第193話 真実は突然に…!

〜小説対決当日〜


コンコン!!


「ねぇ、京太郎!そろそろ起きなくていいの?あんた、今日部活で大事な用事があるって言ってなかった?」


「はっ!!」


母に自分の部屋のドアをノックされ、俺はハッと飛び起きた。


「やべっ。寝過ごした…!」


側に置いてある時計を見ると、いつも家を出る時間の10分前だった。

知らずの内に目覚まし時計を止めてしまっていたらしい。


「ごめんっ!今日は朝飯いらないっ!!」


「うわっ!もう、せわしないわねぇっ!」


部屋のドアを勢いよく開け、母にぶつかりそうになりながら、俺はパジャマ姿で洗面所にダッシュした。


冷たい水で顔を洗い、寝起きで働かない頭を

無理矢理起こしながら、昨日の事を思い出す。


えーと、確か昨日は、また芽衣子ちゃんに家に来てもらい、色々手伝ってもらいながら、シナリオの仕上げをやってたんだよな。


小説対決の前に験担ぎで彼女に作ってもらったカツ丼、衣がサクサクしてて、メッチャうまかったなぁ…。


仕上がったシナリオを読書同好会メンバーにLI○Eで内容を送って。


上月向けのシナリオは、既に数回に分けて送っていたから、夜遅くにラスト1/4程を送って。

上月の小説の方は確か仕上がったって言ってたよな…?


あれ?芽衣子ちゃんはいつ帰ったんだっけ?


送って行った記憶がないぞ?

シナリオをLI○Eを送った時には、目の前にいて、

「色んなパターンを想定してるんですね!京先輩、流石です✨✨」と目を輝かせて感想を言ってくれてたよな。


その後の記憶がふっつり途絶えている。


「あんた、もう、ホンットにしっかりしなさいよっ?💢

今日はたまたま私の出勤時間が遅かったからいいようなものの…!

昨日も、せっかく氷川さんが来てくれてたのに、途中で寝てしまったでしょう!」


「あっ!!||||」


背後から母に叱られて青褪めた。


そうだ、思い出した…!

気付いたら、それから2時間程意識が飛んでいて、怒り顔の母にまたも芽衣子ちゃんを送って行ったと聞いて、頭を抱えたのだった。


すぐに芽衣子ちゃんに謝罪の電話を入れ、上月に、最後のシナリオを送るのも遅くなってしまった。


全てを終えて、その後、シナリオや、皆から得た情報を元に明日のシュミレーションをしていたら、寝る時間は明け方になり、結局こんな時間まで寝過ごしてしまった。


「今日で、部活の忙しい期間は終わるって言ってたわよね?ちゃんと氷川さんに埋め合わせするのよ?じゃないと、本当に見限られちゃうわよ?」


母にどやしつけられつつ、俺は家を出た。


「ああ…。分かってるよ!じゃあ、行ってくる!」


そう。今日の小説対決で、千堂との諍いにけりを付け、上月の盗作疑惑晴らし、「翼族の兄弟」を守る事が出来たら…。


俺は芽衣子ちゃんに向き合い、告白すると決めていた。

めーこの事は今も大事に思っているけれど、

過去の思い出として振り切らなければならないと思っている事も含めて、

嘘コクでなく、本当の彼女として隣にいて欲しいと伝えよう。


延び延びになっていた彼女の大事な話も、聞いてあげよう。


彼女が例えどんな話をしたとしても、その時の俺は彼女を受け入れる事ができる。


この時まではそう思っていた…。


         *


「あっ。そうだ!上月の奴、シナリオ、ちゃんと確認したかな?」


駅までの道で信号待ちをしている間、スマホを取り出そうとして、俺はスマホを家に忘れている事実に気付いた…。


「はぁ。もう、今日は遅刻確定だな…!」


走って家に戻り、なるべく母に気付かれない事を祈りながら、そろっと玄関に入ると…。


『そうなのよ。昨日は本当にごめんなさいね〜!』


母は奥の自分の部屋で誰かと電話で話をしているようで、俺が忘れ物を取りに戻っている事は全く気付いていないようだった。


ホッとして、自室に戻ると、充電器に繋がれたままベッドサイドに置きっ放しになっていたスマホを拾い、

また、そーっと家を出ようとした時…、奥の部屋から気になる会話が聞こえて来た。


『京太郎は、さっき、家を出たから大丈夫よ。ああ、私?今日は、健診があって出るの遅めだから時間は大丈夫。麻衣ちゃんは?ああ、今日は遅めの出勤なのね?』


麻衣ちゃん…?どこかで聞いたような名前だ…。誰だっけ…??


俺はしばらく考え…。


「っ…!!」


思わず声を上げそうになり、片手で口元を押さえた。


めーこのおばさんだ!!母は彼女の事を「麻衣ちゃん」と呼んでいた。


しばらく忙しくて難しそうと言っていたけど、やっと連絡がとれたのだろうか?

めーこは元気なのだろうか? 


どうせもう遅刻確定な事もあり、俺はしばらくその場で、息を潜めて電話の会話を聞く事にした。


『女の子は成長が早いっていうけど、芽衣子ちゃんは、本当に大きくなったのね…?

え?いえ、そんな。京太郎なんか、図体ばかり大きくなって、中身は小学生の頃と大して変わってないわよー。』


やっぱり…!


俺は息を飲んで、めーこについて話す、母の言葉を聞いていたが…。


『なんでも、部活で勝負事があるらしくて、験担ぎに昨日、芽衣子ちゃん、京太郎の為にカツ丼作ってくれたのよ。』


???


何を言ってるんだ?

昨日、カツ丼を作ってくれたのは(氷川)芽衣子ちゃんだろう?


「ええ。聞いているわ。今日、その部活のゴタゴタが終わった後、芽衣子ちゃん、自分が『めーこ』ちゃんだと、京太郎に話すと言っていたわね。」


??!!!


俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。


『いえ。いいのよ。最初に言いそびれてしまうと、なかなか後から言い出しにくくなる事ってあるものね。


あの子も、ちょっと難しいところのある子だから、もしかしたら、最初は受け入れるのに時間がかかるかもしれないけど、私からも上手く言って置くわ。


小さい頃からずっと想い続けてくれていて、高校まで追いかけて来てくれて、毎日お弁当作ってくれている子に、冷たく当たるような事があったら、私があの子にゲンコツくれてやるわ!』


「っ…!!っ…!!!||||」


思わずその場にガクッと膝を付く俺に母はもう一つ信じられない事実を漏らした。


『ん?あ、そうそう。父親の事もそろそろあの子に話そうと思ってるの。

ええ…。小さい頃から遠い親戚のおじさんとして接して来た京介があの子の実の父だと知れば、京太郎は驚くでしょうね。』


??!!!


『流石に同時に二つ知るのは、ショックが大きいでしょうから、芽衣子ちゃんの事が落ち着いてからでいいかなと思ってるんだけど…。


え?いやだ、そんな事気にしないで?だって、あの子にとって、今まで放ったらかしの父親より、いつも側に寄り添ってくれてる芽衣子ちゃんの方がよっぽど大事な存在でしょうし…、今回の事もあの人がようやく人並みに稼げるようになって来たから、京太郎に父親として名乗りたいって、ごり押ししてきたからだし…。』



芽衣子ちゃんが、めーこ??


京介おじさんが、俺の実の父親??


俺の母親は一体何を言ってるんだ…??


これ以上話を聞いていると気が狂いそうだ…。ここを離れなければ…。


俺はヨロヨロと立ち上がり、逃げるように家を出た。


その後、どのように学校まで行き、どのように授業を受けていたのか、全く記憶にない。


気付くと、昼休みになっていた。

教室を出ると、いつものように廊下で待っていたが俺に笑いかけて来た。


「あっ、京先輩!昨日はシナリオ作りお疲れ様でしたね?大分お疲れのようでしたから学校に来られるか、心配してたんですよ?

お顔が見られてよかったぁ!

「腹が減っては戦ができぬ!」

放課後の小説対決に向けてたっぷり栄養補給しましょうね?」


「…っ!!||||」


そう言って、大きな弁当箱を見せてくる彼女の目を俺は見ることが出来なかった。

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