第218話 反嘘コク同盟 初ミッション「二人のラブラブっぷりを全校生徒に知らしめろ!」


「どうですか?矢口先輩、氷川さん!我が新聞部の取材を受けてくれませんかっ…?」


異様なテンションで、俺と芽衣子に詰め寄る自称新聞部員のホープ、久米原修二郎に、俺とめーこは、さっと鋭い視線を見交わした。


「京ちゃん…。(この人、なんか怖い…。実力行使しちゃダメかな?)」


めーこは右足が疼くようで、既にいつでも飛び掛れるような体勢に構えていた。


「めーこ…!(ダメだって!気持ちは分かるが、新聞部なんだから後でどんな噂を流されるか分からないぞ?ここは、俺に任せてくれ。)」

「コクン。(わ、分かったよ。京ちゃん。お願いするね?)」


俺は視線と声の調子で、そんなめーこを制すると、彼女は頷き、ようやく右足の力を抜いてくれた。


去年、風紀委員の大山さんが不登校になる原因となったのは、秋川と組んだ新聞部員の悪意の籠もったインタビューのせいであった。


あれから白瀬先輩の手によって、新聞部はしばらく活動停止になったり、検閲を受けるようになったりと罰則や制限を設けられたというが、

昨日の一件を盾に脅迫するように取材を申し込んでくる辺り、卑劣なやり口は変わっていないように思われた。


当然、新聞部の思惑に乗るワケにはいかない。ここは慎重に理由をつけてお断りしよう。


「久米原くんといったかな?悪いけど、取材は…」


バン!!


俺が久米原に言いかけた時、再び屋上の扉が開き、インテリっぽいメガネをかけた男子生徒がガムテープを片手に血相を変えて走り寄って来た。


「久米原ぁ!!お前、何勝手な事してんだよぉ!!ちょっとその水素並みに軽い口を閉じてろぉ!!」


ビーッ。ベタベタッ!!


「ぶ、部長!ブフーッ!!ムググッ!!」


「「?!!」」


またも突然現れ、部長と呼ばれた男子生徒は、久米原の口を、ガムテープで塞ぐとため息を漏らした。


「ふうっ。ちょっと大人しくしてろよ?」

「モゴモゴッ!」


「ううっ…。京ちゃん、なんかあの人達怖いよぉ…。」

「め、めーこっ。」


過激な行動に怯えるめーこを後ろ手に庇いつつ、俺は闖入者の二人に厳しい表情を向けた。


「あんた達、一体何が目的なんだ?!

たとえ脅されても、俺達は思い通りにはならないからな?


あんまり横暴な事してくるようなら、逆に風紀委員や、生徒会に訴えるぞ?


そうなったら、今ただでさえ厳しい立場に置かれている新聞部はまずい事になるんじゃないか?」


追い詰めるように主張してやると、意外にもその男子生徒は反論する意志を見せず、暗い表情で肩を落とした。


「ああ…。その通りなんだよ。だから、

新聞部の名誉を挽回しようと、取材をする側も受ける側も、ウィンウィンの状態で、生徒達に楽しんでもらえる記事を書こうと思っていた矢先に、このバカが暴走して、君達に警戒心を与えるような話の持ち掛け方をしやがって!!」


そう言って、男子生徒は、久米原をギロッと睨むと、口にガムテープを貼られた久米原は、すまなそうな表情で男子生徒と俺達に交互に手を合わせていた。


「ムグムグ!(部長、スンマセン!矢口さん、氷川さんスンマセン!)」


「新聞部部長の灰宮隆史はいみやたかしです。俺からも後輩の暴走を止められなかった件について謝罪するよ。本当に申し訳なかった。君達を脅すつもりじゃなかったんだ。」


「「は、はぁ…。」」


新聞部部長の灰宮と久米原から謝罪を受け、取り敢えず悪気はなさそうという事は分かった。


更に新聞部部長の灰宮は、苦々しく顔を顰め、話を続けた。


「去年の大山さんへの取材では、生徒達にウケる記事を書こうと追求するあまり、

取材する側の誹謗中傷を行うというあってはならない事をしてしまったと、新聞部全体で深く反省しているよ。


あの時インタビューをした部長の白鳥は、責任を感じて部を辞めてしまった。

残された俺達は、同じ失敗を二度と繰り返さないようにしようと肝に銘じているんだ。


氷川さんと、矢口くんは何かと校内で有名なカップルだし、生徒に明るい話題を提供できるのではないかと、以前から折を見て取材を申し込みたいと思っていたんだ。


まぁ、こういう立ち位置だし、昨日の件についても情報はすぐ入ったんだけど、その事は新聞部から漏らすつもりは決してないんだ。


それに、取材は、風紀委員にも立ち会ってもらい、記事は、生徒会にも許可を得てから張り出される事になるから、公正さは保たれる事になる。


君達カップルについて生徒達にポジティブな印象を持ってもらえるな取材内容になるよう約束するよ。


どうか、取材の件考えてみてくれないかな?」


「ムグムグッ!(よろしくお願いします!)」


灰宮は真剣な表情で一気に説明をすると、久米原と共にペコリと頭を下げた。


「京ちゃん…。」

「めーこ…。」


俺とめーこは彼らの申し出にどう対応したらいいか分からず、互いに途方に暮れた顔を見合わせたのだった…。


          *


それから、俺達は取り敢えず返事を保留にし、近日中に答えを出すと新聞部の二人に伝え、彼らは去って行った。

(久米原は、まだ俺達と話したそうだったが、灰宮はそんな彼を引きずるように連れ帰った。)


まだお昼休みだというのに、今日一日で色んな事があり、めーこは疲れたのか、コテッと俺の肩に頭をもたせかけた。


「京ちゃんとやっと心置きなく一緒にいられるようになって嬉しいけど、これから色々考えなきゃいけない事があるねぇ…。」

「そ、そうだなぁ…。//」


肩にめーこの温もりと重みを感じ、ドギマギしながら俺もこれからの事を考えた。


『読書同好会を退部するのか、このまま活動に参加するのか』

『新聞部の取材を受けるのか、断るのか』


近い内に選択しなければならない事が二つも出来てしまった。


「う〜ん。どうするのが一番いいだろうなぁ…。」


俺が眉根を寄せて考え込んでいると…。


「京ちゃん!」


フニュフニュン!


「おうっ?♡」


突然めーこに腕を抱え込まれ、お馴染みの柔らかいおっぱいの感触に、瞬間思考力が 吹き飛んでしまった。


「京ちゃん。皆にとってどれが一番いい事なのかって考えていたら、すり減ってしまうよ?

ここは、私達にとって、一番いい事でみんなの為にもなる事考えてみよう?」


「俺達にとって…?」

「うん!」


目の前の茶髪美少女=めーこは、頬を紅潮させて、大きな瞳をいたずらっぽくきらめかせ、ニンマリと笑った。


「反嘘コク同盟の初ミッションを決めよう!!」




❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


新聞部の人に取材の申し込みを受けてから、2週間後ー。


反嘘コク同盟として、二人で決めた初ミッション「二人のラブラブっぷりを全校生徒に知らしめろ!」

に従い、新聞部部室の一角で、、インタビューを受ける私と京ちゃんの姿がそこにあった…。


「なるほど!氷川さんと矢口くんは、家庭の事情で離れ離れになった幼馴染み同士だったと…。

氷川さんは、キックボクシングに邁進し、

矢口くんは嘘コクを見分けるプロになり、

そんな二人が高校で再会して、愛を育むなんて、ドラマチックですねぇ?


現在、読書同好会に所属している氷川さんと矢口くんですが、お互いへの想いを込めた作品を作っているそうですね?」


新聞部部長の灰宮先輩は、向かいのインタビューアーの席に座っている私&京ちゃんに話を振り、好意的な笑顔を向けて来た。


ちなみに、同じ部屋に近くにカメラを構えた久米原くんと壁際に数人の新聞部員、風紀委員メンバー、読書同好会メンバー(新入部員として、なんと神条さんを含む!)

が私達の様子を見守ってくれている。


「い、いや、自作の小説に彼女と少し似たイメージのキャラを登場させただけで、そんな大それたものでは…!//」


「そうなんです!京ちゃんの事を想って、一生懸命詩を書きましたぁ…♡」


焦って否定する京ちゃんに、紅色に染まった頬に両手を当てて肯定する私。


「なるほど!矢口くんは照れていますねぇ…。氷川さん、そこんとこどう思われますか?」


「いや、もうそこが可愛くて良いところだと思います♡♡」


「め、めーこ!///」


京ちゃんは、思いのだだ漏れる私に更に困ったように眉尻を下げてテレテレになっていた。くうっ!ホントかわゆいなぁ…!キュン死にしそう…!!


お互いに見詰め合っているところにカメラを向け、久米原くんが喜々としてシャッターを押しまくっていた。


初対面ではテンションの高すぎる怖い人という印象だたけど、カメラの腕は確からしい。

後で、撮った画像焼き増ししてもらお!


「本当に当てられてしまいそうなぐらい仲のよい二人ですね?

では、氷川さんの作品は既に完成されているそうので、ちょっとここで朗読して頂きましょうか?」


「あっ、はい!」


緊張気味に京ちゃんを見ると、(大丈夫!めーこ、頑張れ?)というようにコクンと頷いてくれたので、私も神妙な顔で頷き返した。


私は原稿を手に、その場に立ち上がり、深呼吸すると、精一杯声を張り上げた。




✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


『小さな芽と八つの嘘』氷川芽衣子



ちっぽけな芽だった私


荒々しい日差しから身を挺して守ってくれた、優しいあなたに憧れの気持ちを持つようになりました


けれど、私の体はあまりに小さく、無力で


周りに流されるまま、あなたに嘘をつき


私利私欲の為、あなたを陥れ


騙して、あなたを利用し


頑なにあなたを拒絶し


あなたを値踏みし貪り


己の信念を優先し、あなたに踏み込めず


つまらない嫉妬で、あなたを傷付け


それらは皆、眩しく光り輝くあなたに焦がれた私の影の姿でもありました


あなたは七つの冷たい嘘に晒され、凍り付いて萎れていきました


眩しいあなたの真似をして、あなたの過去と心を取り戻そうとついた八つ目の嘘


無邪気に笑うあなたへ近付くのを最後に阻んだのは自分自身でした


けれど、七つの冷たい夜を越えて、八つ目の嘘は本当になり、新しい朝を迎える時


あなたに受け入れられ、想いを注がれて


ちっぽけな芽だった私は大きく育ち


ようやく私も花になれます


実をつけられます


これは、八つの嘘を胸に刻みあなたと共に生きていく元小さな芽の初めての告白ほんとう


✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽



私が原稿を読み終わると、室内に大きな拍手が鳴り響いた。


「素晴らしい詩でしたね。」

「スゲーッ。スゲーよっ!!」

感嘆の目で私を見る部長の灰宮さん、盛んにシャッターを押す久米原くん他、新聞部の人達。


「あなたの詩、今までの作品の中で一番胸に響いたわ。ぐすっ。」

「ふぐっ。感動ですぅっ。」

「えぐっ。涙が止まりませんっ。」

「氷川さん、言葉にならないぐらい素敵でしたっ。ずずっ。」


作品作りを指導し、アドバイスしてくれた上月先輩、紅先輩、碧先輩。新入部員の神条

先輩。読書同好会のメンバーは皆涙を流して

称賛してくれた。


「流石、芽衣子嬢。いいものを聞かせてもらったよ。」

「「氷川さん、よかったよ〜。」」


風紀委員の白瀬先輩、大山先輩、小谷先輩も目元を潤ませて褒めてくれた。


私は作品を発表してこんなにたくさんの人に評価されたのは初めてで、胸が熱くなった。


そして、一番聞いてもらいたかったその人は…。


「めーこ。すげーよかったよ?」


顔を真っ赤に染めて、涙を浮かべていた。


「京ちゃんっ…!」


私も堪えていた涙が込み上げて来てしまった。


「本当に今までありがとうな?これからもよろしくな?」

「クゥン!!」


彼の手に髪を撫でられ、私は何とも言えない誇らしい気持ちになったのだった。


         *

         *


それからも、新聞部の取材は続き、上月先輩に出されたカンペの通り、京ちゃんの小説と私の詩が文化祭で出す部誌に掲載されている事を宣伝した。


最後に久米原くんに、キックボクシングの技を見たいから、粗大ごみに出そうと思っていた壊れたパイプ椅子を蹴ってみてくれと言われたので、真っ二つにしてみせると今までテンションの高かった彼は急に無口になった。


どうしたんだろう?せっかく燃えないゴミとしても出せるサイズにしてあげたのに…。


「じゃ、じゃあ、取材はこれで終わりでいいかな?灰宮くん、皆さんお世話になりました!行くぞ?めーこっ。」

「あっ。う、うんっ。」

「あ、ああ…。|||| あり、あり、ありがとう…。矢口くん。ひひ、氷川さん。」


何故か周りも凍りついている中、京ちゃんが私の腕を取って、逃げるようにその場を離れた。


          *


私と京ちゃんは、屋上まで一気に駆け上がって共に息を切らしていた。


「ふぅふぅ。きょ、京ちゃん。私、なんかやらかした?暴力は振るってないよ?ただ、ゴミを解体しただけ。」


「はぁはぁ。わ、分かってる。めーこは何も悪くないよ。」


京ちゃんは私に悪くないと言いながらも、「しょうがない奴だなぁ」というような顔で苦笑いを浮かべていた。


また京ちゃんに心労をかけてしまったみたいで、申し訳なく思う気持ちと、京ちゃんの身内にだけ向ける感情そのままの表情に嬉しく思ってしまったりと複雑だった。


「ま。これで、めーこに関する事で、(反嘘コク以外は)秘密はなくなったわけだ。できる限りの事をしたのだから、他の生徒達がどう反応するかはなるようになれだ。どちらにしても、俺はめーこの側にいるよ?」


「京ちゃん…!」


私が「暴力女」として、全校生徒から顰蹙を買ったら迷惑をかけてしまうかもしれないのに、迷わず側にいると言ってくれる京ちゃんはやっぱりカッコいいなと改めて惚れ直したのだった。


ふいに、この前の上月先輩とのやり取りを思い出した。



京ちゃんの初恋の相手が誰なのか思い悩んでいた私に、そのヒントになるかもと京ちゃんのペンネームの意味を上月先輩が内緒で教えてくれたのだった。


「矢口のペンネームの『ハネブトン』羽根布団なんて眠そうな名前だって一度からかった事があるんだけど、矢口に『ブトン』は布団じゃないって言われたの。フランス語で『蕾』っていう意味なんだって。『ハネブトン』は、花になる前の蕾みたいな小さな女の子が天使の羽根を付けているイメージらしいのよ?私は矢口が小さい頃に出会った初恋の女の子を想像して付けたんじゃないかと思っているわ。(ここまで言えば、鈍い氷川さんにも分かるかしら?)」


え?

小さい頃に出会った女の子が初恋の人?


いたずらっぽい笑みを浮かべた上月先輩からそんな事を聞かされ、私はもしかしたらと期待を持たずにはいられなかった。


いつか京ちゃんに幼馴染みみたいな子はいないのかと聞いたとき、私(めーこ)しかいないと言っていた気がする。



私は、京ちゃんに勇気を出して聞いてみる事にした。


「あのさ。//京ちゃんの初恋の女の子ってさ…。ど、どんな子?」


「…!!」


京ちゃんは、私の問いに目を見開き…。

やがて、柔らかい笑顔になった。


「茶髪の子。」


私のヒーローはそう言うと…。


「京ちゃ…!//」

チュッ。


私の茶髪に優しく口付けたのだった。








*あとがき*


今まで読んで頂きまして、京太郎くんと芽衣子ちゃんを応援して頂きまして、本当にありがとうございました

m(_ _)m


尾岡れき様 @homuyan様

さかもり様 @well0125様

レビューコメントを頂き、素敵な言葉で、作品を表現して頂いてありがとうございました✨✨


近況ノート「投稿スケジュール2023年8月分」にも書かせて頂いたのですが、

芽衣子ちゃんの詩の中に、レビューコメントの言葉の一部を使わせて頂いたのですが、大丈夫でしたでしょうか。もし、ご不快なところがありましたら、修正しますので、お知らせ下さいね。

尾岡様につきましては、既にコメントの使用に、許可を頂いています。ご快諾頂きまして本当にありがとうございました✨m(__)m✨


次回から6話分おまけ話となり、9月第一週は、平日毎日投稿となり、

9/5(火)〜4話分エピローグのお話を投稿させて頂く予定です。


よければ今後ともどうかよろしくお願いします。


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