第196話 悪い予感は現実に…!

〜小説対決開始時間15分前〜

会議室にて…。


(白瀬先輩視点)


「やっ。白瀬くん!今日は一つ宜しくね?」


「早坂生徒会長…!あ、ああ。宜しく。」


一抹の不安を抱えながら、私の左隣で議長の席に座る早坂生徒会長に挨拶をした。


私と彼は共に2年連続で風紀委員長、生徒会長をしていた為、割と仕事で関わり合う合う事は多かったが、今まで事務的な報告をする事はあっても、以前彼からの交際を断ってしまった気まずさもあり、打ち解けて話をする機会はなかった。


「千堂さんから、風紀委員長は読書同好びいきで、公正さに欠けるから、生徒会も参加してくださいと頼まれてね。


どうやら彼女、俺が以前君にこっぴどく振られた事を知っているらしく、文芸部寄りの判定をしてくれるものと思ってるらしい…。」


「…!」


早坂生徒会長にニヤッと笑ってそんな事を聞かされ、私は唇を噛み締めた。


そうではないかと思っていた。千堂は、自分に有利な状況にする為には手段を選ばないタイプの人間だ。当然小説対決における参加者の情報を集めているだろう。


「そういえば、読書同好会の矢口くん、前に君が嘘コクをしたと噂が立った事があったね。皆は、君がいつものように挨拶の意味で告白をしたと考えたみたいだが、俺は案外本気だったんじゃないかと考えてるんだけど、どう?」


「ははっ。邪推もいいとこだな…。生徒会長ともあろう者がそんな噂に惑わされてはいけないんじゃないかな?」


鋭い追求に私は冷や汗を流しながらも、ニッコリ笑うと、彼は興味深そうな笑顔になった。


「君でもそんな顔するんだな。一瞬余裕のない表情になった。」


「……。」


からかうような早坂生徒会長の言葉に警戒して睨み付けると、彼はクシャッとした人好きのするような笑みを浮かべた。


「ふふっ。そんなに睨まないでくれよ。

千堂さんがどんな思惑で俺を引っ張り出したにせよ、俺は君の事を恨んでないし、どちらの味方になるつもりもない。」


「…!」


早坂生徒会長の言葉の裏を探ってその表情を観察したが、取り敢えず、今のところ嘘をついている様子はなさそうで、私は内心ホッとした。


「公平な判断をしなければいけない立場ではあるけれど、君のお気に入りの矢口くんが所属している読書同好会の子がどんな面白いものを見せてくれるのか、楽しみにしているよ。」


「ああ。私も楽しみだ。彼ともう一人セットで気に入っている子がいるんだ。

ぜひ注目して見てくれ。」


私は早坂生徒会長に初めて心からの笑顔を向けた。


「へぇー、それは興味深いな…!どの子だろう?」


そう言うと、早坂生徒会長は、腕組みをして、会議室に続々と集まり始めた参加者の面々を見遣った。


美化委員長の鈴花や、図書委員の神条さんなど知った顔が混じっているのに、私が頬を緩めていると、文芸部と読書同好会のメンバーが入って来た。


文芸部の顧問、蓮見先生は、自信満々の様子の部長の千堂、左門、俯き加減な3名の部員を引き連れて来た。


そして、読書同好会部長顧問、新谷先生は、少し緊張している様子の上月さん、少し硬い表情の矢口少年、そして少ししゅんとした様子の芽衣子嬢、他のメンバーの様子を見ながら心配そうに顔を見合わせている小倉さん姉妹を連れていた。


「うん?読書同好会のメンバー、なんだかギクシャクしてるみたいじゃないか…?」


「本当だ…。おやおや、どうしたかな?」


早坂生徒会長の言葉に私は眉を顰めて頷いた。


早坂生徒会長の目から見ても、矢口少年と芽衣子嬢を中心に読書同好会のメンバーの様子はギクシャクしているように見えるらしい。


いつも、矢口少年と芽衣子嬢のイチャラブぶりを見ている私からしたら、余計に違和感がある。


この大事な局面に、大丈夫だろうか…?

私は心配しながら、彼らの様子を見守っていた。


(芽衣子視点)


放課後、私は警護の為上月先輩を教室まで迎えに行き、顧問の新谷先生の元で他の読書同好会メンバーと共に合流し、小説対決の行われる会議室に向かった。


京ちゃんは、変わらず私とは目を合わず、緊張している様子の上月先輩を励ましていて、

私はその様子をしゅんと見守るしかなかった。

気まずい雰囲気に、紅先輩、碧先輩が気遣ってくれて色々話しかけてくれた。


会議室には、壁側の席に校長先生、教頭先生、部活顧問の新谷先生が座り、


会議室テーブルがコの字型に配置された参加者の席には、最前列に、風紀委員長(白瀬先輩)、生徒会長、副会長、

黒板に向かって左側の列に読書同好会、

右の列に、文芸部の席があり、

その後を他の参加者の席が続いていた。

そこには、美化委員長の楠木鈴花先輩、図書委員の神条先輩など、知っている顔があって少しホッとしてしまった。


上月先輩と千堂先輩は、互いに無言で睨み合い緊張感を醸し出していた。


用意した席が埋まったところで、生徒会長の男子生徒が立ち上がり、話し出した。


「皆さん、今日は、読書同好会部長、文芸部部長の間で起こった問題について、解決をする参考になればという趣旨のもと、集まってもらってありがとうございます。


司会と進行を務めさせて頂きます生徒会長の早坂圭三郎です。

よろしくお願いします。」


そう言って、ペコリと頭を下げた。


隣の席の京ちゃんの様子を見ると、何故かあまり芳しくない表情をしていた。

あまり味方になってくれなさそうな人なのかな?


私は気になったものの、京ちゃんに詳しくは聞けないでいた。



「問題になっている小説の続きを両者に書いていますので、この場で原稿を読み上げてもらい、どちらが作者だと思うか皆さんに投票してもらいます。

そして、その投票の結果を参考に問題になっているコンクール用の作品をどちらの作品として提出するのか、あるい提出しないのか、

校長先生と教頭先生にご判断頂く事になります。

先生方宜しかったですよね?」


と生徒会長は、壁際の席にいる校長先生と教頭先生に爽やかな笑顔を向けると、

二人の先生達は何だか大事になって困ったというように顔を見合わせ、コクコクと頷いてハンカチで汗を拭いていた。


この学校は、普段から生徒の自主性に任せるという方針が強いらしいけど、この場において生徒達の熱気に押されて、校長先生と教頭先生は、ほぼ空気みたいになってしまっている。


生徒会長は、再び視線を私達に戻した。


「はい。では、小説の投票について説明します。今から、問題になっているコンクール用の小説「翼族の兄弟」のあらすじを読み上げ、文芸部部長の千堂さん、読書同好会の上月さんにそれぞれその続きの小説を読み上げてもらいます。


物語として違和感なく、素晴らしく作者に違いないと思う方を後で匿名で投票してもらいます。


投票は皆平等に一人一票。

参加者は、委員会代表者、文化部代表者それぞれ一人ずつ、文芸部代表者4名、読書同好会代表者4名、で計32名。


その後、質疑応答の時間を設け、投票の結果と共に校長先生、教頭先生にご報告する。そんな流れで行きたいと思います。何か質問等ありますか?」


「はい!」


千堂さんが真っ先に手を挙げ、私達同好会メンバーに緊張が走った。


「この度は皆さん、お時間取って頂いてありがとうございます。

盗作なんて卑劣な行為をする人がいるなんて、残念でなりません。その人は必ず報いを受ける事になると思います。」


千堂先輩は、悲劇のヒロインよろしく胸に手を当てて涙ぐむんでそう言うと、上月先輩の方をギッと睨み付けた。


この状況で自分が被害者であるかのように、振る舞う千堂先輩は、面の皮が厚いとしか言いようがない。、

私達読書同好会メンバーは彼女に怒りの視線を送り、上月先輩は半眼になり、ボソッと呟いた。


「(そう思うなら、自分を罰すればいいんじゃないの?)」


「原稿の管理には細心の注意を払っていましたが、相手の卑劣さから言って、また同じ手を使って陥れようとしてくる可能性も

あります。


そこで、もし、今回もう一度原稿が盗作されるような事があったら、この『翼族の兄弟』についてはコンクール提出を取り止めても構いません。

その代わりにその後調査の上、盗作した相手が判明した場合、その相手と所属している部活には厳しい処分をお願いします。」


千堂先輩は、生徒会長と校長先生、教頭先生それぞれにペコリと頭を下げた。


「あ、ああ。千堂さん。その場合はそのように対処しよう。上月さんも、それでいいね?」


校長が汗を拭きながら質問すると、上月は一瞬躊躇い、京ちゃんの方をチラッと見て、何かアイコンタクトをとった後、頷いた。


「はい…。分かりました。」


私はそのやり取りを聞いて不安に胸がざわついた。


さっき、左門先輩はダミーだという原稿を盗んだばかり。千堂先輩はそれを使って悪巧みを考えていて、その罪を上月先輩に擦りつけ、読書同好会を叩こうとしている事は間違いがないだろう。


それなのに、上月先輩にとっては、不利な状況になるかもしれないにも関わらず、その言い分をあっさりと飲んだのはどうしてなんだろう…?


京ちゃんとの何か取り決めた事でもあるんだろうか?

それとも、紅先輩、碧先輩も知っている事なんだろうか…?

もしかして、私だけが蚊帳の外なんだろうか…?

いつの間にか、私、京ちゃんの信用を失うような事しちゃってたんだろうか?


私が俯いていると、紅先輩、碧先輩が身を乗り出して、そっと囁いてくれた。


「(私達もよく分かりませんが、部長と矢口くん何か策があるんだと思いますよ?)」

「(私達に言えない理由があるんだと思いますよ?色々いい方へ行くと信じましょう?氷川さん?)」


「は、はいっ…!紅先輩、碧先輩。」


どうやら、紅先輩、碧先輩にもそれについては知らされていなかったらしい。

二人も戸惑っているだろうに、

わざわざ教えてくれた気遣いを有難いと思った。

私は涙の浮かびかけた目尻を慌てて拭って二人に笑顔を向けた。


「では、初めに文芸部、千堂沙也加さんの資料を配らせてもらいます。あらかじめ、あらすじの部分のみ、目を通して置いて下さい。」


生徒会副会長が参加者に声掛けしながら資料のコピーを全員に配布した。


『翼族の兄弟』

「翼族の弟、アランは、兄のソランに再会してこう言った。………。」


「…!!! ||||||||」


パソコンで作られたらしいその原稿を見た瞬間、私の懸念が現実になった事を知った。






*あとがき*


次回は、両者の小説対決、2話分同時投稿になります。

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