七。


「ほ、本当なのか…?? ||||||||」


取り敢えず、今日は千堂、左門を始め、文芸部の処分で教師陣は大わらわとなっている為、柑菜の処遇については、明日被害者である京太郎の話も聞いてからという事になり、今日は帰らされる事になった。


雅、潮と共に生徒指導室へ戻り、他の風紀委員に事の次第を説明する柑菜。


「皆。風紀委員長の立場でありながら、過ちを犯して迷惑をかけてしまい、申し訳ない。」


「そんな事があったんですね…。委員長、もしかして、役職を辞されるお覚悟ですか?」


副委員長の雨宮姫華が悲痛な表情で聞くと、柑菜は大きく頷いた。


「ああ。他の生徒に示しもつかないし、元々任期はあと少しだったが、早めに次の代の委員長を決めなければならないかもしれない。

皆に迷惑をかけて申し訳ない。」


「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」


そして、その場にいた風紀委員は、戸惑いながら一人の風紀委員女子に視線を送った。


「へっ?!皆、何…??」

「何だ?皆、雅がどうしたんだ?」


視線を送られた雅は傍らの潮と共に目をパチクリとさせた。


「雅…。このタイミングで申し訳ないが、次期風紀委員長の役職に就いてもらえないだろうか?」


「へえええ!嘘でしょ、柑菜さん!!||||」

「あ、あわわ…!雅が…!どうしよう…!?」」


寝耳に水の事に驚き慌てる雅と潮。


「私、この間まで不登校だったんですよ!?とてもそんな重い責務を負うことなんて出来ません!!他にもっと相応しい人がいるでしょう?」


半泣きになって風紀委員の女子(+庭木くん)を見渡す雅だが、皆そんな彼女に神妙な顔を向けていた。姫華が皆の代表として発言する。


「委員長は、あなたに役職を受け継いで欲しいんだろうというのは、前々から皆感じていたし、認めていたのよ?」


「「ええっ。そうなんですか?」」


姫華の言葉に、目を剥く雅と潮。


「ええ。けれど、強制ではないわ。

今は委員会活動にも参加できるようになったとはいえ、この間まで不登校だった大山さんに、委員長職がどうしても負担で、気が進まないということなら、

私達の中から委員長を選ぶしかないけれど、よく考えてみて欲しいの。

あなたは、委員長のようになりたくて、風紀委員に入ったのではなかったかしら?」


「わ、私、私は…。」


柑菜のように凛々しい人になりたくて、頑張っていた昔の自分を思い出す、雅。


「す、少し考えてさせて…下さい…。」

「雅…。」


俯く雅に、心配そうに寄り添う潮。


「うん。雅、急な事ですまないが、潮と一緒に考えておいてくれ…。」


柑菜は、雅にペコリと頭を下げた。


         * 

         *


「な、なんか、今日は、色々あり過ぎて気持ちの整理が追いつかないよなぁ…。」

「ほ、本当だよね…。」


魂の抜けたような呆けた様子で帰る潮と雅。


「雅…。大丈夫か?最近ようやく、登校に慣れてきたばかりなのに、委員長なんて、俺は心配だよ。もし断るなら、俺も一緒に柑菜さんに頭下げて断りに行くからな?何なら俺が委員長になってもいいからな?」


「ええっ?潮が委員長にっ?」


生真面目な顔でそんな事を言う潮に目を見開く雅。

庭木くん以外、女ばかりの風紀委員で潮が恐縮しながら一生懸命指示を出している姿を思い浮かべ、思わず吹き出す雅。


「ぷぷーっっ!潮、面白い事言うね?」


「何だよ、本気だぞ?雅の為なら俺は…。み、雅…?!//」


ムキになる潮の手をギュッと握る雅。


「ありがとう…。潮。//私も、同じ立場なら潮と同じ事言ってた気がする。」


「雅…。」


「いつも柑菜さんは、揺らがず、真っ直ぐで皆の力になってくれる人だけれど、矢口くんに向き合っていた柑菜さんは、少し違ってた…。


風紀委員長の立場で、もうすぐ受験という状況で、それを台無しにするのも、覚悟の上であんな事をしたっていうのは、柑菜さんの中に、矢口くんへ特別な想いがあったんじゃないかな…。


以前、氷川さんが、矢口くんと柑菜さんの仲を誤解した時は取り越し苦労だと思っていたけど…。


今日の柑菜さん見てたら…何だか…。」


「ああ…。柑菜さんと矢口くんの二人のやり取り、誰も入り込める感じじゃなかったよな…。」


雅の言葉に同意する潮。


「氷川さんと矢口くんの二人にはもちろん、うまく行って欲しいと思うけど、柑菜さんの思いを知る誰かが、違う形でその思いを受け継げたら素敵だなとも思ってしまったの。

自信なんてこれっぽっちもないけど…。」


「雅…。」


「もし、決心がついたら、潮、私を支えてくれる?」


「もちろんだよ!その時は俺が副委員長になって、雅を支えるよ!」


不安そうに見上げて来る雅に、任せろとばかりに、潮は胸を叩き、笑顔を浮かべたのだった。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


217話にて、上月&京太郎が、柑菜が京太郎を殴ったのは、スズメバチから京太郎を守るためだったと即興で作り話をしたため、無罪放免となった柑菜…。


「私なりに筋を通したかったのだが、却って皆に気を遣わせる結果になって申し訳なかった。君達に何かあったら力になるから、いつでも生徒指導室に相談に来てくれな?」


「「「「「はい!」」」」」


柑菜は読書同好会メンバーと京太郎&芽衣子と笑顔を見交わした。


その場を見守りながら、ホッと胸を撫で下ろす雅と潮。

         *

         *


「お前達にも心配かけてすまなかったな?雅。潮。」

「ほ、ほんとですよ、も〜!」

「肝冷やしましたよ〜!」


他の面々と別れ、三人になってから、苦笑いして謝る柑菜に、文句を言う雅と潮。


「急にバトンを渡すなんて言わないで、任期までは頑張って下さい?その後は、私達がきちんと後を継ぎますから…。」

「…!!雅、それじゃあ…!」


そう言っていたずらっぽい笑みを浮かべる雅に顔をパアァッと輝かす柑菜。


「はい。柑菜さんのような立派な委員長にはなれませんが、次期風紀委員のお役目引き受けたいと思います。」


「俺も副委員長として雅を支えます。」


「雅…!潮…!ありがとう…。私のようになどならなくていい。雅と潮らしい風紀委員を作っていってくれ。

本当にありがとうな…。」


二人に目に涙を溜めて二人に礼を言う柑菜だった。


         *

         *


それから数日後ー。


早速、生徒指導室にとある茶髪美少女が相談にやって来ていた。


「最近、度々心臓がギュッとなって、心臓病じゃないかと不安になるくらいなんです。救◯飲んだ方がいいでしょうか?」


「ふうっ…。芽衣子嬢。そういう相談は病院行ってくれないか?」


机に頬杖をつき、ジト目で言う柑菜。


芽衣子に彼氏の惚気話をかれこれ20分は聞かされ、既に食傷気味であった。


「やっぱり病院行った方がいいでしょうか?恋のドキドキは軽い心臓発作だっていいますもんね。

もう!京ちゃんの一挙手一投足が、かっこ良くって!イケメンで!!いつでも飛び付きたくなっちゃうんです。

あんなにフェロモン出てて、他の女子をまた惹きつけてしまうんじゃないかと、私は心配で心配で…!!」


げんなりしている柑菜に気付かず、ヒートアップして、キャーキャー騒ぐ芽衣子。


「うん。まぁ…、もしそんな女子がいたとしても、君は色んな意味で最強だから、敵ではないだろう。」


「それが、そんな事ないんですよ。どうやら、京ちゃんに、柳沢先輩より前に好きだった、初恋の女の子がいるらしいんですよ!」


「ああ…。そう…なんだ。(っていうか、君だろ?)」


「今、京ちゃんの一番近くにいるのは私だけれど、初恋の人って、忘れられないものじゃないですか。いつかその人が現れて、京ちゃんを攫っていくんじゃないかと、怖くて…。」


芽衣子は、恐怖に身震いをした。

 

「(いや、だから、君だろうって。)そんなに気になるなら、本人に直接聞いてみればいいだろう。」


「えっ!で、でも!嫉妬深くて、束縛の強い子って思われないでしょうか?」


「何を今更。芽衣子嬢が重い子なのは、矢口少年は百も承知だから、そんな事心配しなくていい!」


「ええっ?!そ、そうなんですか?!」


人差し指を突き出して、宣言するように言われ、ガーンとショックを受け涙目になる芽衣子。


「恋人とはいえ、初恋の思い出を土足で踏み荒らすような事はするべきでないだろう。

けれど、君達の場合に限り、そこはきっちり伝え合うべきだと思う。矢口くんに聞いてみて、それでも彼が日和って教えてくれないなら、スズメバチ案件だと伝えなさい。」


「☠!スズメバチ案件… ||||

わ、分かりました。私、勇気を出して聞いてます。相談に乗って下さってありがとうございました。」


「おう。芽衣子嬢、頑張りなさい。」


ペコリと頭を下げる芽衣子にファイティングポーズを取る柑菜。


「ふうっ。あの二人は、付き合ってからも面倒くさいな…。」


柑菜が苦笑いしていると、芽衣子と入れ替わるように、長身の男子生徒が、やって来た。


「白瀬さん。ちょっと相談いいかな?」


「早坂会長…!また、畏まって、風紀委員にどんな相談だい?どうぞ、そこへ座ってくれ。」


生徒会長、早坂圭三郎からの相談に、校内で何か起こったのかと柑菜にも、他の風紀委員にも、一瞬緊張が走ったが…。


「いや、個人的な相談なんだ。」

「??」


「白瀬さんに、進路相談したいんだけど。」


「ふうっ…。早坂会長。そういう相談は進路指導室に行ってくれないか?」


早坂会長の言葉に脱力し、額に手を当てる柑菜。


「そ、そうじゃなくて、君はどこの大学へ行くのか教えて欲しいんだ!」

「へ?」


顔を赤らめての早坂の発言に目をパチクリさせた柑菜。


「だから、俺は君と同じ大学に…。?!うわっ。この紅茶辛ぁっ!!」


緊張したように言葉を切って、紅茶を一口飲むなり、早坂は顔を真っ赤にして、舌を出した。


「…!!(姫華…、何かやったな?)」


柑菜が副委員長の姫華を睨むと、彼女はドヤ顔で眼鏡を光らせた。


「ふふん。(紅茶に辛子入れてやりました。委員長に近付く男は、生徒会長といえども容赦しませんっ!)」


「ふうっ。(容赦しませんじゃないだろう…。)す、すまんな。早坂会長。うちの紅茶は、少々刺激が強いみたいで…。」


ため息をつきながら、慌てて取り繕う柑菜。


任期終わりまであと少しだが、それまで楽が出来なさそうな彼女であった。





*あとがき*


来週は、静くん、鷹月師匠達とのおまけ話、

エピローグ4話になります。


9/4(月)〜 平日毎日投稿となりますので最後まで見守って下さると嬉しいです。

よろしくお願いしますm(__)m




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