第220話 おまけ話 私のワンワンとの出会い《後編》
氷川さんに助けてもらってから、私はクラスで彼女と話す機会が増え、その日は、教室で机を合わせ、お昼を一緒に食べていた。
私が、どうして他の男子達の告白を断っているのか聞いてみると、どうやら彼女には小さい頃からずっと想い続けている初恋の人がいるらしい。
氷川さんは、照れ照れになりながら、その初恋の男の子の写真を見せてくれていた。
「エヘヘ…//矢口京太郎くんというんです。カッコイイでしょう?」
写真には、Tシャツを着た、割と普通のお顔立ちの小学生くらいの男の子が写っていた。
私は氷川さんがこんなに平凡な雰囲気の男の子をずっと思い続けて、他の男子達の告白を断っていたのだと知って、正直驚いた。
けど…、顔には出さず、当たり障りのない返事を返していた。
「へ〜。ほんとだ。カッコイイねっ。」
「でしょう?//あっ。でも、笠原さん、京ちゃんの事好きにならないでね?」
「ふふっ。大丈夫。氷川さんの好きな人狙ったりしないよ。男の子は当分もういいかなって感じだし。」
心配そうな彼女に、苦笑いして手を振って否定した。
「あんな事があった後ですものね…。本当に先生や親御さんに言わなくてよかったんですか?その後は元カレさんになにかされていませんか?」
「ああ、それは大丈夫。あいつ基本は小心者で、あの時限り魔が差しただけだと思うから。今頃は自分のやろうとした事に震えている筈だよ?」
あれから、健は一週間程学校を休んだ後、
私の報復を恐れてビクビクしながら登校してきたところへ、
「あの時の事を不問にする代わりにもう二度と顔を見せるな」と言ってやると、青くなってピューッと逃げて行ったのだった。
「笠原さんがそれでよいと言うなら、いいのですが、力になれる事があるなら、言って下さいね?」
「ありがとっ。でも、氷川さんは今も充分私の力になってくれてるよ?」
「??それってどういう…??」
不思議顔になる彼女に私はニッコリ微笑んだ。
健の件で怖い思いもしたけれど、それがきっかけで氷川さんと知り合えた。
すごく可愛くて綺麗なのに、ちょいちょいポンコツで、やらかし屋。強いのに、それを隠しているミステリアスなところ。
仲良くなるにつれて、次々と明らかになる彼女の実態が面白過ぎて、楽し過ぎて、その時の私はもうこりゃ、当分彼氏なんかいらんわ〜なんて思っていたものだった。
しかし、そんな呑気な思いが吹き飛んだのは、それからすぐの事…。
「か、笠原さぁん!ちょっと来て!!氷川さんが、3年の先輩に絡まれて大変な事に…!」
教材の準備を手伝って戻って来ていた私は、血相を変えて飛び出して来たクラスメートの女子に腕を引っ張られ、教室へ入った瞬間
信じられない光景を見た。
俯く氷川さんの周りに3年の女子達が群がり、床に、一枚の写真が真っ二つに破り捨てられていた。
ま、まさか、あの写真、氷川さんの好きな人の写真じゃ…!
「ひ…。氷川さ…。」
呼びかけようとしたとき、氷川さんは、ふと、自分の持っていたスポーツドリンクのペットボトルを軽く投げ…。
パアアンッッ!!!
ドバシャッ!!
「「「きゃああっ…!!!」」」
「!!!」
氷川さんは恐ろしい勢いでそれを蹴り上げると、一刀両断にした。
ペットボトルの水がかかり、ビショビショになった女子達は悲鳴を上げた。
「今すぐ選択してください!!
私に誠心誠意謝るか、あなた方の大切なものを差し出して、同じように真っ二つにされるか…!!」
低い声で先輩にそう告げる氷川さんは、能面のような表情をしていた。
「「「っ…!!っ…!!」」」
目の前で起こった事に驚きすぎて、先輩達は
言葉を発せないようだった。
「聞こえませんでしたか?それとも、あなた達が…(真っ二つになりますか…?)」
「「「!!!||||」」」
その場にいた全員言葉を濁した氷川さんの声なき声まで聞こえたような気がした。
先輩達はあまりの恐ろしさにブルブル震えて泣きじゃくっている。
「あっ…。あっ…。」
「えぐっ。うぐっ。」
「ひっく。た、助けっ…。」
あ…。こりゃ、ダメなヤツだわ。
氷川芽衣子という女の子は、面白いだけじゃない。その野生動物のようなまっすぐさ故に、誰かがお世話を焼いて助けてあげなければ、人間社会からはみ出して修羅の道を歩む事になってしまう。
最終的に氷川さんの好きな人がその役目を負う事になるというなら、その人がいない間は、誰かがそれを代わりにやってあげなければ…!
他でもないこの私が…!!
「ハーイ、そこまで!!」
決意を固めた私は、修羅場的状況に強引に割って入り、パンパンと手を打ち鳴らした。
「氷川さん、取り敢えず、そこで、何もせず、フリーズ!!」
「ふぐっ?」
「次!先輩方、命が惜しいなら謝りましょう。氷川さんに『ごめんなさい』言えますか?」
私に声をかけられて逆に先輩方はフリーズしていた思考と体が解除されたようで、堰を切ったように謝り出した。
「ご、ごめんなさい!氷川さん!!」
「写真、破ってごめんなさい!!」
「ごめんなさい!殺さないでぇっ!!」
「…!」
「氷川さん。先輩達、謝ったよ?足はもう使うのやめようね…?」
氷川さんに近付き、宥めるようにポンポン肩を叩いた。
「うん。笠原さん、ありがとう…。ううっ…。でも、たった一枚しかない京ちゃんの写真がぁっ。」
ポロポロ涙を零した氷川さんを見て、慌てて先輩に呼びかけた。
「先輩方っ!写真修復して下さいっ!!今すぐっ!!ハイっ。これ、メンディングテープ!!」
「「「わ、分かりましたっ…。」」」
先輩達が3人がかりで、必死に写真の修復を行う中、氷川さんには、雑巾を渡した。
「氷川さんは、床に溢れたペットボトルの水、ちゃんと拭いてね?」
「はいぃ…。えぐっ。分かりましたぁっ。
え〜ん、結構、ベトベトしてるぅっ。」
「頑張れ。私も手伝うから。」
泣きながら、床に零れた液体を拭く氷川さんに私は苦笑いを向けた。
*
*
写真の修復と、掃除が無事終わり、何度も謝りながらヨロヨロと先輩達が去ったあと、
氷川さんは、私の前でペコリと頭を下げた。
「笠原さん、今日はお世話になりました。
笠原さんがいてくれなかったら、私、あの先輩方をどうしてしまっていたか…。本当にありがとう…。」
「いやいや、なんとか収束できてよかったよ。私ね、考えたんだけど、氷川さんは少し危なっかしいところがあるから、誰かが見ていてあげなきゃいけないって。だからね?
氷川さん、よかったら私の…。」
「!!(ドキドキ♡私にも遂に初の女友達が…?)」
「私のワンワンになって…♡!!」
「そこは友だちじゃないのっ?!」
私の心からのお願いに、氷川さんは崩れ落ちたのだった。
*あとがき*
後に恐怖のペットボトル事件と呼ばれる出来事の詳細はこんな感じでした…(;´∀`)
ちなみに、絡まれた理由は、菱○先輩ファンの先輩方が芽衣子ちゃんを妬んでの事だったみたいですよ。
来週は芽衣子ちゃんホラー話制作の話、紅ちゃん碧ちゃんの話、白瀬先輩の話を投稿する予定です。今後もよろしくお願いします。m(__)m。
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