第219話 おまけ話 私のワンワンとの出会い《前編》

私、笠原真希子には中二の春、忘れられない出会いがあった…。



「だ、だからさ。マキちゃん…。藤ヶ崎さんとは、あの時、雰囲気で手を繋いじゃっただけで、その後は何ともなくて!信じてくれよ。」



放課後の教室でー。


少し前歯の出た、ハムスターにそっくりな顔立ちの男子生徒=羽賀健はがたけるは、キョドキョドと目をあちらこちらに動かしながら、必死に言い訳をしてきた。


「うんうん、分かったよ。健。ちっとも怒ってないから安心して?」


そんな彼に私はニッコリと笑いかける。


「ほ、本当?」


「だから、私達、円満に別れよっ?」


「へっ?」


あっさりした私の申し出に、信じられない事を聞いたように目を丸くした。


「な、なんで?藤ヶ崎さんの事、やっぱり許せないの?」


「ううん?藤ヶ崎さんの事がある少し前から別れたいなって考えてたんだ。

むしろ、彼女の事がきっかけで切り出し易くなって、助かっちゃたって感じ…♡」


「そ、そんな…!俺の何が悪かったの?マキちゃんっ?何でも言ってよ?俺…直すからさぁっ。」


「ううん?健に悪いところなんか、一つもないよ?」


むしろ健の徹頭徹尾ダメ人間なところが私は大好きだったんだから。


「じゃあ、なんで、別れるなんて…!?」


「健の事、飽きて好きじゃなくなっちゃったから?健の為にかける時間や手間が急に勿体なくなっちゃったんだ。」


「そ、そんな…☠!!」


明るくそう告げるとハムスター…じゃなかった元カレは、ガガーンとショックを受けて、その場に崩れ落ちた。


最初は楽しかったんだよね。

私史上3人目の彼氏、健は家で飼ってるハムスターのどく助にそっくりで、可愛いし、頼りないし、私が支えてあげなきゃって思って勉強教えたり、身だしなみを整えるように言ったり、お弁当作ってあげたり、かいがいしく世話焼いて…。


けど、貸したゲームソフトを勝手に他の女の子に又貸ししたあたりかな?

デート代の立て替えた分を返してくれなくなったあたりかな?

すっかり気持ちが冷めてしまって、彼への興味が尽きている自分に気付いちゃったんだよね。


家で飼ってるペットはいつまでも愛情を持って世話をしていられるのに、人間相手は難しいよなぁ…。


ちょっと頼りないボーッとした男の子を好きになって、最後はいっつもこうなっちゃう。


「うわあぁん!ひどいよ。マキちゃんっ?俺、マキちゃんがいなかったら、どうやって、明日から、生きていけばいいんだよっ?お昼ご飯はどうすればいいんだよ?マキちゃんのノートがなかったら、これからテストどうすればいいんだよ?」


いや、どうやって生きてって、普通に息して

ご飯食べて、寝てれば死ぬことないでしょうよ。

お昼はお母さんにもらってるお昼代でパンでも買いなよ。

テストは授業中寝るのやめて、ちゃんとノート取ればいいだけの話だし…。


思ったけど、なんか言うのも面倒臭かった。


「うん。健。これからファイトだねっ!

あっ。健に貸したもの、も、返さなくていいから。藤ヶ崎さんに又貸ししたノートも私コピー取ってるから、返さなくていいよって彼女に言っといて?じゃねっ?」


私はにこやかにウインクをしてそう言い置くと、健に背を向けて、羽のように軽い気持ちで歩き出したところ…。


「どうしても別れるっていうなら、マキちゃんを、ずっと、俺のものにしてやるっ…。」


健の声とは思えない怨念のこもった声が背中に投げかけられ、振り向くと、震えながら、健はカッターナイフの刃をチキチキと出して、私の方へ向けていた。


「たけ…る…?」


現実感がないまま、私は呆然と呟いた。


小心者の健が持っていたカッターナイフで、私を切りつけようとするだなんて、夢にも

思っていなかったから。


身動一つ出来ないまま、スローモーションのように健がカッターを振り下ろされるのを

見守ってると…。


「いけませんっ!!」

バッキィ!!

「ぎゃあっ!」


誰かが、健の手の辺りを蹴り飛ばし、カッターナイフを弾き飛ばした。


見れば、床に落ちたカッターナイフは、刃だけでなく、全体がバキバキに割れている。


「い、いてぇっ!!うぐうっ…!」


健は右手を押さえて蹲り、呻いている。


「あなた、何やってるんですか!カッターナイフを人に向けてはいけませんって、小学校の時、教わらなかったんですかっ!?」


私を助けてくれた人物は、予想に反して清楚な雰囲気の茶髪美少女で、腰に手を当てて、

健に向かってプンプンと怒っていた。


「聞こえてますかっ?今度やったら、真っ二つにしますよっ!?」

「ひいぃっ…!!||||||」


ドスの聞いた声で彼女に脅され、健は震え上がった。


健の怯え顔を見て、美少女は、焦ったように付け足した。


「あっ。真っ二つにするというのは、武器の事ですからね?流石に人体を真っ二つにするという意味じゃないですよ?そんな事、物理的には出来るかもしれませんが、絶対やりませんからねっ?安心して下さいねっ?」


「ぎゃあああっ…!!ひっ、人殺しっ!!お、お助け〜っっ!!」


健は、手を押さえて、ピューッと逃げて行った。


「なっ…!人殺しって…!!人に危害を加えようとしていたのはそっちじゃないですか!」


傷付いた表情で涙目になっている彼女の顔をマジマジと見た。


やっぱり、この人氷川さんだよね…?


私はその茶髪美少女に見覚えがあった。

4月からうちのクラスに転校してきた氷川芽衣子さん。


清楚可憐な美少女として、学校中の男子から人気を博している、有名人だった。

既に何人かの男子に告白されているが、全て断っているとの情報を他の女子から聞いていた。


しかし、そんな彼女のイメージを一変させるような今の言動は一体…。

狐につままれたような気持ちだったが、取り敢えず、私は彼女に礼を言わなければと思った。

さっきのは流石に怖かったし…、彼女に助けてもらわなかったら今頃どうなっていたかと思うと背筋がゾッとした。


「た、助けてくれて、ありがとう。氷川さん…。強いんだね?」


彼女は、私に声をかけられると、ビクッと肩を震わせた。


「い、いえっ!今のは、偶然体操をしようと足を振り下ろしたところに、彼の手があっただけなんですよっ?わ、私ったらとんだドジっ子だなぁ。テヘペロ。」


彼女は、可愛らしく舌を出し、頭を撫でつけた。


いや、ブリっ子のタイミング完全に間違えてるでしょ。今の物凄い出来事、そんな事で誤魔化されたりしないし…。


しかし、そんな彼女に猛烈に興味が湧いていた私は、追求しないことにした。


「そうなんだっ。偶然でも、助けてくれてありがとっ!私、同じクラスの笠原真希子。今度ぜひお礼させて?」


「え。ええっ?」


狼狽える氷川芽衣子さんに、私は明るい笑顔を向けたのだった。




❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇

芽衣子ちゃん&マキちゃん、中学生編の前編でした。

マキちゃん昔はダメンズウォー○ーでしたね(^_^;)


次回後編になります。

よろしくお願いしますm(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る