第197話 『翼族の兄弟』千堂沙也加(?)作


『翼族の兄弟』


〜あらすじ 〜

〈一章〉

翼族の血を引く兄のソランと、弟のアランは

孤児となっていたところ、年配の冒険家に拾われ、その故郷の村で冒険家の孫娘、エリシアと共に分け隔てなく育てられる。


時は流れ、アラン(弟)が15才の誕生日を迎えた日、街に出稼ぎに行っていたというソラン(兄)が、幼馴染みのエリシアとの結婚の為、数年ぶりに村に戻る。

エリシアに想いを寄せていたアランは複雑ながらも、二人を祝福する事にする。


しかし、婚儀の途中で、村の秘宝がお披露目された折、突然帝国軍が現れ、村は焼き払われる。

ソランは帝国軍の一員であり、婚儀は村の秘宝を奪うための計略だったのだった。


裏切られ、ショックを受けるエリシアと元冒険家の祖父は怒った村人達に襲撃を受けるが、すんでのところで、エリシアは翼を広げたアランに助けられ、祖父は帝国軍と行動を共にしているソランに拉致される。


村を追われたエリシアとアランは優しかったソランが変わってしまった原因を探るべく、

仲間と情報を集め、ソランが過去に行ったという『翼族の国』へ向かう事にする。


〈二章〉


アランとエリシアは、仲間と共に『翼族の国』へ行き翼族の人々に最初は歓待を受けるが、寝込みを襲われ、危うく殺されそうになる。


翼族は、もともと傷が治りやすい特性を持っており、また、一人の個体からクローンを作り、何百年もその記憶を引き継げる独自の技術を持って、その一族の秘密を守る為、よそ者を容赦なく排除する排他的な一族だった。


翼族に、人間の血を引くアラン、ソランもよく思われておらず、一族の秘密が漏れたのではないかと疑い、情報を聞き出した後、殺そうとしていた事が分かった。


村の人達からどことなく差別をされてきたソランは、自分の居場所を求めて母の故郷に向かったものの、翼族の人々にも壮絶な扱いを受けて命からがら逃げ、荒んだ気持ちのまま辺境の街を彷徨っていると、以前実の父も研究職で所属していたという軍部に勧誘されていたという事実を知り、胸を痛めるアランとエリシア。


仲間と共に翼族の国から逃げ、再びソランと対峙するアランとエリシア。


ソランは、軍部で幹部に上り詰める傍ら、

亡くなった実の父が取り組んでいたクローン技術を使って不老不死を目指す研究を引き継ぎ、あと少しで完成させられるところまできていた。


記憶を引き継ぎ、永遠に死なない体を作る事の有用性を熱く語るソランに、今までの彼の孤独を思い、涙するエリシア。


アランは迷った末、ソランに語りかけようとする…。


✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


(芽衣子視点)


私はあらすじを読み終わり、ほうっと息をついた。


(すごい…。あらすじだけなのに、上月先輩の小説、ストーリーにグイグイ引き込まれる…。京ちゃんが、このお話をどうしても守りたいという気持ち分かるよ…。)


周りを見渡すと、紅先輩も、碧先輩も、周りの参加者の人達も、上月先輩の小説に感心している表情だった。


「さて、大体読み終わりましたかね…?」


参加者が資料から目線を上げたのを確認すると、生徒会長は、千堂さんに顔を向けて呼びかけた。


「では、千堂沙也加さん。この続きの部分にあたる小説を読み上げて下さい。」


「はい…!」


教卓の方に進み出た千堂先輩は、資料を手に、堂々とした態度で、小説の続きを朗読し始めた。


「翼族の弟アランは、兄のソランに再会してこう言った。

『ソラン。俺も周りの皆にずっと奇異の目で見られてきた。

ソランの気持ち、分からない訳じゃない。


クローン技術で、永遠の命をえられるとか、途方もなさすぎて俺にはよく分からないけど、病気やケガをした人の治療に役立てるなら、悪い事じゃないと思う。


大事な人や信念を守る為に力とお金が必要というなら…、俺も帝国軍に入ってソランに協力するよ。』

『アラン…!』

ソランは笑顔を浮かべるとアランの手を取り、エリシアは悲しげにその様子を見守っていた…。……。……。」


私は千堂さんが朗読しているという事が気にならなくなるぐらい集中して、その話に聴き入っていた。


それから、弟のアランも軍部に入り、翼族の能力を使って、功績を上げていき、幼馴染みのエリシアもその様子を見守り、危険な任務につく時にお手製のお守りを渡すという話の展開になっていた。


弟のアランが身を削って戦う姿に、兄や幼馴染みの女の子への思いが痛い程感じられ、私も胸の痛む思いだった。



それを私は知っている。


恐らくは、京ちゃんがダミーとして用意した原稿を左門先輩が盗み、それをそのまま千堂先輩が盗用したものだろう。


その事を許せないと思いながらも、こういう事がなければこの作品が作られる事も、人の目に触れる事もなかったと思うと、私は複雑な気持ちになった。


私は、やっぱり、京ちゃんの意向に添うことも、読書同好会の皆の力になる事もできない…。


瞬きもせず、千堂先輩が朗読する物語を聞いている京ちゃんの真っ直ぐな瞳を見詰めながら、唇を噛み締め、私は静かに裏切りの決意を固めた。


(千堂沙也加視点)


「アランは、敵側に翼を撃たれ、地面に真っ逆さまに落ちて行った。

草原を赤い鮮血が染め上げていた…。」



私は得意の美声を張り上げて、『翼族の兄弟』の続きの物語を読み切った。


感嘆の表情から、参加者の皆がこの物語に引き込まれていたのが分かる。


左門と目が合い、お互いにニヤリと笑み


まぁ、当然よね?


『翼族の兄弟』の本当の作者が書いたものを

読み上げているんだから。


上月さんは、青褪め、目を見開いて私の発表を聞いている。


自分の原稿が読み上げられて、信じられないって表情よね?


悪く思わないでね?


あなたが、頑ななおバカさんで、紙の原稿にこだわったからいけないのよ?


おかげで、左門に協力してもらって原稿を持ち出し、自分のものとして発表する事が出来た。


こういう事をするのは、初めてではない。


もともと家柄が良かったり、裕福な家庭の子を優遇する傾向にあった文芸部において、父は有名化粧品メーカーの社長、母は教育委員長の私は、先輩方に可愛がられ、入学当初から次期部長になるように頼まれていた。


文才も当然それに見合うだけのものが期待されている中、私は同学年の鈴城さんの才能に目を付けた。


左門の父は父の会社の幹部であり、家族同士で付き合いもある左門に頼んで、彼女について調べてもらうと、彼女の父親が父の会社の系列会社で働いている事が分かった。


そこで、彼女にコンクール用の作品の読み合いを呼び掛け、雑談で彼女の気を引いている間に、左門に作品を画像に取らせ、その日の内に顧問に提出した。


盗作された事を知った彼女は私に抗議したが、告発するなら父親の仕事に影響するかもと言うと、泣き寝入りしてくれて、そのまま部を辞めてしまった。


ちょっと悪いとは思ったけど、私のような輝かしく、素晴らしい世界が似合う人の踏み台になれたのだから、むしろ光栄に思って欲しいわね。


その作品は、文芸コンクールにおいて、佳作を取り、部内でも学校からも称賛された。


文芸部に反発して新しい部を作った、読書同好会の上月さんが生意気にも努力賞を取ったのは驚いたけど。


今回の文芸コンクールでも成績で上月さんに負けるわけにはいかなかった。


そこで、左門のつてで、売れない小説家に依頼して金の力で原稿を書いてもらう事にした。


売れないとはいえ、プロに書いてもらっているのだから負ける事はまずないとは思ったけど、万全を期して、盗作騒動を起こしてやった。


これで、彼女の小説をお蔵入りにしてやったとおもったら、上月さんは往生際悪く、小説対決で本当の作者を明らかにすると提案してきた。

出しゃばりな風紀委員長も絡んで来て、その場の空気を変えてしまったので、私は仕方なく承諾したが、すぐに次の手を打った。


風紀委員長と対立しているであろう、生徒会長に参加するように声をかけ、他の参加者についても、懐柔できそうな奴は左門に賄賂を渡してもらい、文芸部の部員と合わせて過半数になるように事前に準備をしておいた。


そして、上月さんが後生大事に抱えていた原稿の内容を再び盗んでやった。


あの間抜けな読書同好会の顧問は、私が婚活パーティーの主催者を装って電話をかけると、またも喜んで飛び付き、職員室を出て行った。

その間に、大人しそうな文芸部の部員に職員室の中の注意を引き付ける役をさせ、その間に、左門に針金で机の引き出しの鍵を開けさせ、中の原稿をスマホで撮ってもらい、

すぐにパソコンで文章を起こし、顧問の蓮見先生に提出した。


だから、今、上月さんの資料と私の資料は全く同一のものになっている筈。


「千堂さん、ありがとうございました。

では、次は上月彩梅さん、続きの小説をお願いします。」

「はい!」


私が教壇を離れ、ちょうど席についた時、席を立った上月さんが眼光鋭く私を睨み付けた。


ふふっ。怒ってるわね。今頃気付いても後の祭りよ?


文芸部顧問が資料を配り始めたところ、異変に気付いた参加者が、指摘した。


「あのっ!資料、文芸部のものと同じ内容になっていますけど…?!」


私は隣の左門と顔を見合わせ、ニヤリと笑った。





*あとがき*


今回、198話と同時投稿になります。

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