第211話 邂逅する幼馴染み達

場所をめーこの家のリビングに移して、テーブルの斜め隣に座って、

説明をし始めた俺に、めーこは素っ頓狂な声を上げた。


「えっ!嘘コク関係を解消して、上月先輩と話した後、私ともう一度関係を築き直したいと思ってくれていたの!?」


「あ、ああ…。後でもう一度話をしようと言ってただろ?はい。保冷剤ありがと。もういいよ。」


会話の途中に、借りていた保冷剤を返すと、めーこは、俺の頬を覗き込み安心したように頷いた。


「あ。はい。うん。大分腫れひいたね。

いや、上月先輩とイチャイチャしながら、ま、こんな感じで付き合う事になったから、ごめんね?みたいな話をされるんだと思ってた…。」


「なんだよ、ソレ…。めーこの中で、俺、どんだけ鬼畜だよ…。」


目をシパシパさせて、めーこにそう言われ、ショックを受け、俺は頭を抱えた。


「いや、でも、俺がめーこ…芽衣子ちゃんにちゃんと説明して、気持ちを伝えなかったのが、悪かったんだよな…。

嘘コク上とはいえ、俺、君と付き合って一緒にいられる事が嬉しくて浮かれてて、一緒にいる事で却って君が辛い思いをしていたなんて気付きもしなかった。

見限られても仕方ないよな…。」


肩を落として落ち込む俺に、芽衣子ちゃん(めーこ)は慌ててブンブン首を振った。


「そんな事ないよ!京ちゃんの側にいられて私も嬉しかったし、幸せだったんだよ!!

でも、今日の様子を見ていたら、私がいない方が、京ちゃんは幸せかもしれないと思っちゃったから!だから…!!」


「あ〜、俺おかしかったよな。今日は本当に色々あって…!ごめん!ホントごめん…!!」


真剣にそう言うめーこに俺は汗をかいて謝った。


「今日の朝、忘れ物を取りに家に戻ったら、母さんと、めーこの電話での会話を聞いてしまって…。そこで、芽衣子ちゃんが幼馴染みのめーこだって事を知ったんだ。」


「…!!!」


めーこは、目を見開いた。


「それと、京介おじさんが、俺の実の父親だって知って…」

「うっそぉっ!!||||」


言い終わらない内にめーこが叫んだ。


「そ、そんなの、嘘だ…!だって、京ちゃん全然京介おじさんと似てないじゃんっ!!凪叔父さんがお父さんだって言われた方がまだ納得できるよ…!!」


「めーこ…。」


青褪めて心底ショックを受けている様子の

めーこに俺は泣き笑いの表情になった。


何で、嘘のつけないこの子が俺を謀っているなんて疑心暗鬼になっていたんだろう?


思えば、めーこの話をすると途端に挙動不審になる彼女は、最初からボロ出まくりだった。


俺が彼女の見たいところだけを見ていたから、気付けなかっただけなんだ…。


「京ちゃん、だ、大丈夫なの…?」


「う、うん。ショックだし、まだ受け入れられないけど、時間をかけて気持ちの整理をしていくつもりだよ。」


俺に傷付けられたにも関わらず俺をいたわり、心配そうに声をかけてくる彼女の前で、強がりでも前向きな言葉を言わずにはおれなかった。


疑心暗鬼になっていた時、自分を取り巻く世界が醜く歪んで変わってしまったと思ったが、彼女がいなくなってしまったかもしれないと思った時の辛さに比べれば何でもなかった。

俺は、あの時世界が終わってしまったように感じた。


「そ、そっか…。ショックな事を二つ同時に知ってしまったんだね…。ごめんね。京ちゃん、自分の正体の事、もっと早く言えばよかったんだけど、なかなか言い出せなくて…。」


「いや、俺の方こそごめんだよ。今思えば、めーこは何度も言おうとしてくれてたのに

聞いてあげられなくて。


小説対決で忙しいからって、言うのを待って

くれてたんだもんな。辛かったよな…。」


めーこの頭をポンポンすると、彼女は俺のシャツにしがみつき、また綺麗な涙をポロポロ零す。


「う、うん…。きょ、京ちゃん〜。ゔぇぇっ。私、ずっと、めーことして会いたかったんだよ〜〜。」


「お、俺もっ、会いたかったよ。めーこ。」


俺も涙を堪えながら、幼馴染みにずっと言えなかった気持ちを伝える。


「めーこ引っ越す時俺の事を『ヒーロー』だって言ってくれたろ?それが忘れられなくってさ。


今度めーこに会う時があったら、最低限ガッカリされないような自分でいたいって、そう…思ってたんだ…。


まあ、結果はこんなんで、散々だけどさ…。」


気まずく頭を撫で付けた俺に、彼女は大きく頭を振った。


「そんな事ない!京ちゃんは立派だったよ…?再会してから、私がこの目で見てきた京ちゃんも、他の人の話に出て来る京ちゃんも、誠実で素敵な人だったよ!!


いつも、人の為に一生懸命過ぎて、もっと自分の事を考えて欲しいと、見てて痛々しくなるぐらいだったよ…。」


「め、めーこ…!」


すごい剣幕で主張され、俺が圧倒されていると、彼女は辛そうに顔を歪めた。


「あの時の私の言葉が…、京ちゃんを縛ってしまっていたのかな…?」


『京ちゃんは、私のヒーローでした…!これからもずっとそうだよ!!』


幼き日に勇気をくれた言葉…。その言葉をくれた彼女に俺は静かに首を振る。


「違うよ?めーこ…。その言葉は…俺の心の支えだったんだよ…。ありが…とうっ。」


堪えきれずに零れた涙がテーブルにいくつもシミを作ってしまった。


「うっ…。ううっ…。」

「きょ、京ちゃ〜んっ。ううっ。」


めーこに会えた嬉しさからなのか…。

芽衣子ちゃん(めーこ)へ寄せる想いのためか…。

やっとお互いに向き合える安心感からなのか…。


俺はめーこに寄り添い、しばらく涙が止まらなかった。


「ずっ…。め、めーこは、強くて綺麗な子になったな。きっと、会わない間にすごく頑張ったんだな。

パッとしない俺とは大違いだ。」


「ぐすっ…。何言ってるの!京ちゃんの輝きに比べたら

私なんか、全然だよぉ!!今、特に泣いてブサイクになってるし…。やっと、京ちゃんに「可愛い」と言ってもらえるようになったのに、これじゃ、台無しだよぉ…。あんまり、顔…見ないでね?」


めーこは、腫れた赤い目を気にしてか、片手を目に翳した。


「ずっ…。別に隠さなくても…。めーこは泣いてても綺麗だよ。」


「!!///(京ちゃん!また、殺し文句を…!!)」


本心から言ったのだが、めーこは、更に恥ずかしがって、両手で顔を隠してしまった。


「う、嘘だぁ…。さっき、鏡で見たらすごい事になってたもん…。」


「ホントだよ。めーこは小さい頃から可愛かったのに、前髪で顔隠しちゃって勿体ないと思ってたんだよ。もう、隠さない方がいいよ。」


「え?ホント??小さい頃から可愛いと思ってくれてた??」


覆っていた両手を緩めて、隙間からこちらを窺うめーこに力強く頷いてやった。


「ああ。なんなら、前髪隠してる状態でも可愛かったよ。

めーこ、リアクション大きいし、口角の上がり下がりとかで考えてる事すぐ分かって…。」


「そ、そんな風に思ってくれてたんだぁ…。小さい頃の私、パッとしないから、最初の内は、せっかく今の私を『可愛い』と言ってくれてるのに、正体を明かすと幻滅されるんじゃないかと思って、それで言えなかったんだぁ…。」


「何だよ、ソレ…。そんな訳ないじゃん…。」


お互いに脱力しつつ、俺達は顔を見合わせて

笑った。


自分に自信がなくて、本当の自分を見せて、幻滅されるんじゃないかと、怖くなる気持ちは俺にもよく分かる。


俺も『芽衣子ちゃん』に対してずっとそうだったんだから。


今、好意を向けてもらっていても、彼女は俺を誤解しているだけで、本当の自分を知ったら背を向けてしまうんじゃないか?


彼女と共に過ごし、惹かれながらも、そういう怖さが常に俺の中にあった。


だから、少しでも釣り合いが取れるように、何か目に見える結果を出したかった。


小説対決に向けて、必死に取り組んで来たのは、そういう動機もあったのだが、

彼女に何も説明しない、独り善がりな行動は、上月への想いを印象付けてしまい、酷く彼女を傷付けてしまった。


彼女が隣にいてくれる今、きちんと話して置かなければならない事があった。



「聞いてくれる?君に、小説対決に向けて、俺の事を見てて欲しいって言ったのはさ…。」


「は、はいっ…。」


改まった言い方をする俺にめーこは緊張気味に背筋を伸ばした。


「俺は才能のある人間じゃないから、正攻法では誰にも勝てない。

策を弄して、時には自分が勝てない結果すらも利用する。そういうやり方でしか、人に関わっていけない。


それを君に知って欲しかったからなんだ。


そういう自分でも、この先も君の隣にいていいのか…。」


そう言いながら、チラッと窺うと、彼女は、

満面の笑みを浮かべていた。


「京ちゃん…。私の答えは、ずっと前から決まってるよ?

人の為に必死に頑張るあなたの隣で、私は、あなたを守って、支えてあげたいの。」


「めーこ…!」


優しく微笑み、テーブルの上で組んだ俺の手に小さな温かい手を重ねてくる彼女に、俺は胸に熱い思いが込み上げて来た。


「ありがとう…。今まで、待たせてごめん。再会した時に告白してくれたのに、勝手に嘘コクって決めつけて…。あれは…嘘コクじゃなかったんだよな…?」


「…!!! はい…。嘘コクじゃありませんでした…。///」


俺の問いに、彼女は頬を染めて頷く。


「嘘コクじゃなくて…。」


俺は、そこまで言って、照れ臭さに言い淀んだ。



「嘘コクにまみれた俺を守る為だったんだよな?いわば、感じの?」


「?!!」


ん?俺、何言ってんだ??

勢いでなんか変な事言ってしまった。



目の前で微笑んでいた茶髪美少女は、一瞬で顔を引き攣らせ、石のように固まった。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


「聞いてくれる?君に、小説対決に向けて、俺の事を見てて欲しいって言ったのはさ…。」


「は、はいっ…。」


斜め向かいの席に座っている京ちゃんに

不意に真剣な表情で話しかけられ、何か大事な事を伝えられる予感がして、私は緊張気味に背筋を伸ばした。


「俺は才能のある人間じゃないから、正攻法では誰にも勝てない。

策を弄して、時には自分が勝てない結果すらも利用する。そういうやり方でしか、人に関わっていけない。


それを君に知って欲しかったからなんだ。」


京ちゃん…!


京ちゃんが頑張っていたのは、これからの自分の生き方を私に示すためなだったんだね…。


嘘も虚飾もない言葉で、語られた彼の思いを知り、私は胸が熱くなった。


「そういう自分でも、この先も君の隣にいていいのか…。」


そう言いながら、こちらを不安気にチラッと窺う京ちゃんを、丸ごと抱き締めてあげたい気持ちになりながら、私は満面の笑みを浮かべた。


「京ちゃん…。私の答えは、ずっと前から決まってるよ?

人の為に必死に頑張るあなたの隣で、私は、あなたを守って、支えてあげたいの。」


「めーこ…!」


私は京ちゃんに微笑み、テーブルの上で組んだ彼の手に私の両手を重ねた。


緊張しているのか、彼の手は少しひんやりしていてた。


私の手は彼より小さいけれど、側にいて、少しでも温めてあげられるのであれば…。


彼が私を必要としてくれるのであれば…。


私はもう迷わないし、いくらでも強くなれると心から思った。


京ちゃんは目を潤ませていた。


「ありがとう…。今まで、待たせてごめん。再会した時に告白してくれたのに、勝手に嘘コクって決めつけて…。あれは…嘘コクじゃなかったんだよな…?」


「…!!! 」


京ちゃんの言葉に、私も目を潤ませた。


ああ…。やっと、再会した時の告白をやり直せる時が来たんだね…。


今度こそ、本当の思いを告げる時が…。


万感の思いを込めて私は頷いた。


「はい…。嘘コクじゃありませんでした…。///」


「嘘コクじゃなくて…。」


京ちゃんは、そこまで言って、言葉を切り…。



「嘘コクにまみれた俺を守る為だったんだよな?いわば、感じの?」


「?!!」


ん?京ちゃん、何言ってんだ??


私は瞬間、顔を引き攣らせ、石のように固まった。










*あとがき*

京太郎くんが、やらかしまして、大変申し訳ありませんm(_ _;)m💦


次話は8千字近くになり、長いですが、ご都合良いときに読んで下さると嬉しいです。


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