第222話 おまけ話 紅と碧の揺れる想い/紅と碧の衝撃

「あっ。碧…。」

「あっ。紅…。」


自宅の防音設備付きのそれぞれのレッスン室から、同時に出て来た私達=双子の姉妹小倉紅、小倉碧。

私達は、色んな事でシンクロすることが多かったけど、水飲み休憩をとろうとするタイミングも同じだったらしい。


私達は、キッチンで向かい合わせにテーブルの席につき、ミネラルウォーターを口にしてフーっと同時に息を吐いた。


「ふふっ。碧、今日は練習、気合い入ってるね?」

「ふふっ。紅こそ。昨日はもう、練習ヤダって駄々こねてたのに…。」


お互いに笑顔をみせるが、どことなく元気がない私達。


二人ともお互いのピアノの音が哀しげに揺れ、不安定になっているのに気付きながらも、お互いにそれを指摘しなかった。


「部長…。部長と矢口くん、今頃うまく行っているかな?」

「ね。気になる…!まだ、連絡来てないなぁ…。どうなったんだろ?」


私(紅)が聞くと、碧(私)はスマホの画面を確認して首を傾げた。


以前から、同じ部活の部長の彩梅ちゃんが、新入部員の矢口くんの事を異性として気になっでいる事に気付いていた私達。


普段はしっかりしている彼女が、矢口くんの事になると、途端に可愛い反応をする様子を見て、私達が問い詰めたところ…。


「そ、そうね…。わ、私、矢口の事が気になっている…みたい…。///」


「ぶちょお、ヤバカワ!!」

「ツンデレ萌えキター!!」


と茹でダコのように赤くなりながら答える部長に、私達はキャーキャー騒いだ。


そして、京太郎に告白するように、部長

の背中を押したのだ。


((だって、部長と矢口くん、いつも言いたい事言い合って、お似合いだと思ったし…。))


同じ事を思う私達。


((それに…。相手が部長だったら、私も諦めがつく…。))


そう思い、俯いて目を閉じた。



双子として生まれ、好きな物も嫌いなものも得意な事も不得意な事も大体一緒の私達。


見分けがつかないからか、皆からは紅碧って

一緒くたに言われる。


中学に上がったとき、碧(私)が同じクラスの男子に告白された事があった。

本当は私(紅)宛てだったけど、間違えて告白したらしく、それを伝えると、その男子…。


「あ。じゃあ、君でもいいから付き合ってよ。」


だって。


なんじゃそら!



それ以来私達は区別をつけたくて、赤と青のリボンをするようになった。

時々は入れ替えて遊ぶ事もあったけどね?


でも、矢口くんがいる時はそんな遊びは極力控えるようにした。


彼に、制作した詩をー。(イラストをー。)


褒めてもらえるのが嬉しかったから。


それぞれに違ういいところを認めてもらえるなんて、そんなの、親と、部長以外では、彼しかいなかった。


彼の優しい笑顔が好きだった。


けど…。


同時に碧(紅)の気持ちにも気付いていた。


ほのかな好意が大きくなって、将来碧(紅)と彼を奪い合うような事はしたくなかった。


どこかで気持ちにブレーキをかけなければと思っていたところ、部長の気持ちを知った。


部長のあんなに可愛い姿初めて見た。きっと私の好きよりずっと大きい気持ちをもっている。


私の詩(イラスト)を矢口くんは心から褒めてくれる。


けど…、部長の小説程矢口くんの瞳を輝かせられない。


だから、部長の背中を押した。


二人がうまく行くように。


「あっ!」


突然碧(私)は声を上げた。


「碧、どうしたの?」


「部長、告白上手くいったみたい!ホラ!」


碧(私)が差し出すスマホの画面には、マッテリアで部長と矢口くんが寄り添う画像が映し出されていた。


「やったー!カップル成立〜!!」

「ウェ〜イ!!」


私達は盛り上がってハイタッチをした。

 

「明日、部長に惚気話聞かなきゃだね?」

「ホントホント!楽しみ〜♪」


「安心したところで、また練習に戻ろうかな?」

「私も〜!」


そう言って、私達はそれぞれのレッスン室に戻って行った。


部長と矢口くんが上手くいってくれてホッとしたし、嬉しい。これは本心。


だけど、その他に心の奥で、ズキズキとした痛みを感じていたのも本当。


そして、碧(紅)の表情から私と同じ痛みを感じたのも本当。


心の中は青空混じりの曇り空。


正しい事をした筈なのに、これが完全な正解でもなかったと胸の痛みが教えてくれる。


こういう時は詩(絵)を書きたくなるんだ…。

きっとこの詩(絵)は碧(紅)にも見せない。


書(描)き終わったら…。その時は碧(紅)と一緒に、部長と矢口くんを100%の笑顔で祝福できる自分でいたいな。


私はしょっぱい雫が口元に落ちて来るのを感じながら、そう思っていた。



❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


「あ、あの…。///紅先輩、碧先輩。実は、いくつか詩を書いてきたんですが、

よかったら、お二人に見て頂けませんでしょうか?」


部室で頬を染めながら、躊躇いがちに一冊のノートを差し出してくる芽衣子に、後輩萌えしてキュンとする紅と碧。


「氷川さん!いいですよぉ!いくらでも見ますよぉ!!」

「氷川さんの詩どんなだろう?楽しみですぅ!!」


「あ、ありがとうございます✨✨

小説対決で忙しいとこすみません…。」


「あ、いやぁ…。私も碧も部長と矢口くん程忙しいわけじゃありませんからぁ…。」


部室で打ち合わせ中、作品とシナリオ作りで睡眠不足のあまり、会議室テーブルに寝落ちしている二人を見ながら気まずそうに笑っている紅。


「あ、あはは…。お二人共もう少し寝かして置いてあげましょうね。」

と、芽衣子も苦笑い。


「お二人に見て頂いて大丈夫そうでしたら、京先輩と上月先輩にも落ち着いてから、見て頂こうかと思っています。

あ、あの、目の前で見られるのは、恥ずかしいですので、後で感想お聞きしていいですか?」


「えっ?持って帰って読んでもいいんですぅ?」

「は、はい!お願いします紅先輩!」


「私達を信用して大事な作品を託してくれるんですね。大事に読ませてもらいますね?氷川さん。」


「は、はい!お願いします碧先輩!」


紅と碧に 詩のノートを渡して頭を下げる芽衣子。


         *   

         *


「で、ではっ、氷川さんの詩、早速読ませてもらいましょうか。」

「う、うわぁっ。楽しみっ♪」

家へ帰って、宝箱を開ける時のようにワクワクしながら、二人並んで、芽衣子の詩のノートを開く紅と碧。


『13夜の月。

月が綺麗と私が言う。

いい嘘コクだと君が言う。

次は同じ気持ちで満月を見れたらいいのに。』


「「甘酢っぱ!!」」


最初の詩を見て、その場で悶える紅と碧。


「嘘コクと言われてるけど、彼女の方は本気だよね。あともうちょっとで両想いになれそうないい感じ出てるよね?」

「うん。いい!すごくいい!私13夜の月と二人のイラストを描きたくなって来た!」


テンション高く作品の評価をしていた二人だが、ふと、その詩の背景を考えると、顔を見合わせた。


「でも、これって…、やっぱり、氷川さんと矢口くんの事だよね?」

「きっとそうだよね…。部長に見せていいものか迷うよね…。」


腕組みをして考え込む二人。


「去年、部長と矢口くんが別れてしまったと聞いた時は、無責任に背中を押してしまった事に責任を感じていたし、辛そうな部長を見て、機会があったら、よりを戻せないかとも考えていたけれど…。」

「氷川と矢口くんを見ていたら、本当にお互いを大切に思っているのが分かって、そんな事はとても思えなくなってきちゃった…。」


「そ、それにさぁ…。」


チラッと碧の様子をうかがう紅。


「碧はさぁ…。それで、いいの…?」


「んん?な、何が?」


紅に聞かれ、動揺する碧。


「だからさぁ…。気持ち的にその…。」


「……!(紅、やっぱり私の気持ちに気付いてたんだ。)そんなの、分からないよ…。どっちを選んでも誰かが泣くことになるんだし…。そんな中で、更に関係を引っ掻き回すような事できないよ。紅はどうなの?気持ち的にそれでいいの…?」


「……!(碧、やっぱり私の気持ちに気付いてたんだ。)私もそう思って、気持ちを押し込めるのがベターな方法だと思ってた。

けど、全身全霊で矢口くんに好きって伝えている氷川さんを見ていたら、なんかこのままでいいのかなって思えてきちゃって…。」


「それ、すごい分かる…。」


頭をコツンとつけ、お互いにもたれ掛かる双子の姉妹。


「「私達も前へ進まなきゃいけないよね…。」」


「氷川さんの詩、私達がこれから進むべき方向のヒントになるかもね。」

「そうだね。続き、読んでみようか?」


二人寄り添い、再びノートのページを開く紅と碧。


『ドガッ!!バギッ!!

拳が、右足が重い打撃の音を響かせる。


怒りに我を忘れていた私の耳に、

『お預け!』と、厳しい声が響き渡る。


彼は、私を獣から人間に引き戻してくれる唯一の人。』


!!?


衝撃に顔を見合わせる二人。


「こ、拳?右足?打撃??んん〜?これは彼女の心象風景の比喩的なものかな??

何か、気持ちの中で荒れ狂うものがあったって事? 

清楚可憐な氷川さんがこんな尖った表現するなんて、意外だけど、なかなかいいなぁ…。」


顎に指をかけて感心する紅に、碧も頷く。


「うん。いいね。ふふっ。『お預け』って、なんかワンちゃん扱いされてるけど、彼の声で、怒りが凪いでいく様子エモイね!」

「うん!エモイ!!」


「これは、氷川さんに、歌ができた背景をぜひ聞かせてもらいたいね。」

「うん。明日、聞いてみよう!」


盛り上がる紅と碧。

 

          *


一方その頃の芽衣子。


「今頃、紅先輩、碧先輩。私の詩見てるかな?ドキドキ…///

あれ?そう言えば、勢いで、トラ男くんをサンドバックにした時の歌、読書同好会では暴力NGだから、後で消さなきゃと思って、どうしたっけ?||||

あああ、消し忘れてたら、どうしよう?」


やらかしたかもしれない事に気付き、頭を抱えていましたとさ…。




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