第216話 反嘘コク同盟の登校

「わぁ…。氷川さんと嘘コクの矢口だ…。」

「くそっ…。朝からイチャイチャしやがって…!」

 


昨日の小説対決で起こった事については参加者には他言無用と厳しく言い渡されていた為、まだ噂になっている様子はなかったが、

二人手を繋いで登校した俺達は、最寄り駅からの通学路、同じ学校の生徒達の注目を浴びていた。


「な、何だか、俺達、噂されてないか?手、繋ぐのやめようか?」


以前帰りに手を繋いで帰った時はそこまでではなかったが、朝は流石に人が多く、好奇や嫉妬の視線が気になった俺がひそっとめーこに窺ったが、めーこは眉を顰めそんな俺を叱るように言った。

 

「何言ってるの。京ちゃん。反嘘コク同盟の誓いを忘れたの?ここでイチャイチャを見せつけておかなかったら、また、京ちゃんに嘘コクの餌食にしようとする女子が現れるかもしれないでしょう?

ここできちんと駆逐しておかないと!!」


ふんっと鼻息荒く宣言すると、めーこは手繋ぎしてない方の拳に力を込めた。


「いや、もう今更俺に嘘コクしてくる奴なんていないんじゃないかな…。」


「ガチ告はもっとたちが悪いよっっ!!」


「いや、もっといないだろ。俺、そんなモテないって…。」


キーッとムキになって叫ぶめーこに俺はナイナイと手を振ったのだが…。


「はぁーっ。京ちゃん…。自覚がないから、余計に心配なんだよぉ…。」


めーこにため息をつかれ、ジト目で見られたのだった。


          *

          *


「マキちゃん?」

「笠原さん?」

 

「あっ!芽衣子っ!!矢口先輩っ!!」


笠原さんが、昇降口付近でキョロキョロしていて、俺達を見つけると手を振り、走り寄ってきた。


手を繋いでいる俺達を見ると、笠原さんはホーっと胸を撫で下ろした。


「芽衣子、元気そうでホントよかったぁ…。」

「うわ〜ん、マキちゃん。心配かけてごめんよぉ…。」


めーこは、目元をウルウルとさせて笠原さんの袖を握った。


「笠原さん。昨日は本当にごめん。めーこと話し合って、俺達…。」


俺も笠原さんに向き合って、話し出そうとすると…。


「ああ。芽衣子から聞いてますよ?今度は、恋人同士になったんですよね?」


「あ、ああ。そう…。そう…なんだよ…。」


にっこり笑顔で言い当てられ、俺は自分自身を殴りたいような気持ちになった。


笠原さんに「(めーこに)俺の全部をかけて気持ちを伝えたいと思ってる。」

なんて宣言したくせに、肝心のところでヘタレて、めーこと「反嘘コク同盟」を結成する流れになってしまった。

めーこを心配しながらも、応援してくれた笠原さんには合わせる顔がないのだった。


「矢口先輩、ちょっとこっちへ…。」

「は、ハイ…。||||」


「マキちゃん?💦」


俺は屠殺直前の家畜のような気持ちで、笠原さんに引っ張られ、めーこから少し離れたところに連行された。


しかし、笠原さんは、俺にいたずらっぽい笑みを浮かべて、俺にひそっと囁いた。


「ふふっ…。矢口先輩も芽衣子も本当に面白いですよね。好きなら好きって言えばいいのに、また頓狂な肩書きを作って…。

でも、そうまでして、一緒にいたいって事なんでしょ?」


「…!!」


「私は芽衣子が幸せなら何でもいいですけど、いつかは、ちゃんと好きって言ってあげて下さいね?」


「あ、ああ…。頑張るよ…。///」


念を押され、俺は真っ赤になりながら、笠原さんに返事をした。


それまで俺達の様子を心配そうに見守っていためーこは、ワタワタと手足を動かして抗議をし出した。


「マ、マキちゃぁん…。反嘘コク設定上とはいえ、京ちゃんは私の彼氏さんなんだよ?

ヒソヒソ話をして、誘惑したらいけないんだよぉ?」


「はいはい。心配しないの。芽衣子のスリーサイズを教えてあげていただけだよん!」

「ええっ…!?//」

「いや、ちがっ…。//」


でまかせを言われ、驚くめーこに、慌てる俺。


「ふふっ。嘘だよっ。芽衣子と仲良くして下さいねって言ってたの。ホラホラ、二人手を繋いで?」

「「!!」」


笠原さんは、おどけた様子で舌を出し、俺達の手を重ね合わさせた。


「芽衣子、今日は私先行くね?またあとでっ!

矢口先輩、めーこをそのまま教室まで、ゆ〜っくり連れて行ってあげて下さいね?」


「マキちゃん…。」

「笠原さん…。」


笠原さんはそのまま、サーッと昇降口の方へ走って行ってしまった。


「俺達も行こっか?」

「うん!」


俺とめーこはお互い顔を見合わせて、クスッと笑うと、握った手に力を込めて、歩き出そうとしたところ…。


「芽衣子ちゃん…!!矢口…!!」

ドサッ。


「「!??」」


突然後ろから名前を呼ばれ、物が落ちる事がして俺達が振り向くと…。



「ううっ。うまくいったんだね?よかったあぁっっ…!!うわああっ…!!」


「柳沢?!」

「柳沢先輩?!」


そこにはカバンを取り落とし、号泣する柳沢の姿があった。

 

「ううっ…。昨日、マキちゃんから、概ねうまくいったみたいよ?って聞いてたんだけど、この目で見るまでは心配でっ…!


私が芽衣子ちゃんに嘘コクミッションを勧めてしまった為に、矢口だけでなく、芽衣子ちゃんにまで傷付けてしまったのなら、

私、もう、どうしたらいいのかって…。うわあっ!うわあぁっ!!

やぐぢ、めいごぢゃん、ほ、ほんどによがっだよおぉっっ!!」


「柳沢…!」

「柳沢先輩…!」


俺達は、ボロボロ涙を流す柳沢を呆気に取られて見守るばかりだった。


以前俺に嘘コクをしてしまった事に、ずっと罪悪感を持ち続けていた柳沢は、

俺が嘘コク関係を解消して、芽衣子ちゃんが学校を飛び出して行ってしまった事に更に

心が限界を越えるぐらい責任を感じてしまっていたらしい。


俺とめーこが仲良く登校しているのを見て、安堵のあまり、脱力したのか、柳沢は四つん這いになって号泣し続けた。


「ふだりども、いままで、ごべん、ごべんねぇぇっ…。じあわぜになっでねぇっ…。うっうっ…。わだじ、ふだりのだめならなんでもずるからねっ。」


「い、いや、昨日の事は柳沢のせいじゃねーし、そんな泣くほど懺悔しなくていいよっ。とにかく落ち着けって。」


「そ、そうですよっ。柳沢先輩っ。色々協力もしてもらいましたし、私と京ちゃんはこの通り、ラブラブですから、泣かないで下さいっ。」


「うわああっ!!ふだりども、わだじなんがにやざじぐしなぐでいいんだよっ!!」


俺とめーこが慌てて柳沢の側にかがみ込み、

順番に宥めるも、余計に泣きじゃくり、埒が明かなかった。


途方に暮れている私達の元へ、一人の男子生徒が駆け寄ってきた。


「梨沙っ!!昨日のアレ、どういう事だよ?!」


「!!」

「「!?」」


そう言って、泣いている柳沢に詰め寄ったのは、彼氏の柏木くんだった。


「いきなり別れるって言われても、納得できないよっ!ちゃんと説明してくれよ…!」


「「?!!」」


「りょ、りょうくん…。」


「や、柳沢先輩…。もしかして、昨日の事に責任を感じ過ぎて、柏木先輩に別れ話をしたんですか…?||||」

「ええっ?そうなのか?柳沢?!||||」


めーこの青褪めながらの質問に目を剥き、俺も追求すると、柳沢は気まずそうに俯いた。


「う、うん…。ぐすっ。だって、こんな状況で、わだじだけがじあわぜになんてなれないと…おもっで…。」


「「ええっ〜!!」」


場所は昇降口前という目立つ場所で、登校してくる生徒達は俺達を遠巻きにしてザワついている。


簡単に状況を整理してみると…。


✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


俺&めーこ→仲良く手を繋いで登校


柳沢→俺達の様子を見て、四つん這いで号泣


柏木くん→別れを切り出され、柳沢に詰め寄  

っている。


✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


おおう…!何てこった…!


俺は思わず額に手を当てた。


いや、コレ、秋川がいなくても、二組のカップルの痴情の縺れとして、誤解されて噂される奴じゃねーの?


どう事態を収集しようかと頭を悩ませていると、めーこがずいっと柳沢の前に進み出た。


「柳沢先輩、さっき私達の為なら何でもするって言いましたよね?」


「う、うん。」


「だったら、言いますが!このタイミングで柏木先輩と別れたら、京ちゃんの初恋の人だった柳沢先輩がライバルになりかねず、余計に迷惑です!!やめてください!!」


めーこに顰めっ面で人差し指を突き出して

怒られ、柳沢はパチパチと目を瞬かせた。


「えっ、えっ、そう…なの?」


「はい。だから、気にせず柏木先輩とラブラブしといて下さい。柏木先輩、柳沢先輩をよろしくお願いします。」


「あ、ああ…。わ、分かった…?」


柏木も目をパチパチしながらめーこの勢いに押されるようまま頷いていた。


「じゃっ。それでは、お互い幸せになりましょうね?京ちゃん、行こっ。」


「あ、ああ…。じゃな。柳沢。柏木くん。」


俺達は呆然としてお互いに顔を見合わせている柳沢と柏木くんを残してその場を去ったのだった。


事態を一発で収めた手腕に惚れ直す思いで

隣のめーこを見遣る。


「めーこは本当にすごいな…?」


感嘆の思いを込めて、そんな言葉を漏らすと、めーこはキョトンとした顔をしていた。


「え?いや、さっきのは本当に思ってる事を言っただけだよ?」


嘘がないからすごいんだよな…。


大きな目を真ん丸にしている彼女を愛おしく思いながらも、彼女の言葉で訂正するべきところを指摘してやった。


「でも、一つ、思い違いしてるところがあったぞ?」

「思い違い?」


「うん。俺の初恋は、柳沢じゃないよ。」


「えっ!そ、そうなの?嘘コク7人の他にもライバルが?!だ、誰?誰が初恋なのっ?」


目の色を変えて、詰め寄ってくるめーこに俺はニヤリと笑った。


「う〜ん。誰かなぁ?」

「はぐらかさないで、教えてぇっ!」


めーこに力いっぱい、夏服の袖を引っ張られ、ユサユサされながら、俺は苦笑いを浮かべた。


いや、普通分かるだろうよ…。


俺の事を鈍いみたいに言ってくるめーこだが、案外自分だって鈍いんじゃないか?と思っていると…。


「あっ。矢口少年、芽衣子嬢。おはよう!」

「矢口。氷川。おはよう。」


今度は階段の上がり口のところで、白瀬先輩と金七先生に呼び掛けられた。


「「…!!白瀬先輩。金七先生。おはようございます。」」


俺とめーこが声を合わせて挨拶すると、白瀬先輩は、嬉しそうに顔を綻ばせた。


「二人息ぴったりで、ラブラブだな。その様子だと、昨日はうまく行ったみたいだな?」


「は、はい。おかげ様で…。//」

「エヘヘ。ラブラブだなんて…//(その通りなんですけどねっ?)」


「本当によかった。そんなラブラブなところに迷惑をかけて申し訳ないんだが昨日のケジメをつけさせてくれないか。」

「「??」」


俺達が照れながらの報告を喜んで聞いてくれた白瀬先輩だが、次の瞬間すまなそうな顔で手を合わせて来た。


俺達が不思議に思っていると、白瀬先輩の隣にいた、芳しくない表情の金七先生が俺達に話し掛けて来た。


「昨日はお疲れだったな。たて続けにすまないが、昨日起こったという暴力事件について、当事者として話を聞かせてくれないか?」


「「!??」」


俺とめーこは何事かと顔を見合わせた。

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